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なんの変哲もない地方の教会。
「神父様! 今日もありがとうございます!」
恰幅のいい主婦が言う。
「いえいえ。お気になさらず。全ては女神様の御心のままに」
続いて若い男が目元を拭いながらこぼす。
「セネス神父。なんとお礼を言ったらいいか……貴方の言葉で俺がどれだけ救われたかっ……」
「それは貴方が救われる定めにあるお方だからです。女神様が決めたことです。私に感謝などせずともよいのです」
老人が袋を掲げながら言う。
「今日もお布施を持ってきました! 神父様!」
「ありがたく教会のために使わせていただきます。きっと女神様も喜んでおいででしょう」
ひっきりなしに話しかけてくる信者たち。あふれる喜びの感情と、手渡されるお布施。
──笑いが止まらん。
ここは最高神である"女神ヴィケ"を祀る地方の教会である。
俺の名前はセネス・グレゴリウス。この教会で働く18歳の神父だ。
膨大な神聖力のおかげで幼い頃に教会に入り、あっという間に孤児から神父になった。
神官の修行は大変だったが、寝床も食事もあったためなんとか我慢できた。
しかも、聞いた話によると神官は儲かるとのこと。
まさにその通りだった。
ニコニコと笑いかけて説法し、聖書を読んで、洗礼と称して聖水を垂らすだけで信者が金をくれるのだ。
もちろん、教会のためにも金を使う。だが、それだけでは金が余る。かなり余る。
だからこそ俺は一月に一回ほど、人目に触れない街まで行って豪遊するのだ。
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色街の飲み屋。
「えー。神父様なんですかー?」
「すごーい。じゃあ神聖力があるってことですよね?」
神聖力。それは奇跡の源。
「そりゃ山ほどあるよ。俺ほど神聖力がある人間はこの国にはいないさ」
「えーすごーい。お怪我の治療とかもできるんだよね?」
「できるけど教会で治療費って決まってんだよね。だから割に合わないって言うかさぁ。あ、治療費って言ったらまずいか。お布施お布施」
女が笑う。
俺はボトルに入ったワインを口に含む。強い酒精に視界がぐるぐる巡る。
お酒おいしー。
「私最近肩が凝っててさ。神聖力で治してくれたりしないかなー?」
「えー? どうしよっかなぁ。ほら? 治すにはさ? 触れないとだめじゃん?」
「きゃー!」
肩に触れようとすると、大袈裟に驚く女。
やはり商売女はいい。客も、店員も、揃って馬鹿馬鹿しいくらいの演技をする。
普段は敬虔な神官を装ってるため、羽目を外せるってのは気持ちがいいものだ。
「ほらほら。凝ってるんでしょ? 見せてみなさい」
「えーなんかやらしー」
踊り子の舞、酒の匂い、そして眩しい金貨。
「私のど乾いちゃったー」
「たーんと飲みなさい。店員さーん! 酒もっと持ってきてー!」
大笑いしながら両腕に女を侍らせ、机の上の金貨に目線を向ける。
やはり金、女、酒。これ以上に人生を彩るエッセンスはない。
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翌日の朝。
「神父様……。大丈夫ですか? 顔色が悪いですが?」
「だ、大丈夫です。うっぷ……」
「体調が悪いようでしたら今日のお祈りは中止にしても」
「いえ、問題ありません……」
祈りなくしてお布施はないのだ。これだけは休むわけにはいかない。
教会に勤める神官にとって祈りは重要だ。
なぜなら、神聖力を蓄える儀式でもあるからだ。
奇跡を起こす神聖力がなければ、教会のほとんどの仕事に携わることはできない。それはつまり、金にならないということ。
「ふぅ……」
深呼吸をして落ち着かせる。
俺には一つだけ、誰にも言えない秘密がある。
それは、自分自身に神聖力を使えないということ。
そのせいで、二日酔いもこのように耐えるしかない。
他の奴らは自分に奇跡を使わない人格者として見てくれてるから、今のところは大きな問題はない。
だが、バレたらとんでもないことになるだろう。
「そ、それでは祈りを始めます」
教会に集まった民たちが、一斉に手を組む。
俺は震える手を組み、祭壇に向かって祈りを捧げる。
「女神様……」
(このくそ女神。なんで俺だけ自分に神聖力が使えないんだよ。それが出来れば二日酔いに苦しむこともないってのに。願わくば俺が自分に神聖力を使えるように取り計らって下さい。そして、もっと金を稼がせてください。そしたら教会もやめて美しい妻を娶って、きゃっきゃうふふな毎日を)
──この罰当たりめが。
「ん?」
なんか、めちゃくちゃ寒気がする声が聞こえたぞ。
「どうされました? 神父様」
「あ、いや。なんでもありません……続けましょう」
もう一度手を組み、目を閉じると急に体が重たく感じた。
「あ、これやばいかも」
やっぱり昨日飲みすぎたか。
「神父様!? 神父様ー!」
助祭の声が遠くなる。
全身が痺れるような感覚に抗えず、俺は意識を手放した。
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「う、ん?」
気がつくと石畳の上にいた。辺りを見回すと精巧な石の柱が幾つも立っている。
辺り一面真っ白で目が痛くなるほどだ。
「なんだここ。神殿?」
「──平伏しなさい。このクズ」
冷たい声にギョッとして、思わず肩を震わせてしまった。
声のする方に視線を向けると、そこには透明な羽衣を身に纏う舞姫のような女がいた。
「うわ。すげえ美女……」
思わず口をついて出た言葉に、女は神々しいまでに整った顔に不快感を露わにした。
「貴方、私が誰だかわかる?」
「いえ。会ったことはないと思うのですが……」
「長々と話してると虫唾が走るから単刀直入に言うわ。私の名はヴィケ。貴方が日々悪態をついている女神よ」
女神を名乗る女が、俺に杖を向けながらそう言った。




