月雨
夢を見た。
覚えているのはただの一場面。
その日は激しい夕立と雷が、空気中のあらゆる穢れを清めた日だった。
夜の満月の美しさに、その青白い輝きに瞳を焼いた日だった。
夢の中、私はたぶん見慣れた我が家の廊下に立っていた。
夜だった。
障子窓は閉ざされていた。
私はその障子が、美しく瞬いているのを目にしていた。
まるで海蛍がそのまま和紙に染み込んで、あの青い燐光を散りばめているような光景だった。
夢の中の時間は曖昧で、記憶もすでに霞んでいる。
それでもきっと、私はしばらくその青い揺らぎに見惚れていたと思う。
唐突に、私はその障子窓を開けた。
重さも抵抗もなかったと思う。
きっと、私はこの幻想的な光の正体が外にあるのだと直感したのだろう。
きっと、その源を目にしたかったのだろう。
私はそれを、望み通りに叶えていた。
月があった。
大きな、本当に皓々とした満月だった。
空には雲も出ていた。
月明かりを受け、蓄え、輪郭をあやふやにさせる朧な光を纏っていた。
雨だった。
それが、障子窓に清らかな揺蕩いを生んでいたものの正体だった。
雲は、月光を蓄える雨雲。
雨は、月白色の、月の雨。
覚えているのは、たったそれだけ。
音があったかどうかも、よく思い出せない。
あっただろうか。
なかっただろうか。
もしもあったなら、それはどんな音であったのだろう。
それは美しく、透き通る、記憶すらも透明にするような音だったのだろう。
そう思えば、覚えていない事実すら輝いて思える。
私は聴き入っただろう。
そうして魅了され、こうして想いを馳せている。
うん。きっとそういうことなのだ。
叶うことなら、また見たい。聞きたいのはもちろん、感じたい。
月光に濡れるとは、いったいどんな感覚なのかを。
今日も少し雨だった。
私は夢に準備する。
窓をすっかり開け放ち、涼しい夜気を寝息へ変える。
それがあの夢を運んでくれると期待して。




