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王命を以てしても覆すことはできない状況

自分を叱咤するため「2月中の更新」を宣言した結果、こんな時間の投稿に!

謁見の間を出て暫く歩いたところで、アンドリューは立ち止まって自身の護衛騎士や侍従を下がらせた。

護衛騎士は渋々といった風情であったが、アンドリューが連れている男性が年老いた領主と痩せた錬金術師であることから、戦闘力は低そうだと判断した。実際には王宮どころか国ごと吹き飛ばせる怖い女性が同行しているのだが、一般常識では理解できないことなので気にしてはいけない。


「あらかじめ言っておくけど、下手な言い訳はしない方が良い。僕は狩猟大会でサラ嬢には助けてもらったし、グランチェスター家には借りがあると思ってるから忠告しておくよ」

「ご配慮いただき感謝いたします。しかしながら、当家に後ろ暗いことはございません」


絨毯が敷き詰められた廊下を音もなく歩きながらアンドリューがボソリと呟くように告げると、その背後を歩いていたグランチェスター侯爵はやや肩を落としながら答えた。


「僕は信じるけど、父上はそのように思っておられないようだ」

「不徳の致すところでございます」


王太子が呼び出した相手がソフィアであることから考えても、王太子が不信感を抱いている相手はグランチェスター侯爵ではないことは明白である。そもそも、グランチェスター侯爵は、強引にソフィアに同行しているに過ぎないのだ。


『侍従を寄こせば済むはずなのに、王子自ら迎えに来たってことは、この警告のためなのでしょうね。もしかして、私のことで王太子と揉めたのかしら?』


重厚な扉の前で足を止めたアンドリューは、思考を巡らせていたソフィアをチラリと見遣った。どうやら目的地に到着したらしい。


「お連れしました」

「入れ」


扉をノックしながらアンドリューが声を上げると、中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。そっとアンドリューが扉を開けると、その先は窓のない部屋だった。だが、壁と天井に複数の魔石灯が配置されているため、部屋の中はとても明るい。どうやら秘匿性の高い会談が行われる会議室のようである。


入室した瞬間、ソフィアは肌にピリッとした刺激を感じた。どうやらなんらかの魔法が働いているようだ。だが、部屋の中からこちらを窺う気配を察したソフィアは、表情を変えることなくアンドリューの後を追うように歩を進めた。


『何かを探るための魔法かしら? 何とも言えない不快な感覚ね』


部屋の中心にある大きな机には何枚かの地図が重なり合うように広げられており、奥には既に王太子と王太子妃が座していた。


概ね予想通りの光景に、グランチェスター侯爵とソフィアは気付かれないようアイコンタクトで今後の行動を確認し合った。背後に控えるリヒトとアメリアも状況を理解している。


「改めまして、王太子殿下、ならびに妃殿下にご挨拶申し上げます」

「グランチェスター侯は呼んでいないのだが」


不機嫌さを隠すことなく、王太子は息子のアンドリューに尋ねた。これにはグランチェスター侯爵自身が答えた。


「畏れながら、彼らは私の同行者でございます」


王族と言えども、貴族の同行者を勝手に連れ出すのはマナー違反である。しかし、王族の要求には黙って従う貴族が多いため、王太子はグランチェスター侯爵もそうすることを疑っていなかった。


「なるほど、こちらが無礼であった。よく考えればグランチェスター侯に直接尋ねるべきだったかもしれないな」

「何なりと」


グランチェスター侯爵が頭を下げると、王太子はすっと目を細めてソフィアを見つめた。


「そこにいるソフィアの正体を明かしてもらいたい。ソフィアの身分が最近作られたものであることはわかっている。これにはグランチェスター家も一枚噛んでいることは明白だ」

「畏れ入りましてございます」


王太子からの問い掛けに、グランチェスター侯爵は表情を変えることなく答えた。


「堂々としたものだ」

「調べればすぐにわかることを否定するほど愚かではございません。ソフィアを領民として登録し、商会の設立書類も私どもが作成いたしました。しかしながら、他国や他領から来た平民を、領民として登録することに違法性はございません」

「そう他国だ! アンドリューからも狩猟大会で交わされた会話の内容は聞き及んでいる。サラ嬢の母親はフローレンスの元王族だそうだな」

「御意にございます」

「確かにサラ嬢の容姿はフローレンスの王族の特徴と一致する。そして、サラ嬢と瓜二つであるソフィアについても、フローレンスの血族であることは誰の目からも明らかだ!」


『そりゃぁ怪しいよね。有力な貴族家に出処の分からない資金力を持った正体不明の商人がいるんだもん。それにしても、母さんの遺伝子は頑張りすぎじゃないかしら。他国の元王族の血を引いてることは隠しようがないし、もしかしたらアヴァロンの力を借りて復位を狙ってるとか思われちゃうかも』


興奮した王太子は、目の前の机を叩くように立ち上がって言葉を続けた。


「ソフィア商会と乙女の塔が己の資金力で補充可能な魔石を開発し、商売として成功させたことは素直に称賛できる。そこまでなら、商会長が他国から来た元王族であっても構わない。むしろ、よくぞアヴァロンに来てくれたと歓迎するべきだろう。だが、グランチェスターの小麦を独占し、小麦市場を意のままに操るというのであれば話は違ってくる。他国からの干渉を許すわけにはいかない!」

「畏れながら殿下、他国からの移住者ではございますが、ソフィアはグランチェスターの領民であり、アヴァロンの商人でございます」

「それを信じろと?」

「逆にお伺いいたします。ソフィア商会はアヴァロンに不利益をもたらしておりますでしょうか?」

「いいや。間違いなく利益の方が大きいだろう」

「では何が問題なのでしょう?」

「この状況を支配しているのがソフィアだということだ。ソフィアが否といえば否であり、王命を以てしても覆すことはできないだろう。ソフィア商会自身が作り出した商品に口出しするつもりはない。だが、穀物や塩など国民の命を左右する重要な物資は、限られた商人が統制することなどあってはならない。今は利益の方が大きいのかもしれないが、ソフィアの機嫌を損ねただけで国が立ち行かなくなるような状況に甘んじるわけにはいかない」


『あぁ、状況をしっかり把握しているわ。ロイセンのゲルハルト王太子と比較するのは申し訳ないけど、同じ王太子なら、こっちの方がずっと優秀ね。年の功かもしれないけど』


「殿下、私の口から申し上げてもよろしゅうございましょうか?」


ソフィアは静かに言葉を紡ぎ始めた。


「無論だ。そもそも私が呼んだのは其方だ」

「まず私の正体との仰せにございますが、正直申し上げますとグランチェスターで正式に登録されるまで、貴賤を問わず正式な身分を持ち合わせておりませんでした。これは、ジェノアやフローレンスで確認いただいても同じ答えが返ってくるかと存じます」

「それはどういうことだ?」


王太子は(いぶか)しそうな表情を浮かべつつ、どかりと椅子に腰を下ろした。


「私の母がフロレンティアの姓を持っていたことは否定いたしませんが、私自身はフロレンティアの一族として登録されたことはございませんし、家名を名乗ったこともございません」

「庶子ということか?」

「そうではなかったと聞いてはおりますが、幼い時分に両親とは死別しており、正確なことはわかりかねます。ただ、両親の結婚が互いの血族から認められなかったことは確かなようです。物心ついた時には既に平民として暮らしており、父の後を追うように母が亡くなるまで、この身に王族の血が流れていることすら知りませんでした」


アヴァロンでは、王族の『王室籍』と貴族の『貴族籍』は厳格に管理されている。特権階級である王族や貴族の場合、身分を詐称されないよう管理する必要があるためだ。貴族の子供として生まれても、貴族家の当主が届出をしなければ貴族としては認められず、貴族を優遇する法律の恩恵を受けられない。この仕組みは、アヴァロン以外の周辺国家もほぼ同様だ。


その一方で、平民を管理する『戸籍』は簡易的な仕組みでしか管理されていない。領主が領民を管理するために作成することもあるが、それもあまり正確ではない。戸籍の作成や維持にはコストが掛かるため、"すべての"平民の戸籍を作成するメリットがないのだ。


「つまり、其方は自分の身分を知らずに育ったということか。仮にそれが事実だとして、其方の莫大な資産はどこから……」


するとソフィアはふっと柔らかく微笑んだ。


「あまり堂々と申し上げるのは少しばかり憚られますが、とりあえずは妖精のお陰とだけ申し上げておきます」

「其方は妖精の恵みを受けているということか」

「御意にございます」


だが、王太子が言わんとしていることはソフィアにも理解できた。お金には流れがあり、莫大な資産には理由がある。ある日突然、誰も知らない大富豪が、空から降ってきたように現れるというのはあまりにも不自然なのだ。


平民として生まれ育ったのであれば、その存在を世間が知らないことは不思議ではない。何しろ平民を管理するための正式な戸籍は存在しないのだから。


ただし、例外がある。商売によって一定以上の利益を得る商人は、『どの領に所属している誰なのか』を所属する領と国に届け出なければならない。商売で得られる利益に税金を徴収することが目的なので、露店など個人が小規模な商いをする程度であれば目こぼしされることも多いが、明らかに逸脱している場合には脱税の罪に問われる。こうした課税制度は、アヴァロンだけでなく、周辺国にも同様の仕組みが存在している。


ここで登場するのが商業ギルドだ。大規模な商会ならともかく、規模の小さな商会や個人経営の商家などでは、登録や納税の手続きが煩雑で手に負えないことも多い。だが、商人が商業ギルドに加入さえすれば、国への登録や納税の手続きを代行してくれるのだ。


しかし、ソフィア商会はグランチェスター侯爵が自ら指示して設立させた経緯があるため、ソフィアおよびソフィア商会の登録は商業ギルドを通すことなく、直接グランチェスター領と国に申請している。ソフィア商会が商業ギルドへと加入したのは、商会が登録された後である。


このように領や国に直接申請する商会の大半は、大商会の一部の従業員が経営者と揉めて密かに独立した商会である。あるいは、貴族家との繋がりが深い商会の場合もある。ソフィア商会は明らかに後者であり、王太子がグランチェスター侯爵に詰め寄る原因でもあった。


なお、納税手続きの代行を商業ギルドに依頼すると、商会のお金の流れがギルドに筒抜けになってしまうため、納税だけは自分たちでやるという商会も少なくない。だが、ソフィア商会は、堂々と商業ギルドを経由して納税を行う予定でいる。


「其方もレベッカ嬢のように時を止めてしまっているのだな」

「私もオルソン令嬢も不老なわけではございません。怪我もすれば、病気にもなります」

「だが、妖精の友人を持たぬ身からすれば、其方らは不老と変わりない。しかも、それ程に麗しい容姿のまま長い時を過ごしてきたのであれば、密かに巨万の富を築けるのも頷ける。其方にすべてを捧げて尽くす男は山のようにいたことだろう。しかし、妖精と友愛を結べるのは身も心も清らな者だけだと思っていたが……必ずしもそういうわけではないようだな」


『なんだと。このオッサン失礼だな!』


言葉を濁すことで、相手が勝手に想像することはソフィアも理解はしている。それが少しばかり不名誉な想像であったとしても、事実ではないのでソフィア自身はまったく気にならない……というわけでもないらしい。失礼なことを言われれば、それが次代の国王であっても気分は悪くて当然である。


実は商売への課税制度には抜け穴がある。登記すべき本店を持たない商人は、いずれの領にも属すことができないため、無登録で商売ができてしまうのだ。そして、店舗を持たずに巨額の取引を成立させることのできる存在といえば、自らのサロンを持ち、王侯貴族の主催するパーティーの華となる高級娼婦(クルティザンヌ)が真っ先に思い浮かぶのも無理からぬことであった。あるいは、商売人ではなく誰かの愛人だったと誤解しているのかもしれないが、どちらにしても大差はないだろう。


「いずれにしましても、私はグランチェスターの地において、初めて正式に登録された身分を手に入れることができたのでございます」

「ふむ。グランチェスター侯よ、なぜソフィアを領民として迎えたのだ?」

「サラのためです。サラを引き取ったばかり頃、あの子はすぐにでも両親の後を追ってしまうような危うさを抱えておりました。両親を相次いで亡くしたことが原因だとは思いますが、食も細く、感情表現も乏しい子供だったのです。私が初めてサラと会った日、サラは亡くなった母親と同じベッドで横になり『このまま一緒に長い眠りにつくつもり』と申したのでございます」

「それは、あまりに悲惨な……」


それまで無言で話を聞いていた王太子妃が、沈痛な面持ちで声を上げた。その話をしているグランチェスター侯爵自身も、何かを堪えるような表情を浮かべている。とても演技には見えない。


『あらまぁ。祖父様は、まだ気にしていたのね』


「出会った頃のサラは、生きることへの意欲を失っているように見えました。事実、王都邸で引き取って暫くした頃、邸内の池でサラが溺れていたという報せが入りました」

「そんな! もしやそれは」


グランチェスター侯爵は嘘を吐いていない。実際には従兄姉たちにイジメられて池に落ちただけなのだが、王太子夫妻とアンドリューが誤解するように会話を誘導していた。


「幸いにもサラは命を取り留めましたが、三日三晩寝込みました。そんな折にサラを訪ねてきたのがソフィアでした」


これはグランチェスター侯爵にとっては嘘になるのかもしれない。だが、サラには事実だと言えるだろう。過ぎ去った更紗(前世)の記憶を取り戻したことで、かつての自分と再会したのだから。


「ソフィアはサラ嬢と以前から親しかったのかしら?」


王太子妃がソフィアに尋ねたため、そこからは事実と嘘を織り交ぜたストーリーを展開していく。


「サラお嬢様のことは、彼女がアデリアの……母親のお腹の中にいる頃から存じておりました。その頃の私は、サラお嬢様が平凡な商家の娘として、両親と共に健やかに成長し、いつか好きな男性と巡り会って家庭を作っていくだろうと思っておりました。私はその手助けをしたかったのです」

「それは、どうしてかしら?」

「実はサラお嬢様は母親にそっくりなのです。つまり、私とも似ているということですわ。まったく他人とは思えませんの」

「娘や孫のように見えたのですね。わかるような気がいたしますわ」


くすりと小さくソフィアは微笑みを浮かべると、王太子妃は納得したように頷いた。


「しかしながら、アーサー卿は私からの資金援助を望まれませんでした」

「あらあら。それは殿方のプライドなのかしら。なんとも度し難いものですわね」


『勝手に想像で補完してくれているわね。もしかして、普段から男性のプライドに振り回されているのかしら?』


「そこで私は、商人としてアーサー卿とアデリアの商売を助けることにしたのです。商人として互いに益がある関係ならば、拒否する理由はございません。私は商会を持たぬまま、一介の商人として動き始めました。ですが、私が他国で資金調達をしている間にアーサー卿は悲劇に見舞われ、アデリアも後を追うように儚くなっていました。私がアヴァロンに戻ったときには、既にサラお嬢様はグランチェスター家に引き取られた後だったのでございます」

「なんということかしら!」

「私はサラお嬢様が王都のグランチェスター邸にいると聞き、慌てて王都に向かいました。それまで平民として育てられてきたお嬢様が、貴族家で肩身の狭い生活を強いられているのであれば、私が引き取るつもりだったのでございます」


『まぁ、肩身が狭いっていうか、イジメられてたわけだけど』


「私がアーサーの忘れ形見を手離す気にはなれなかったのでございます」

「そういうことでしたのね。ところで、目を醒ましたサラ嬢はソフィアを見てどうだったのかしら?」


グランチェスター侯爵が肩を落としながら小さくため息を吐くと、王太子妃は心得たように頷いた。


「ソフィアに再会したサラは別人のように元気になり、王都邸を離れてグランチェスター領に移りたいと申しました。人が多く、いずれ社交を避けられない王都がイヤだったのでしょう」

「サラお嬢様にとって、グランチェスターの王都邸はあまりにも窮屈だったのでございます」

「窮屈?」

「グランチェスター家の使用人には貴族家出身の者が多く、平民のサラお嬢様を持て余しているように見受けられました。使用人にどう接してよいのかわからず、食事の席ではカトラリーの使い方に気を遣うあまり食欲がわかなかったそうです」

「私の孫に無礼な態度をとるような使用人はおるまい」

「無論、露骨に無礼な振る舞いをするような使用人はおりません。しかしながら、意図的に聞こえないふりをする者は多かったと聞き及んでおります。グランチェスター家に引き取られたとしても、アーサー卿が貴族籍から抜けている以上、サラお嬢様の身分は平民のままでございます」

「そうか。私の配慮が足りなかったのだな」


がっくりと肩を落としたグランチェスター侯爵に対し、王太子妃が慰めるように語り掛けた。


「本来、そのようなことはグランチェスター侯爵夫人が取り仕切ることですわ。おそらく小侯爵夫人は、侯爵閣下の意図を把握しきれず、指示をお待ちになっていたのではないかしら。自分たちの子供として迎えるのか、あるいは別の貴族家との養子縁組を考えているのか迷われていたのではなくて?」

「妃殿下の仰る通りでございます。確かに息子の嫁にきちんと指示をしておりませんでした。亡くなった私の妻は、私の指示を先回りするように的確な差配をするような女性でございました故、うっかりしておりました」


『そのうっかりのせいで、死にかけたんですけど?』


ソフィアは少しだけ胸のあたりがざわりとした。前世を思い出していない頃のサラは、王都のグランチェスター邸で冷たい態度をとる大人たちと、そんな大人たちを見て差別的な態度をとる従兄姉たちに囲まれていた。池に落ちた時に前世を思い出せず、魔法が発現しなかったら、そのままサラは溺死していただろう。


だが一方で、王都の邸で起きた一連の出来事を過去のこととして受け止めている自分に気づいた。小侯爵夫妻や従兄姉たちを許したわけではないが、サラやソフィアが忙し過ぎるせいで、いつまでも負の感情を持ち続ける余裕がない。それに……とソフィアは思った。


『なんだかんだ言って、彼らと関係改善しちゃってるんだよね。甘やかすと都合よく依存されそうだったから適度に距離は置くべきだけど、グランチェスター家が特別な存在であることは否定できないものね』


数日前にムッとした勢いでキレ散らかしたことを思い出したソフィアは、心の中だけで自嘲した。


「サラお嬢様は王都邸を離れたがっておいででしたが、同時にグランチェスター家を出ることも難しいことをご存じでいらっしゃいました。『これからも貴族家で生活しなければならないのであれば、淑女としての立ち居振る舞いや教養を学ばねばならない』と仰せになり、グランチェスター領に移住されたのでございます」


ソフィアの説明にグランチェスター侯爵も頷いた。


「サラがグランチェスター領に移住したいと申したため、私はそれを認め、ガヴァネスの手配を領地にいるロバートに任せました。もっとも、愚息がガヴァネスとして誰を招聘するのかは予想済みでございましたが」

「然もありなん。どうせ、そのままあの二人がくっつけばいいと思ったのだろう?」

「御意にございます」

「ほほほ。随分と遠回りしましたが、あるべきところに納まったという感じですものね」

「あの浮気者がグランチェスターの男子とはまったく信じられん。母上が直々に教育したレベッカは、私にとっても妹のような存在だ。どこに出しても恥ずかしくない美貌と教養を持ち合わせ、光属性の治癒魔法を使いこなせる聖女なのだぞ。もし結婚した後にもフラフラとするようなら、容赦なく離婚させる。私が自らレベッカに見合う別の男を紹介してやろう」

「御意。愚息に申し伝えます」


コロコロと王太子妃は笑っているが、そんな妻の様子を見ている王太子はあまり面白くなさそうである。どうやらレベッカは王太子のお気に入りでもあるらしい。


「それで、ソフィアはサラ嬢に同行したということなのかしら?」

「御意にございます」


王太子妃の問いに、ソフィアはシンプルに頷いた。なにしろ同一人物なのだから同行せざるを得ない。


「だが、それだけならば商会を設立する必要などないのではないだろう」


王太子が、鋭い視線をソフィアに投げつけた。再び王太子の疑惑が沸き上がってきたのだ。


「商売をしたいと言い出したのは、ソフィアではなくサラなのです」

「なんだと!?」



お久しぶりです。書籍の7巻は2026/03/10に発売されます。

4月にはコミカライズの2巻も発売されますので、是非お手に取ってください!

(懇願)

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― 新着の感想 ―
更新無いとエタっちゃって続巻出ない…なんて思っちゃうので、月イチでもいいので更新お願い致します。
王太子殿下にしてみれば「商人の小娘風情が国王陛下(王家)を都合良く手駒の様に扱った」のが気に入らなかったのだろうな。 恐らく国王陛下も似た感覚があったから、王家は実質負担0で湾岸連合の企みを阻止できる…
小麦の独占に関しては王家が文句を言える立場にはないんだけどな 商人の好きなようにさせて他国に小麦を流してたのはソフィア商会以外の商人たちだし、それすらグランチェスターから買い叩いてたわけなんだが王家は…
感想一覧
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