Page0,5:続プロローグ
サブタイトルの通りです。
風が森を通り抜ける。ざわざわと木の葉が揺れる音がするがそんなものは気にならなかった。
少女の周りだけさっきよりも明るくなっている。
月明かりに照らされて、彼女の肩の下まである蒼い髪が微かに揺らめいている。少女はこちらに振り向き、俺と眼が合うと柔らかく微笑んだ。
……綺麗だな。
って、違う!俺は断じてロリコンなんかじゃない!
首を思いっきり左右に振って、先ほど考えてしまったことを忘れようとする。
少女が不思議そうにこちらを見ているのが見えるが、そんなものは無視。
眼を閉じて、煩悩退散 煩悩退散。
「あの、大丈夫?」
声に反応して眼を開けると、至近距離に俺を助けてくれた少女の顔がある。
髪と同じ色の、空の色と様なつぶらな蒼い瞳。すっきりとした鼻。整った顔。
「あ、あぁ。ありがとう」
もっとちゃんとしたお礼が言いたかったのだけど、まださっきの恐怖は完全には抜けておらず、そんな言葉しか返せなかった。
せめて立ち上がろうとは思うが、足はまだ震えている。
「まだそこにいて。囲まれてるから」
俺が立ち上がろうと悪戦苦闘している最中、彼女は辺りを見回し言葉を放つ。
囲まれてる……?
「さっきの魔物は遠吠えで仲間を呼ぶんだよ」
あぁ、そうかい。すごく嬉しくない情報をありがとう。
足だけでなく全身に、震えが広がってゆく。どうにかして止めたいとは思うが、無理。
怖くて、恐くて、コワクテ。自分の体じゃないみたいで、震えを止めることが出来ない。
ガチガチと歯を鳴らして俯く。体はどんどん冷たくなっていってる。
そっと、頭にさっきと同じ軽い感触がある。
「大丈夫、私が護ってみせるから」
……あぁ、こんなところで震えている俺が馬鹿みたいじゃねえか。
女の子に護ってみせるから、なんて言われるのは格好悪いな。
こんなこと思ってようが体は動かないんだけどさ。震えはもう、ない。
だから俺の頭に手を乗せて立っている少女を見上げ、精一杯強がって言う。
「女の子が怪我とかするなよ?」
少女は一瞬キョトン、とした顔になり
「そういうことは君が私を護れるくらい強くなってから言って欲しいな?」
などと、邪気を感じない綺麗な笑顔で返された。
ちくしょう、人の心配は素直に受け取れっつうの。恥ずかしいだろうが。
何でだろうな? 彼女といれば何も恐くない。
さっきまであんなに震えてたのに、あんなに心が押し潰されそうだったのに。
彼女の言葉はストンと胸に収まる。
今、少女は俺ではなく周りの木々の影から姿を現した狼に注意を向けながら何かを呟いている。
俺の前方だけでも4匹、囲まれているってことは大体その倍。
たったそれだけだと思ってしまう。
狼の包囲網の中心に俺と少女がいる。包囲網の半径は俺の目測でおおよそ8m くらい。
彼女は俺から見て正面に向かって1歩、左足を踏み出し半身となる。脚を曲げて重心を下げ、刀を持っているかの様に両手を胸の右辺りで横に構える。
様に、と表したのは彼女が何も携えていないから。いや、携えてはいる。ただそれが、俺には見えないだけで――
不可視の刃が閃く。
左へと薙いだ斬撃は空間ごと狼を2匹、真横に断ち切る。
そのまま勢いをつけ回転、俺の頭上を通るように振り抜き、ちょうど4分の3回転したところで止まる。
重い音が2つ。後ろから2匹迫っていたようだ。
次いで俺の左右、彼女からすれば前後から2匹同時に迫って来る。遅れて俺の前から1匹。
だけど相手は獣。駆け引きも何も無くただ迎え撃つだけ。
同時に跳びかかって来る。
左へ1歩、彼女はずれる。それだけで獣達の挟撃は失敗に終わる。
1匹の首をすれ違いざまに斬り落とす。目の前でやるな、生々しすぎる。
振り向きもう1匹は着地直後に袈裟に斬る。
踊るように、舞うように、祈るように、彼女は獣を屠ってゆく。
「ふぅ」
少女は息を吐きながら見えない刀を一振り、付いた血を払っている。
気が付いたら終わっていた、としか言いようが無い。
今更辺りにぶちまけられた血の臭いが鼻を突く。
「怪我は、無い?」
確かに護られている間に怪我はしてないが…
俺は何やらぼんやりしている視界で左手を見て、次いで背中からの鈍い痛みに顔を歪める。
「お前さんの目じゃ怪我には見えないんだな、これは」
左手を彼女に見やすいよう上げようとするが力が入らない。
血を流しすぎたかな……視界に霞がかかってきた。
目の前に彼女の顔があるんだが、輪郭がはっきりしてない。
「 ょっと! 大丈 !? し かり て!」
何言ってるのか分からねえよ。いきなり真っ暗になって何も見えないし。
死因は多量出血かねぇ?
あ、お礼言うの忘れてたな……
ここから俺の記憶は、ない。




