一緒にお風呂
「あっと、ちょっと言葉が足りなかったかな。」
「……ちょっとどころではないと思いますけど。」
「まぁ、でも根本は同じだよ。」
「……というと?」
「彼氏くん、君は姫に辛い思いをさせたくないって言ったよね?」
「はい。」
「確かに姫は彼氏くんと一緒にお風呂に入るのは恥ずかしがって絶対やりたがらないと思う。」
「でしょうね。」
顔を真っ赤にして全力で拒む蓮姫の姿が容易に想像出来る。
「でも、姫がもっと辛いのは彼氏くんとの関係が進まない事なんだよ?」
「え?」
「彼氏くんが姫を大切に思ってくれてるのは、最近の姫の様子や、実際に彼氏くんに会って良く分かった。でも付き合って結構経つのにまだキスもしてないよね?」
「……………。」
蓮姫本人にも冗談交じりにヘタレだと何度か言われてるが、こうして真面目に問われると堪えるものがある。
そして、正直に白状するなら実は未だに手を繋いだ事すらない。
「彼氏くんは姫がそれを拒むと思ってるの?」
「それは……。」
「まぁ、でもこればっかりは責められないね。姫も姫で関係を進めたくても自分の表立ったキャラが崩れる事を怖がって待つばっかりだし。」
楓さんの言う事、これはなんとなく分かっていた。
恥ずかしがり屋というのが影響しているのだろう、蓮姫も沙耶に負けず劣らずの猫被りだ。
「私はね、彼氏くん。姫に幸せになって貰いたいの。彼氏くんとの関係を進めたいけどなかなか上手くいかなくて悩んでるのなら何か出来ることをお姉ちゃんとして姫の為に探す。お節介だって事は分かってても。」
それがお姉ちゃんの出来る事だから、と楓さんは目を細めた。
「さっきも言ったけど彼氏くんが姫の事を大事に思ってるのはもう良く分かった。だからこれからは少しづつでいいから、姫の為に彼氏くんも勇気を出して接してあげて欲しい。女の子はみんなエッチなんだから多少ガツガツ行ったって嫌われたりしないからさ。」
いや、確かにそれはたまに聞くけど、それって男の願望じゃないのか?
まぁ、でも......そうだな。
もう半年だ。
そろそろ蓮姫との関係を少しづつでも...。
「でだよ。スク水と裸ならどっちがいい?」
「たった今少しづつでいいって言いましたよね?!」
「ん?関係を進めるのは少しづつでもいいけど、お風呂くらいちゃちゃっといけるでしょ?」
「楓さんの中でお風呂のハードルどうなってるんですか?!」
「もう、仕方ないなぁ。じゃあこうしよう。」
楓さんは右の人差し指を立てる。
「姫に彼氏くんとお風呂に入りたいかを聞いて満更でもなかったら一緒に入る。いいね?」
「はぁ、まぁ、いいですけど。」
そもそも蓮姫が恥ずかしがって嫌がるに決まっている。
それから楓さんに連れられて一階へ降りると既に皿洗いを終えた蓮姫はソファに腰掛けていた。
「ねぇ、姫。」
「なんですか?」
「姫は彼氏くんと一緒にお風呂入りたいよね?」
蓮姫は顔を紅くしながら俺の方へチラリと視線を向け、俺はすかさず目を逸らした。
さぁ、楓さんの思惑にハマらないようにきっぱりと断ってくれ。
「......まぁ、先輩がどうしてもというのなら。」
「はあ?!」
「......なんですか?嫌なんですか?」
「い、いや、まさか蓮姫が俺と一緒に入りたいなんて言うと思わなくて。」
「べ、別に入りたいなんて言ってませんっ!先輩がどうしてもと言うなら仕方なくです!」
「よし!決まりだねっ!」
蓮姫が顔を真っ赤にしてる中、パンッ!と楓さんが手を叩いた。
「ささっ、お湯はもう溜まってるよ。」
そして俺達二人の手を掴むと物凄い勢いで脱衣場へ向かい、押し込むと、
「じゃあ、ごゆっくりねぇ。」
そう言って脱衣場の扉は閉められた。
「......ふぅ。」
「大丈夫か?」
「...何がですか?ほら早く脱いでください。服を着たまま入るつもりですか?」
平静を装ってはいるが、顔は紅いし、唇は若干噛んでるしで、緊張しまくりなのが手に取るように分かる。
そもそも早く脱いでください、と言ってる割に自分の手は全く動いていない。
............はぁ。
「なぁ、蓮姫。お前が覚悟決めてる所悪いんだけど、いいか?」
「......別にお風呂くらい覚悟なんていりませんけど何ですか?」
「蓮姫が俺と沙耶の事で不安になってて、それで今こういう状況を作ってるんだとしたら、今日はもう止めないか?」
「............。」
蓮姫は表情を変えることなく真っ直ぐに俺の目を見つめた。
「蓮姫は止めなくてもいいって言ったけど、俺は沙耶と一緒にお風呂に入る気はもうない。蓮姫が勘違いしそうな状況も極力作らないようにする。」
「............。」
「あ、でも勘違いしないでくれよ?俺は今、蓮姫と一緒にお風呂に入れる事にとてつもなく興奮してるんだ。...でも、それは嫉妬とか不安、そんなの抜きにしてやりたいなって思ってる。」
「......そう......ですか。」
俺がそこまで言うと蓮姫は小さくそう零した。
やはり俺の言った事は間違ってなかったのだろう。
いつもちょっとした事で顔を真っ赤にしてる蓮姫が突然一緒にお風呂なんて到底考えられない話だ。
「......じゃあ、ゆっくり入ってください。」
「...あ、あぁ。」
蓮姫は疲れた様子で頬を翻すと扉を開いた。
そして去り際、ぽそりと呟く。
「一緒に入るのは.........また今度......です。」
また今度。
その言葉に俺の心臓は跳ね上がるのだった。
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今日、別作品で《義妹がとんでもないお色気作戦で俺を墜しにかかってるんだが?!》を連載投稿しました。
数話で終わる予定の物語ですが、もし良ければ目を通して貰えると嬉しいです。




