二人だけの秘密
「お風呂ありがとな。温まったよ。」
「それは何よりです。」
一人風呂に浸かってからリビングに戻ると、既にいつも通りの蓮姫が言葉を返してくれた。
そして、その後ろ、蓮姫に何か言われたのだろうか、少し申し訳なさそうな楓さんが顔を出した。
「彼氏くんごめんね、余計なお世話だったかな?」
「いえ、蓮姫からは嬉しい言葉聞けたんでそれだげ十分ですよ。」
「ん?嬉しい言葉?」
「姉さんは聞かなくていいです!」
これ以上は恥ずかしい流れになると悟った蓮姫が楓さんの顔の前に手を横から差し込んだ。
「もう、二人だけの秘密とかずるいよぉ。」
「じゃあ、私はお風呂入りますけど......二人とも余計な事は喋らないでくださいね?」
「あ、あぁ。」
「うん。分かった。余計じゃない事だけ話すね!」
「やっぱり姉さんは何も喋らないでください。」
「ひどいっ?!」
そんな賑やかなやり取りをしながら、蓮姫は心底不安そうな顔をしながら渋々脱衣場へと向かった。
すると楓さんはくるりと俺の方へと振り返る。
「さて、じゃあ、彼氏くん。」
「なんですか?」
「さっき言ってた嬉しい言葉を教えて貰おうか?」
「いや、言いませんけど?」
「............え?」
なんで俺が言わない事にそんな不思議そうな顔が出来るんだよ。
「でも、本当にありがとうございます。楓さんのお陰で蓮姫の気持ちに気が付くことが出来ました。」
「あはは、そりゃ良かった。じゃあお礼に嬉しい言葉っていうのを教えて貰おうか。」
「だから言いませんって。」
「ちぇ、つまんないなぁ。」
楓さんはそう言って口を尖らせるとコテンとソファに転がった。
そしてそれから15分。
俺と楓さんの間に会話が生まれる事はなく、お互いにポチポチと携帯をいじって時間を潰す。
今日あったばかりで本来なら緊張するのだろうが、なんだろう、楓さんとは結構慣れ親しんだ友達のように妙な錯覚を覚えている気がする。
初めて会う俺に気を使っているのか、それともいつも通りなのか、楓さんの親しみやすいキャラがそうさせているのだろう。
チラリと携帯を見ている楓さんに目をやるとさっきまでのヘラヘラとした表情は見受けられず少し真剣で、さらに落ち着いたクールなお姉さんのように感じる。
そして不意に思ってしまう。
蓮姫はこの楓さんのようなクールなお姉さんを目指してあのキャラを作ったのではないのか...と。
「ねぇ、さっきから舐め回すような視線を感じるんだけど、ダメだよ?私は姫のお姉ちゃんなんだから。」
「あ、すいません、つい。」
そんなつもりでは全くもってなかったが。
「まぁ、姉妹揃って貰いたいって言うなら話は別だけど。」
「いや、嫁に貰うのは蓮姫一人で十分ですよ。」
俺がそう言うと、楓さんはニシシとしてやったりな笑みを浮かべた。
そして、
「............お風呂上がりました。」
「うおっ?!れ、蓮姫?!」
突如背後から聞こえた声に身体が跳ね上がった。
振り返るとまたもや耳を真っ赤に染めて顔を伏せている蓮姫の姿が。
......楓さん、蓮姫が来たのに気づいて俺を誘導してくれたな...ったく。
「...............。」
「...............。」
それから俺と蓮姫は少しの間、妙に照れくさい空気に囲まれ、そんな様子の俺達を楓さんはニヤニヤと眺めているのだった。




