第三十話「神様に逆ギレしたら全部おかしくなったんですけど?」
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
ついに第一期・最終話です。
元の世界へ帰るはずだったさくらとノア。
そのはずだったのに——最後の最後で、やっぱり何かがおかしくなります。
この物語らしい、少し騒がしくて、ちょっと理不尽で、でもどこか温かい締めになっています。
ぜひ最後まで、お楽しみください。
光の中にいた。
白かった。
まぶしかった。
さくらは目を細めた。
「……ここ、どこ」
声が出た。
周りを見た。
白い。
全部白い。
床も壁も天井も——全部白い。
広さがよく分からない。どこまでも続いているのか、すぐそこに壁があるのか、判断できなかった。
「……さくら」
ノアがいた。隣に立っていた。
「ノア、無事?」
「……無事だ。ここは——」
「元の世界じゃないね」
「……違う。魔王城でもない」
「どこだろう」
「……分からない」
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そのとき。
声が聞こえた。
「やあやあやあ!! ようこそ、転送の中継地点へ!!」
陽気な声だった。軽い声だった。
さくらとノアが声の方向を向いた。
男がいた。
年齢不詳。白い服を着ていた。顔は——なんとなく、どこかで見たような、でも具体的には思い出せないような顔だった。
手に、光る板を持っていた。板に向かって話しかけていた。
「今まさに!! 転送の瞬間を中継しています!! 魔法少女と魔王が転送装置で帰還を試みる、歴史的な瞬間です!!」
「……何をしている」
ノアが言った。
男が振り返った。
「おお!! 気づいちゃいましたか!! やあ、二人とも。よく来ました」
「よく来ましたではない。ここはどこだ」
「ここは中継地点です!! 転送装置で世界を移動する際、一瞬だけ経由する空間——私の管轄といいますか」
「……あなたは誰だ」
男が胸を張った。
「私は神です!!」
「……神」
「そう!! この世界を作った者!! 全てを見通す者!! 運命を司る者!!」
「……」
「……」
「反応が薄い!!」
「……神が光る板に向かって話しかけていた」
「それは神チューブです!! 神による、神のための動画配信!! 今まさに配信中で——」
「……視聴者?」
「えー視聴者の皆さん、ご覧のとおり主役の二人が目を覚ましました!! チャット盛り上がってますね!!」
さくらは板を見た。確かに文字が流れていた。
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「……一つ聞く」
ノアが静かに言った。
「はい!! 何でも!!」
「……余とさくらが出会ったのは、偶然か」
男が少し間を置いた。
それから——口元に手を当てた。
「……ふ」
「何だ」
「……全ては、計画通りだ」
声が変わった。
さっきまでの陽気な声ではなく——低く、落ち着いた声に。
「計画通り?」
「……魔法少女と魔王を同じ場所に転送して、どんな化学反応が起きるか。それは最初から——決まっていた」
「……余とさくらが出会ったのも」
「計画の一部だ」
「……ひまりとの借金も」
「計画の一部だ。借金が発生するよう、状況を少しだけ調整した」
「……Sランクが現れたのも」
「あの竜が現れる時期は、調整した」
「……アリアの家も」
「あの家は——古い知り合いが使っていた場所だ。いい拠点になると思って、選んだ」
「古い知り合い」
「……まあ、今は言わない。いずれ分かる」
「……全部、計画していたのか」
「全ては計画通りだ。余の思惑通りに、事は運んだ」
ノアが腕を組んだ。
「……さくら」
「うん」
「……余は今、非常に腹立たしい気持ちがある」
「私も」
「……どうするか」
「……ちょっと待って」
さくらが神を見た。
神が板を向けていた。
「視聴者の皆さん!! 今、主役の二人がリアクションしてます!!」
「あの」
「はい!!」
「配信、今も続いてる?」
「続いてます!! 歴史的瞬間ですから!!」
「そっか」
さくらが深呼吸をした。一回。二回。
「……さくら?」
「ノア、ちょっとどいて」
「……どく」
さくらが一歩前に出た。
「視聴者の皆さんに聞こえてるんだよね」
「聞こえてます!!」
「じゃあ見ててください」
「は?」
さくらが神の胸ぐらを掴んだ。
「ちょっと待って待って待って!?」
「待たない」
「視聴者が——!!」
「どうぞ見ててください」
さくらが、神の顔面に、全力の拳を叩き込んだ。
白い空間に、鈍い音が響いた。
神が吹き飛んだ。転がった。板が手から離れた。
「……いったーーー!!!!」
「計画通りとか言わないで」
「いたい!! 本当にいたい!? 神に拳が通じた!?」
「通じた」
「そんなはずは——もう一回やめて!! やめてください!!」
「もうしない。一発で十分」
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神が起き上がった。
顔を押さえていた。
さっきまでの威厳が——完全に消えていた。
「……痛い。本当に痛い。神が殴られた。前代未聞だ」
「計画してたなら、これも計画に入れておいて」
「入れてなかった!! さくらさんが殴ってくることは計画外でした!! 完全に計画外でした!!」
「計画外があるじゃん」
「……うぐ。ありますよ、計画外くらい!! 全部は読めないですよ!!」
「さっき全ては計画通りって言った」
「……それはその、雰囲気を出そうとして!!」
「雰囲気!!」
「……演出です!! 神として登場するなら、それっぽく言わないと!!」
「それっぽくって!!」
「視聴者受けを考えたら、ああいう入り方のほうが——」
「視聴者受けを考えてたの!?」
「……だって配信なんで」
「神が視聴率を気にしてるの!?」
「……まあ、登録者数は気になりますよ」
「気にしてるんだ!!」
ノアが呆れた顔で言った。
「……さくら、この者は——」
「うん、思ってたより大分しょぼかった」
「……いや、しょぼくはないですよ!? 神ですよ!?」
「神がマダオみたいなこと言ってる」
「マダオって何ですか!!」
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「……一つだけ聞く」
ノアが神を見た。
「……なんですか」
「……アリアの師匠と言っていたな。古い知り合いと言っていたが——」
「……まあ、それはいずれ」
「今聞く」
「……今は言えません」
「なぜ」
「……二期があるので」
「……二期」
「……続きがあるんですよ。今ここで全部言ったら、続きが作れないじゃないですか」
「……余の人生が続きものになっているのか」
「……なっています。大人気です」
「……視聴者にとっては面白いかもしれないが——余には迷惑だ」
「……すみません」
「……まあ——アリアの師匠の件は、いずれ分かるということか」
「……はい。必ず分かります」
「……分かったら、また殴りに来る」
「……覚悟します」
さくらが言った。
「あと——帰してくれるんだよね。元の世界に」
「……それが」
「それが?」
「……実は——今、少し問題が」
「問題?」
「……さくらさんが殴ったとき、私が持っていた板が——」
「板が?」
「……転送制御システムの端末でして」
「端末」
「……落としたときに、少し——設定が、変わってしまいまして」
さくらが固まった。
「……どんな設定が」
「……転送装置で元の世界に帰るための座標が——上書きされてしまいまして」
「上書き」
「……はい。現在、転送装置を使っても——元の世界には帰れない状態に」
「……は?」
「……申し訳ありません」
「申し訳ありませんじゃなくて!!」
「……直そうとしているんですが、かなり深刻なエラーで——」
「私が殴ったせいで帰れなくなったの!?」
「……九割方そうです」
「九割方じゃなくて!?」
「……残り一割は、私の端末の耐衝撃性が低かったせいなので——」
「全部あなたのせいでしょ!!」
「……まあ、そうです」
「直して!!」
「……直します!! 直しますが、時間がかかりまして——修復には、この世界での時間で、しばらく——」
「しばらくって、どのくらい」
「……二期分くらい」
「二期分って何——」
そのとき。
白い空間が揺れた。
別の音が響いた。
ずずず、という音だった。
「……何?」
「……あ、これは」
神が顔色を変えた。
「……何が起きてるの」
「……転送制御システムのエラーが——空間に干渉して——」
白い空間の一部が、裂けた。
裂け目から、光が漏れた。
その向こうに——
石造りの廊下が見えた。
誰かが走ってくる音がした。
「……何だあれは」
「……空間の裂け目に、近くの世界が——引き寄せられて——」
「近くの世界って——」
裂け目が広がった。
人が飛び出してきた。
若かった。鎧を着ていた。剣を持っていた。
勢いよく飛び出して——白い空間に転がり込んできた。
「っ、な、なんだここは——」
若者が顔を上げた。
白い空間を見た。
倒れている神を見た。
立っているさくらを見た。
立っているノアを見た。
ノアを見た。
もう一度ノアを見た。
「……魔、魔王!?」
「……余は魔王だが——」
「魔王がいる!! しかも、誰かを倒している!?」
若者が神を見た。
神が床に倒れていた。
「た、倒れている人が——もしかして、この世界の——」
神が顔を上げた。
ぼろぼろな顔で、若者を見た。
「……おお」
「な、なんですか」
「……君が、勇者か」
「は、はい!! 勇者として召喚された——」
「……ちょうどよかった」
「ちょうどよかった!?」
「……この魔王を、頼む」
「頼む!?」
「……私はもう、限界なので」
「な、何を言って——」
「……よろしく頼む」
神がそのまま、床に突っ伏した。
「……神様!? ちょ、神様!?」
若者がパニックになった。
さくらを見た。
「あ、あなたは——魔王と一緒にいる——もしかして魔王の仲間!?」
「仲間というか——」
「魔王と神様を倒した、新手のラスボスか!?」
「違います!!」
「でも神様が倒れてて魔王がいて——」
「神様は私が殴ったけどラスボスじゃない!!」
「神様を殴った!? じゃあやっぱりラスボス——」
「ラスボスじゃない!!」
ノアが腕を組んだ。
「……余に言わせれば——こやつが本当の諸悪の根源だ」
倒れた神を指した。
「諸悪の根源!? やっぱり魔王とラスボスが——」
「違うってば!!」
「で、では——勇者として——戦わなければ!!」
「待って待って待って!!」
若者が剣を構えた。
ノアが魔力を漂わせた。
白い空間が揺れた。
「……さくら」
「うん」
「……また面倒なことになった」
「なったね」
「……余は今、非常に疲れている」
「私も疲れた」
「……どうするか」
さくらは若者を見た。
神を見た。
ノアを見た。
天井を見た。
深く、深く、息を吸った。
「……何でこうなるのよーーー!!」
さくらの叫びが、白い空間に響いた。
暗転。
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**――第一期 完――**
**――第二期へ続く――**
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**【神チューブ・配信後記】**
しばらくして。
神が起き上がった。
床に座ったまま、板を拾った。
板はひびが入っていたが、まだ映っていた。
「……えー、視聴者の皆さん。ご覧いただきありがとうございました」
顔を押さえながら言った。
「……殴られました。神が殴られました。前代未聞です。チャット欄を見ると——『草』『計画通りじゃなかったじゃん』『さくら最高』『ノアかわいい』『神がマダオで草』——色々言われてますね」
しばらく黙った。
「……まあ、殴られたのは、少し計画外でしたが。転送システムが壊れたのも、少し計画外でしたが」
板のひびを指でなぞった。
「……彼女たちは、強いですよ。本当に」
静かな声で言った。
「最初は二人で、今はたくさんの仲間がいて。帰れなくなっても——大丈夫です。あの二人なら」
板に向かって、少し笑った。
「……アリアのことも、心配していません。あの子は——師匠が残していった一番いい遺産だから」
そこで口を閉じた。
「……まあ、それはいずれ」
立ち上がった。
「二期も配信します。チャンネル登録と高評価を——」
また板を床に落とした。
「……あ」
拾った。
「……チャンネル登録と高評価を、よろしくお願いします」
板が、暗転した。
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第二シリーズに続きます。
第三十話、そして第一期最終話。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
魔法少女なのにラスボス扱いされるさくらと、どこかズレた魔王ノア。
二人から始まったこの物語が、たくさんの出会いを経て、ここまで来ました。
本来なら「元の世界へ帰る」という綺麗な締めになるはずでしたが——
神様を殴った結果、全部おかしくなりました。
ですが、それも含めてこの作品らしい結末だと思っています。
どんな状況でも前に進む二人の姿は、きっとこれからも変わりません。
そして本作についてですが、
ひとまずここで一区切りとさせていただきます。
第二期については構想はありますが、
一度この世界から離れ、別の新しい作品を公開予定です。
違うジャンル、違うテーマで書くことで、
またこの作品にも新しい形で戻ってこられたらと思っています。
もしよろしければ、次の作品も読んでいただけたら嬉しいです。
そしてそのときまで——
さくらとノアの物語も、少しだけ心の片隅に置いてもらえたら幸いです。
本当にありがとうございました。




