本来の姿?
「あのメイドは大丈夫だ。あと1時間くらいすれば目覚めるだろう」
そう言ったあと、オオトカゲの獣人さんは、またもや、私をじっと見てきた。
黒い瞳は、やっぱり、感情や温度がないように思える。
その時、黒い瞳が、すっと縦にのびたので、あわてて目をそらした。
(奴の目はできるだけ直視するな。瞳が縦になったら、すぐに目をそらせ)
さっき、ラッカルさんに言われたこと。
あぶない、あぶない。
また、頭に白いもやがかかったみたいになったら大変だからね。
それに、今はマリーさんの無事を確認しなきゃ!!
私は目をそらしたまま、オオトカゲの獣人さんに強い口調で話しかけた。
「マリーさんになにをしたか、はっきり説明して! そうじゃないと安心できない!」
「ララベルさん、そんな状況で、よく人のことを心配できるわね? 今の自分の状況、わかっているの? 椅子にしばられて、動けないくせに」
オオトカゲの獣人さんに問いかけたのに、モリナさんが割って入り、私を見下ろしながら言葉を投げつけてきた。
「ああ、そうだわ。もしかして、ララベルさん。まさか、ルーファス様が助けに来てくださるとでも思っているのかしら? そんな期待は今すぐ捨てることね。ルーファス様は、本来のお姿になられるのだから」
「え……? ルーファスの本来の姿……?」
と、聞き返した瞬間、ものすごい目でにらまれた。
「前々から、ずっとずっと気に入らなかったのよ……! たかだか幼馴染というだけで、ルーファス様をそんな風に気軽に呼ぶこと。本当にあつかましいわね! ……まあ、でも、もういいわ。今後、ララベルさんがルーファス様に向かって、直接、そう呼べることはなくなるでしょうし。だって、もうすぐ、ルーファス様はラジュ王女様によって竜の獣人の本能が目覚めるの! 本来のお姿になられるのよ! そうなったら、きっと、ララベルさんなんて、ルーファス様のお名前を呼ぶどころか、近寄ることさえできないわ。そもそも、ララベルさんごときが、ルーファス様のそばにいること自体、間違っていたのよ!」
「それって、どういうこと……?」
「どういうことって、そんなの当たり前のことでしょう? ララベルさんは侯爵家の令嬢であっても、獣人の血がまじっていない、ただの人。竜の獣人の強い血をひくルーファス様の隣にいていいわけがないわ! 全く釣り合わないもの! ルーファス様はお優しいから、幼馴染のよしみで、力のない、ただの人のララベルさんが不憫で放っておけなかったんでしょうけれど……」
「いや、そういうことじゃなくって! 私のことは、モリナさんにどう思われていようがどうでもいい! 私が聞きたいのは、さっき、モリナさんが言った、ラジュ王女様によって、ルーファスの竜の獣人の本能が目覚めるってこと! それって、どういう意味!? ラジュ王女様がルーファスになにかするってこと!? ラジュ王女様はルーファスに一体、何をしようとしているの!? 教えて、モリナさん!」
早く、ルーファスを助けなきゃ!
そのためには、ラジュ王女がルーファスに何をしようとしているのか、モリナさんから聞きださないと!
焦る私を見下ろして、モリナさんがくすくすと笑いだした。が、すぐに、笑みを消した。
「ルーファス、ルーファスって……いらいらするわ……。せっかく私が親切に、あなたの立場を説明してあげたのに、わからない人ね……。どこまで自分がルーファス様の特別だってアピールしたいのかしら。……でも、そうね、獣人の血がまるで入っていないララベルさんには、はっきり言わないとわからないのね。これは、まだ、みんな知らないことだけれど、すぐにひろまるでしょうし……。いいわ。特別に、身の程知らずで、かわいそうなララベルさんに先に教えてあげるわね」
モリナさんはそうつぶやいた後、優越感に満ちた顔で私を見ながら、声を張り上げた。
「いいこと、ララベルさん、真実を知りなさい! ルーファス様の特別な存在は、ララベルさん、あなたじゃないの! ラジュ王女様よ! ラジュ王女様が、ルーファス様の番だったのよ!」
え……? つがい……?
ラジュ王女様が……ルーファスの……番……?
その瞬間、目の前が真っ暗になった。




