悪いこと。
なぜなら私は中学生活のほとんどを通っていないからだ。登校ができても保健室。それすらもやっぱり難しいと感じてからは、どうしても必要なとき以外は中学校の門をくぐることさえしなかった。
でも、VTuberを始めることを決断したとき同時に、すべてを協力してくれたマキアさんに約束したのだ。
中学は無理でも、高校は必ず通えるように頑張るから、見ていてほしいですと。
もちろん、マキアさんからそういう打診があったわけではない。
私の心は一度折れてしまったけれど、このままでいいと思っていたわけではない。お母さんにたくさん苦労をかけ、お父さんにも大変心配をさせた。
変わらなければいけない。
そう考えていた矢先に、雨宿マキアさんが私に体をくれた。
一人で歩くことさえできなかった私に、一緒に歩みを支えてくれる半身を。
私は高校受験をすることにした。
私がいた場所とはなにも関係のない、でも、私のことを誰も知らない、普通の女の子でいられる場所で。
ただ、一つだけ、あまりよくないことをした。
入学する高校を決める際に、マキアさんに一つ質問をしたのだ。
私のお兄さんに当たる人は、どこの高校を受験するんですか、と。
悪いことだと、当時も、そして今も思っている。
だけど、どうしても知りたかった。
私と同じように一度は不登校になったけれど、VTuberをきっかけにまた学校に通えるようになったその人。
私より早くVTuberになっていて、私と同じ中学生でありながら、個人で活動していながら、その当時すでに数万人のチャンネル登録者数を得ている人。
マキアさんが二つ返事で教えてくれたけど、それは私が本気でその高校を受けるわけがないと思っていたからか、いたずら好きな人だから弟さんをからかいたかったからかはわからない。
マキアさんは当時の私の家に来たことがある。だからまあ、伝えたところで同じ高校には通えないと思っていたのも一因かもしれない。距離的に通うことができない距離にあったのだ。
ただ同様の理由で、まず私の中学から通っている人はいないであろう高校だった。
中学をほとんど丸々通わなかった私だけど、細々と勉強は続けていた。オンラインの学習支援を受け、中学から出される課題もこなしていた。
お母さんとお父さんにこの高校に進学したいと相談したとき、驚いた様子ではあったけど喜んで了承してくれた。
もし合格したら、高校の近くに引っ越してもいいとまで言ってくれたのだ。本当に、感謝してもしきれない。
ダメ元で、受けてみようと思った。実際に行くか、どうやって通うかは、あとで考えればいいと。
不登校だったことが最大の懸念点だったけれど、どうにか合格することができた。
やっぱり、同じ高校に通ってみたいと思った。
ただ、合格して通うとき、お母さんとお父さんは、私に一つの約束を持ちかけてきた。
その約束は、私のことを心配してのことだったのだけれど、そのときはそれほど深く考えることもなかった。私の将来を考える両親としては、当然ともいえる話でもあった。
それほど問題とも思わず、そうなっても仕方がないと思っていたけど。
けど、その期日が近づいてきた、今は……。
とにもかくにも、私たち家族は高校近くのマンションに引っ越して、そして高校に入学した。
意外にも、高校生活は問題なく始めることができた。
人から見られていない。それだけで、体が震えることはなかったし、過呼吸になることもなかった。
あえて地味な格好をしていることも、よかった。
長い髪は雑っぽくおさげにして、別に目も悪くないけど眼鏡をかけて、最低限の化粧しかせずに、野暮ったい見た目にした。
もともと落ち着いた格好が好きだったので、それはしっくりきた。
人と顔をつきあわせて話すことも得意ではないし、よどみなく話すのだって実は苦手だ。
陰キャで高校デビューをしたのだと、ずいぶんあとになって気づいた。
そして私は、高校に入学して、雨宿ソーダこと、雨宮颯太くんに出会った。




