“先生”
チリチリと周りから、何かが焼けこげる音が聞こえる。
「どうやら、無事のようですね?」
煙の中、声をかけてくれたのは先生だった。
「一体何が……けほっ」
「私たちが散開するのを読まれて三方向に収束砲を打たれました。とにかく起きたなら戦闘準備に入りなさい。」
事情を飲み込む時間はあまりないらしい。
「貴方が寝てる間に貴方のお兄さんは仕事してましたよ?」
先生が言う通り、ひさ兄は広めに防御魔法を展開し、それをレコットさんが魔法でさらに援護させる形で防御を成立させていた。
「光魔法が私より得意なのは、嘘では無かったようですね。もしどちらかが力不足なら、今頃、あの二人の後ろは遺体すら残ってないでしょうからね?そのまま防御しときなさい。バカ妹。」
「あの後ろは……子供部屋。」
「陽鎖刀!生きてるか!!」
「生きてるよ。」
私の心配の声を他所に、大声で味方の安否を確認する少年も十分ボロボロだ。
「みんな無事そうだね……良かった…
そのまま、まだ夢を見ててね……
陽鎖刀君まだもちそう?」
「グリモアがある。問題ない」
もし、ひさ兄とレコットさんがいなければ、子供たちは何も知らずにどれとも分からない灰屑になってたということになる……
「許しません!狐火!!豪炎!!!」
その事実を把握し一番最初に動いたのは狐ちゃんだった。
手元がなんの予備動作もなく爆破するが…
「対策ずーみ ♪」
狐ちゃんの奇襲を予め読んでいたのか、化け物が爆発を防ぐように魔法壁を作り上げた。
「それ昨日見たよ?対策されないと思った?」
嘲笑うように、キャハハっと笑う少女に苦い顔をするシルフィー。分が悪いとすぐに判断したのかすぐに引き返そうとする。
だが、それは分が悪いと判断されたわけではない。直感で“巻き込まれる”と思ったからだ
「いい判断能力です。それとは別で、一定の威力を無効にする壁ですか。確かに厄介ですね?」
そう微笑んだ彼女は、躊躇いなく魔法を行使する。
指をパチンと鳴らした瞬間、少女の周辺の音を置き去りにする速さでニューと呼ばれてた化け物を瞬時にバラバラにした。
「硬度A以上ですか。」
エルトナは詠唱も魔法名も唱えず事象だけ起こしている。陽鎖刀にとって今目の前に起きている現象は、“異常”だった。
本来魔法とは、魔法陣の有無はともかく、詠唱を行いながら、自らの魔力を練り上げ、魔法を行使する際は魔法名を唱えることで、その超常現象を起こすことを可能にしている。
「バラバラになった程度じゃあ、倒せないよ!」
切り刻まれた化け物は、少女の魔力を受け取り新たな形を形成しようとする。が…
「なるほど。受けた報告と遜色ない魔力量のようですね?」
瞬間、形成しようとした形が突如現れた蝶々の形をした魔力の塊が触れ爆発する。
「ニューちゃん!もっと早く!意地悪おばさんが!」
少女は焦りを感じ魔力をさらに注ぐ。形成され始めた途端に、少女は前進し、エルトナを攻撃しに行く事にした。
「死んじゃえ!闇夜の鉤爪」
昨日見たリュアを軽々しく殴り飛ばした魔法を纏い迫り来る少女に。
「無詠唱で、闇夜の鉤爪ですか。闇属性の中でも屈指の攻撃力を持つ魔法ではありますが……」
瞬間、エルトナの周囲が何かに覆われる。
「闇属性というのは、本来姿を隠すもの。
攻撃と言うのは後からバカが付随したものです。」
その危機的な寒気にレコットは瞬時に反応し、防御結界を強化する。
「凍てつけ。」
そう一言放った彼女の目の前で少女と化け物は1つの氷像と化していた。
「切り裂く刃、爆発する蝶々、氷帝世界」
淡々と使われた魔法を、つぶやく。
そのどれもが、陽鎖刀ならばグリモアを介さないと使えない大魔法だった。
「さて。このまま永久に氷漬けにも出来ますが…どうしますか?」
自らの服のホコリを軽く払いのけ、まるで何事も無かったかのように笑みを浮かべていた。




