✒ 公爵様の御帰宅 3 / 君は誰だ!?
リィグレーシェドは生涯を独身で貫こうと考えていたが、フォンオスコ公爵家を自分の代で絶やす訳にはいかなった。
実兄の長男は亡くなってしまっているし、実弟の弟達は養子に出されており、既に婚約者の貴族令嬢と結婚をして既婚者となっていた。
フォンオスコ公爵家を絶やさない為には自分が貴族令嬢を妻に迎え、跡継ぎとなる子供を作らなければならなかった。
女性に対して良い印象を持っていないリィグレーシェドは、気乗りしないままフォンオスコ公爵家に代々遣えている隠密達に独身の貴族令嬢を探させ、身辺調査も内密に進めさせ、情報を集めさせた。
幾多の貴族令嬢の情報の中でリィグレーシェドが目に止めた貴族令嬢の1人が、成人前のサブリエル・コォールスだった。
サブリエルは他の貴族令嬢とは明らかに違っていた。
隠密の情報ではコォールス子爵と侍女との間に産まれた子供で、妾の娘だった。
妾の娘でありながら、子爵令嬢として育てられている事を知った。
大事に育てられている──とは言い難い部分はあるものの本来ならば、妾の子供は使用人として育てられるのが貴族社会では一般的だ。
余程の変わり者が余程の事情でもなければ、妾の娘を実子と同様に令嬢として育てはしない。
リィグレーシェドは隠密にコォールス子爵邸で働く使用人達の素性も調べさせた。
因みにサブリエルの異母姉については、隠密の情報を聞いてハズレだと判断した為、婚約者候補から即除外していた。
隠密に調べさせた使用人達の情報では、サブリエルの母親はマグドワルト大公家の御令嬢──末娘であった事が判明した。
マグドワルト大公家はセントアノル大公家と一悶着あり、爵位を剥奪されたマグドワルト大公家の人間は1人残らず謂われもない罪を着せられて全員処刑されたと聞いていた。
マグドワルト大公家が爵位を剥奪された事件は貴族界に衝撃を与え、セントアノル大公家に対して遺恨を抱いた貴族も少なくはない。
未だ幼かったリィグレーシェドも痛ましい事件だった事を覚えている。
謂われもない罪を着せられ処刑された筈のマグドワルト大公家の唯一の生き残りが、サブリエルの母親だった。
サブリエルの母親が如何にしてセントアノル大公家の手から逃れたのかは未だ調査中だが、逃がれた末の潜伏先がコォールス子爵邸だったのだろう。
何故、コォールス子爵がマグドワルト大公家の元御令嬢を自身の屋敷に置き、使用人として働かせていたのかは調査中だが、この事実が公となればコォールス子爵家は終わりだろう。
仮にコォールス子爵がサブリエルの母親の正体を知らぬまま、使用人として雇い働かせていたとしても罪に問われるかも知れない。
セントアノル大公家とは、謂われもない罪を着せて裁かせるのが好きな貴族だ。
結局の所、マグドワルト大公家はセントアノル大公家により、反抗的な貴族達への見せしめとして利用されてしまった憐れな被害者なのだ。
マグドワルト大公家で働いていた使用人達も1人残らず投獄された後、長い間あらゆる拷問を受けた末に犯罪奴隷に落とされたと聞いている。
もしかしたらサブリエルの母親は処刑から免れる為に自ら使用人に扮し、拷問を甘んじて受けた後、犯罪奴隷に落とされた後も生きる為に足掻いた末に奴隷商にてコォールス子爵に買われたのかも知れない。
然し、それだとサブリエルの母親がマグドワルト大公家の生き残りである事をコォールス子爵が知る事はないだろうし、サブリエルが産まれたとしても犯罪奴隷の侍女が孕んで産んだ娘を態々子爵令嬢として育てる事はないだろう。
サブリエルの母親が自ら正体を明かしても尚、使用人として過ごしていた線も無くはないかも知れないが、サブリエルの母親が正体を明かせば、コォールス子爵夫人が黙っていないだろうし、サブリエルが子爵令嬢として育てられる事は万が一も無かっただろう。
リィグレーシェドは自身の悪い噂を隠密広めさせ、コォールス子爵,コォールス子爵夫人,コォールス子爵令嬢の耳へ届くようにした。
その後、コォールス子爵へセリシィエンヌ子爵令嬢と婚約する書状を使用人に扮した隠密へ届けさせた。
コォールス子爵邸にはリィグレーシェドの隠密達が使用人として紛れ込んでおり、然り気無くリィグレーシェドの悪評を屋敷内で噂しては、コォールス子爵夫人とセリシィエンヌ子爵令嬢の耳に入れていた。
実子である愛娘のセリシィエンヌ令嬢を溺愛している子爵と子爵夫人ならば、悪評名高い巨漢デブタ公爵の元へ態々セリシィエンヌ令嬢をフォンオスコ公爵家へ嫁がせる事はしないだろうと、リィグレーシェドは踏んでいた。
リィグレーシェドの予想通り、子爵と子爵夫人は、セリシィエンヌ令嬢を嫁がせず、妾の娘であるサブリエル──「 健康体の次女をフォンオスコ公爵家へ嫁がせたい 」と書状を送って来たのだ。
書状には「 セリシィエンヌは生まれながらに病弱でとてもフォンオスコ公爵の妻となる事は難しいと書かれており、未だ未成年ではあるが成人間近の元気な次女が居る為、次女のサブリエルをフォンオスコ公爵家へ嫁がせる事を許可していただきたい 」といような内容が書かれていた。
何とも笑える御粗末な内容ではあったが、リィグレーシェドが妻に迎えたいのはセリシィエンヌ子爵令嬢ではなく、サブリエル子爵令嬢だった事もあり、「 コォールス子爵令嬢ならば、どちらでも構わない 」と返事の書状を届けさせた。
それからのコォールス子爵家の行動は早かった。
早々に妾の娘であるサブリエルを「 コォールス子爵邸から追い出すような形でフォンオスコ公爵領地へ向かう馬車へ乗せた 」とコォールス子爵邸に忍ばせていた隠密から連絡が入った。
コォールス子爵邸に潜伏させ、使用人に扮した隠密達には情報収集をさせた後、サブリエルと婚姻を結び夫婦となった翌日には隠密達をコォールス子爵邸から人知れず撤収させた。
サブリエルはコォールス子爵邸の使用人の中にフォンオスコ公爵の依頼で使用人に扮していた隠密が居た事には微塵も気付いていないだろう。
リィグレーシェド
「 ………………これも隠さずに話した方が良いかも知れないな……。
サブリエルには打ち明ける事が多過ぎるな……。
さて──、一体何れから打ち明けるべきかな……。
出来る限り、サブリエルがショックを受けに難そうな内容から打ち明けたいんだけれど…………何れかな?? 」
リィグレーシェドは深い溜め息を吐く。
入浴中のリィグレーシェドは、考えを巡らせながら溜め息を吐くのが日課だった。




