✒ 公爵様の御帰宅 4 / 君は誰だ!?
バスタブから一端出たリィグレーシェドは、サブリエルが作ってくれた石鹸を泡立ててから長い髪を洗い始める。
花の香りがする石鹸らしく、中庭に咲いている花を使用しているとサブリエルが言っていた。
前に「 花の香りがする石鹸を作りたいから中庭の花を使わせてほしいです 」みたいな内容が書かれた手紙を渡された事があった。
手紙の返事には「 好きなだけ使って構いません 」と書いた記憶がある。
フエドを使って作られた石鹸もあり、丸い石鹸は洗顔用で、四角い石鹸が身体ようだ。
花の香りのする石鹸は髪用に作った物で、区別を付ける為に「 ハート型にしてみました 」と言っていた。
「 色んな花の香りを楽しめるように花の種類を増やして石鹸を作っている最中です 」とも言っていた気がする。
泡で髪を洗い終えたら、四角いフエドバス石鹸を泡立てて身体を洗う。
身体を洗い終えたら、次は丸いフエド洗顔石鹸を泡立てて顔を洗った。
魔法で水量と温度を調節した湯を出して石鹸の泡を洗い流した。
最後にバスタブの中へ再度入り、湯に浸かり一息吐いたリィグレーシェドは、バスタブから出て風魔法を起こし、全身に付いている水滴を一滴残らず飛ばした。
バスローブを羽織る前に愛しいサブリエルがくれたフエドクリームを身体に付けて馴染ませる。
肌の乾燥を防げる効果のあるクリームを使用人達に作らせる愛妻には感心してしまう。
「 身体に合わなければ使用を中止するように 」と言われていたが今のところリィグレーシェドの身体には異常は出ていない為、使い続けていた。
バスローブの袖に腕を通してを羽織ると鏡の前に立つ。
フエド化粧水を両手に馴染ませてから顔に付けたら、次はフエド乳液を顔に付けた。
化粧水,乳液も「 肌に合わなければ使用を中止するように 」とサブリエルから言われていたが、これと言って肌に異常が出ない事もあり、有り難く使わせてもらっていた。
リィグレーシェドの手に届く前には使用人達,サブリエルが試作品を試してテスト済みらしい為、リィグレーシェドは少しだけ申し訳無く思っている。
浴室を出たリィグレーシェドは自室へ入った。
因みに浴室は、リィグレーシェド自身が掃除をしなくても仕事へ行っている間に使用人達が掃除をしてくれる事になっている。
──*──*──*── リィグレーシェドの自室
ベッド上に腰を下ろして座ったリィグレーシェドは髪を掻き上げると「 はぁ…… 」と深い溜め息を吐いた。
明日から1ヵ月の休暇を押し付けられはしたが、騎士隊副隊長としての仕事から解放されただけで公爵としての仕事は山積みの為、就寝前迄は仕事を少しでも減らしておかなければならない。
ラフな部屋着に着替え終えたリィグレーシェドは髪紐で髪を結ぶ。
姿見に映ったリィグレーシェドの体型は、巨漢デブタの体型に変わり果てていた。
魔法の力が能いている為、着衣も体型に合わせて大きくなったり元に戻ったりしてくれる事もあり、巨漢デブタ用の衣服を買う必要がないのは便利で助かっている。
リィグレーシェドは自室を出ると仕事をする為に書斎へ向かった。
──*──*──*── リィグレーシェドの書斎
書斎へ入ると専属執事と数名の侍女が夕食の準備を済ませてくれている。
仕事前に食事をする為、巨漢デブタの体型でも十分に座れる大きなソファーに腰を下ろした。
リィグレーシェドがソファーへ腰を下ろしたのを見計らい、出来立ての料理がサービスワゴンに乗せられて運ばれて来た。
テーブルの上に並べられる迄の間、リィグレーシェドは専属執事が淹れてくれた紅茶を飲む。
本来ならば愛しいサブリエルの顔を見ながら他愛ない話をしながら晩餐を楽しむ筈だったのだが、今晩に限っては正体の分からない子供を加えての晩餐になりそうだった為、リィグレーシェドはサブリエルとの晩餐を断念し、1人で食事をする事にした。
リィグレーシェドには正体の不明の子供を交えての和気藹々とした晩餐はハードルが高過ぎたのだ。
食事を終えたリィグレーシェドは、仕事に取り掛かる。
本来ならば通常の体型で仕事をこなしたいのだが、執事長,執事長補佐,隠密団長から公爵邸内,公爵領地内,公爵領民達の報告を聞かなければならない為、髪紐をほどくわけにはいかないのだ。
リィグレーシェドは巨漢デブタ姿であっても仕事振りは手早かった。
執事長,執事補佐,隠密団長からの報告を聞きながら、器用に両手を動かして書類を次々に片付けていく。
執事長,執事長補佐,隠密団長もリィグレーシェドのテキパキとした仕事振りには何時も惚れ惚れとしてしまう程である。
優秀で有能であるが故に長男から嫉妬され、殺意を抱かれ、呪い迄も掛けられてしまうのは不運としか言いようがない。
長男の掛けた呪いの所為で醜く太ってしまい、痩せない身体となってしまった当主が不憫でならない。
事情が事情であるが故に当主が生涯独身を貫くと言った時は、誰もが「 仕方無い 」と思い落胆したし、結婚も跡継ぎも諦めたものだが、子爵令嬢が嫁いで来てくれる事が決まった時には使用人達,騎士達,隠密達もホッと胸を撫で下ろしたものだ。
巨漢デブタ公爵に嫁いでくれたサブリエル子爵令嬢は、成人前であどけなさと幼さの残る至って普通の少女だった。
子爵令嬢であっても公爵家へ嫁ぐのだから、それなりの準備をしてから来る筈なのだが、サブリエル子爵令嬢に関してはそうではなかった。
荷物はトランク1つしかなく、着の身着のままのような格好だったのだ。
馬車もサブリエル子爵令嬢を降ろすと直ぐに去って行ったぐらいだ。
サブリエル子爵令嬢は病弱な姉の代わりに嫁いでくれる事になった──との事だった為、体良く厄介払いされて来たのかも知れない。
何はともあれ、当主が妻を娶り結婚をしてくれた事は幸いだった。
後は世継ぎの誕生を心待ちにするだけだ。
リィグレーシェド
「 ──今夜は此処迄にしよう。
ウェズルード、サブリエルが魔法を使えるようになった件について話を聞かせてくれるかな 」
執事長:ウェズルード
「 畏まりました、旦那様。
先ず、奥様が使われた魔法は────。
侍女,シェフ,コック達,私が直に目撃致しました魔法の効果は──── 」
執事長は、サブリエルと行動を共にしていた新米メイドの証言、厨房に居たシェフ,コック達,侍女達の証言、洗濯室で仕事をしていた侍女達の証言、自分の目で見た嘘のような不可思議な現象を包み隠さず、詳細に当主へ報告した。
リィグレーシェド
「 …………汚れを落とす──のではなく、消してしまうか。
汚れが消えた後は新品のようになる──。
そんな魔法はあったかな? 」
執事長:ウェズルード
「 旦那様、此方を御覧ください。
この懐中時計は奥様が触れられた事で汚れが消え、新品同様に綺麗になりました。
綺麗になっただけでは御座いません。
調子が悪かった箇所があり、近々修理に出すつもりでおりました。
然しながら、奥様が御触れになられた後、調子の悪かった箇所が何故か直っていたのです 」
リィグレーシェド
「 汚れが消え、新品のように綺麗になっただけでなく、調子の悪い箇所も直っていた?
そんな効果のある魔法は聞いた事がないな…… 」
執事長:ウェズルード
「 私も未だに信じられませんが、事実で御座います 」
リィグレーシェド
「 ………………サブリエルが初めて魔法を使ったのは、絨毯に染み込んだ紅茶の染みだったな? 」
執事長:ウェズルード
「 はい。
直に一部始終をみていた新米メイドからの情報は、そのような内容となっております 」
リィグレーシェド
「 割れたティーポットは処分してしまったのかな? 」
執事長:ウェズルード
「 いえ、処分せず保管しております。
如何なさいますか? 」
リィグレーシェド
「 明日、サブリエルには割れたティーポットの欠片に触れた状態で魔法を発動してもらおうか。
割れてしまったティーポットが元に戻れば、サブリエルは復元魔法も使える事になるだろう。
〈 ノマ 〉のサブリエルが魔法を使えるようになった事は他言無用で頼む。
情報が漏洩すれば、サブリエルの身が危うくなる筈だ。
命を狙われるだけでなく、連れ去られて悪用される恐れもある。
アグキュス、暗殺者達にはサブリエルの身辺警護を任せる。
サブリエルの命を狙う輩,サブリエルを連れ去ろうとする輩は捕らえて首謀者を吐かせるように 」
隠密団長:アグキュス
「 了解しました 」
リィグレーシェド
「 自白させる方法は暗殺者達に任せるが、廃人にしては困る。
呉々も殺さぬようにな 」
隠密団長:アグキュス
「 仰せのままに 」
リィグレーシェド
「 私は自室に戻る。
皆も持ち場に戻って休むようにな 」
リィグレーシェドが「 解散 」と言うと、執事長,執事長補佐,隠密団長,専属執事が書斎から退室して行った。
最後に書斎に残ったリィグレーシェドは、正体不明の子供の事を聞くのを忘れていた事に気付いた。
リィグレーシェド
「 しまったな……。
1番肝心な事を確かめるのを忘れていた。
明日、確かめよう 」
リィグレーシェドは書斎を出るとドアに鍵を掛けた。
自室へ向かって歩いていると、誰かが階段を上がって来る音が聞こえて来た。
◎ 男の入浴シーンなんて想像もしたくないですよね?
私も想像したくは無いですが、必要だったので書きました。
色気の欠片もない入浴シーンなのでセーフですよね?




