✒ 公爵様の御帰宅 2 / 君は誰だ!?
フォンオスコ公爵邸へ帰宅したリィグレーシェドは、出迎えてくれた愛妻と共に御宝殿の間へ行き、〈 大陸神シピアンドダレ 〉の刺繍画へ帰宅後の感謝の祈りを捧げた。
愛妻に「 明日から1ヵ月間休暇となった事 」と「 魔法を使えるようになったサブリエルの件について話し合う事 」を伝え、御宝殿の間から出たリィグレーシェドは、階段の前で愛妻と分かれ、3階の自室へ向かった。
──*──*──*── リィグレーシェドの自室
自室へ入ったリィグレーシェドは先ず、誰も入って来れないようにドアに鍵を掛ける。
リィグレーシェドは自室に専属執事すらも入れない。
ベッドの前で髪を結んでいた髪紐をほどく。
緩くカールされている髪は臀部を隠す程に長く伸びている。
上下の軍服を脱いでベッドの上へ置くと、ベッドの上に置いてあるバスローブの袖に腕を通し、バスローブを羽織る。
上下の軍服をクローゼットの中へ仕舞った後、隣の浴室に繋がっているドアを開けて浴室へ入った。
──*──*──*── 浴室
リィグレーシェド専用の浴室には男性用の大きなバスタブが設置されている。
水魔法を発動させて空のバスタブの中へ水を張った後、火魔法を発動させ水を熱し、お湯へ変える。
予め近くにバスタオルを用意して、脱いだバスローブを濡れない場所に掛けるとバスタブの中へ片足ずつ入る。
あまり水を入れなかったのはバスタブから水が溢れないようにする為だ。
バスタブの中へ腰を下ろして座り、両足を伸ばす。
湯はリィグレーシェドが座った事で胸辺りまで嵩が増した。
リィグレーシェド
「 …………出迎えてくれた今夜のサブリエルも可愛かったな(////)
未だ10代だからか、あどけなさが残っているし……可愛い盛りなのだろうな(////)
サブリエルは良いとして………………あれは──、サブリエルの隣に居た子供は一体誰だ??
私の事を『 兄上 』と呼んでいたけれど、私の記憶には全くない…。
私の弟達は両親に養子に出されてしまって居ないし……、弟達は皆20歳は過ぎている筈だから、あんなに幼くはない。
…………サブリエルの弟……では無い筈だ。
婚約者探しをしている段階でサブリエルの事も調べ上げていたし、異母姉は居ても弟は居なかった。
サブリエルだけではなく、使用人の誰1人としてあの子供に対して怪しんでは居なかった。
メノウゼスでさえも当然のようにあの子供を受け入れていたしな……。
私の居ない間に何が起こったんだ??
………………〈 ノマ 〉のサブリエルが魔法を使えるようになった事と関係しているのか??
…………『 眩暈がした 』と誤魔化してしまったから、怪しまれてなければいいけれど…… 」
リィグレーシェドの身体には、痛々しくも生々しい深い古傷が全身に出来ていた。
回復魔法や治癒魔法で癒してもリィグレーシェドの身体に出来ている古傷は消えない。
魔法を使っても消えない傷だらけの身体を成人しているとは言え、未だ10代のサブリエルには見せられないと考えているリィグレーシェドは、サブリエルとの初夜を未だに済ませられずにいた。
サブリエルから恐がられるのも嫌だし、傷だらけの身体を見せたのが切っ掛けで避けられるのも嫌だったからだ。
この調子ではリィグレーシェドがサブリエルと●●●●を行えるのは、サブリエルが20歳を過ぎてからになるかも知れない。
リィグレーシェド
「 ………………跡継ぎは必要だからな。
サブリエルには何時かは話さないといけないし、知ってもらわないと…… 」
リィグレーシェドは「 はぁ…… 」と深い溜め息を吐いた。
リィグレーシェドの身体中の古傷は、全て両親と実兄によって付けられた傷ばかりだ。
両親は次男の分際で長男よりも優れていたリィグレーシェドを気に入らなかったのだろうか?
其々部屋に呼ばれては虐待をされていた。
実兄は自分よりも勉学,運動,魔法等に優れており、使用人達や騎士達からも慕われていた優秀で有能な実弟に激しく嫉妬していた。
両親の目を盗んではリィグレーシェドを部屋に連れ込み、嫌がらせをしていた。
幼いリィグレーシェドは両親や実兄から受ける理不尽な虐待や嫌がらせを必死に堪えて耐えていた。
魔法を暴走させて家族に大怪我をさせない為にだったが、リィグレーシェドの努力が無駄になる事件が起きてしまった。
リィグレーシェドが10歳の誕生日を迎えた日、実兄が慣れない呪術を発動させてリィグレーシェドを呪ったのだ。
実兄がリィグレーシェドへ如何様な呪いを掛けたのかは誰にも分からない。
リィグレーシェドへ呪いを掛けた張本人は、呪いを掛けられた事が原因で魔法の制御の出来なくなったリィグレーシェドが暴走させた黒炎に全身を包まれて丸焦げとなり死んでしまったからだ。
暴走をした魔法を制御する事が出来ずに苦しんでいたリィグレーシェドを助けたのは、魔法が使える使用人達だった。
使用人達の中には大怪我をした者も居たが、亡くなった者が出なかったのは不幸中の幸いだった。
原因不明の呪いに掛かった危険な状態のリィグレーシェドから逃げるように、両親はフォンオスコ公爵邸から早々に着の身着のままの状態で出て行き、遠方の別荘の中で引き隠って暮らしている。
両親はリィグレーシェドの実弟の3人を連れてフォンオスコ公爵邸を出て行ったが、育てる気はなかったのだろう、3人の息子を養子に出した。
フォンオスコ公爵邸に1人残されたリィグレーシェドは使用人達と共に暮らす事になったのだ。
リィグレーシェドはサブリエルに対して、自分に呪いを掛けたのは「 知らない呪術師の魔女だった 」と話したが、真実は実兄よりも優秀で有能過ぎた故に嫉妬に狂い殺意を抱いた実兄の仕業だった。
リィグレーシェドはサブリエルに対して「 実兄から原因不明の呪いを掛けられた 」という真実を正直に言えなかったのだ。
それ故、リィグレーシェドは実兄ではなく「 呪術師の魔女だった 」と嘘を吐いたのである。
リィグレーシェド
「 ………………私に呪いを掛けた相手が実兄だという事も、何時かは打ち明けないといけないな……。
両親の事も3人の実弟の事も……話さないといけない…。
夫婦になったのだから、生涯黙っている訳にはいかない……。
それに………………私の体型の事もだ…… 」
リィグレーシェドは深々と溜め息を吐く。
カールされている長い髪を掻き上げる。
バスタブに浸かっているリィグレーシェドの肉体は騎士をしているだけはあり、無駄な贅肉が付いておらず引き締まっている。
騎士らしく筋肉質だが無駄な筋肉は付いていない。
腹筋も惚れ惚れするようなシックスパックだ。
身体中の酷い傷が無ければ、リィグレーシェドの肉体に飛び付かない女性は居ないだろう。
目を血走らせ、涎を垂れ流しながらリィグレーシェドに抱き付こうとする独身の貴族令嬢が黙っている筈がない。
実子を虐待するような母親に育てられた事もあり、リィグレーシェドは幼いながらも女性に対して苦手意識を持ってしまった。
両親から捨てられた日から「 自分からは女性に関わらないようにする 」と決め、女性から寄って来ぬようにと髪紐に仕掛けを施した。
髪紐で髪を結ぶと体型が変化する魔法を掛けているのだ。
本来のリィグレーシェドが巨漢なデブタ公爵ではない事を知っている者は、フォンオスコ公爵邸には居ない。
両親から捨てられて、フォンオスコ公爵邸に置き去りとされたリィグレーシェドを長きに渡り支えて来た執事長,執事長補佐ですら、リィグレーシェドが魔法の力で巨漢なデブタ公爵として日々を過ごしている事を知らずにいるのだ。
フォンオスコ公爵邸で働く使用人達,フォンオスコ公爵家を衛る騎士達,フォンオスコ公爵領地で暮らす領民達,リィグレーシェドと関わっている貴族達も皆が、リィグレーシェドが「 紛れもない巨漢デブタ公爵である 」と信じており、疑っていないのだ。
秘密を共有する相手も居ないリィグレーシェドが、本来の体型に戻れる唯一の場所は自室の中だけだった。
リィグレーシェド
「 ………………使用人達も騎士達も私が兄の発動させた呪術の呪いによって太り続けていると思っている。
好都合ではあるけれど、自室の中でしか元の姿で過ごせられないのは辛いな…。
本当は “ 太っているのは呪いの所為じゃない ” と打ち明けられたら、どんなに良いか…… 」
リィグレーシェドは何度目かの深い溜め息を吐いた。
リィグレーシェドの体重は実際には変わっていない事もあり、通常体型の人と同様に動ける為、王国騎士隊の副隊長を任されても十分に役目を果たせているわけだ。
リィグレーシェドが巨漢デブタ公爵の姿を偽っていなければ、独身だったリィグレーシェドへの婚約を申し込む貴族女性は後を立たなかった事だろう。
それだけ本来の姿のリィグレーシェドは、異性だけではなく同性にも魅力的な男であった。
◎ 結局、採用しました。
魔法を使って、巨漢デブタ公爵として偽り、暮らしている事にしました。




