ギルドへの報告と、ランダウの呪い人形
ギルドの扉をバアンとあけて、おれは大声で言った。
「アリシアさん、やりましたよ! 『暁の刃』クエスト達成です!」
「たかだか引っ越しの手伝いで、あんなにテンション上がるものかね……」などという声も聞こえたが、気にしない。そんな連中には、このクエストの崇高さがわかっちゃいないのだ。
ほら、おれたちの報告を受けて、アリシアさんもうれしそうだ。
「うん、うん、よくがんばったわね」
おれたちの仕事っぷりを、ねぎらってくれる。
「さすがアリシアさんですね、おれたちにあの仕事を任せてくれるなんて」
「あなたたちなら、やってくれると思ったのよ。正直、ああいう依頼をうけてくれる奇特な冒険者は、このギルドではあなたたちくらいだわ。ありがとう」
おれは気分良く、
「うん、あれは、やはり、実力あるおれたちでないと無理でしょう。一見ただの引っ越しだけど、実は曰く付きの建物で――」
「えっ?」
アリシアさんが、なぜか戸惑った顔をする。
「扉を開けたら黒い霧に引きずりこまれて」
「えっ、えっ?」
「かまどから這い出てきた、へんなとんがり頭の人形が襲いかかってきて」
「えっ、えっ、えっ?!」
「びっくりしたなあ。もちろんチョチョイと片づけてやりましたが」
「まあ、直接とどめをさしたのは、たまたま通りがかった馬と、バケツをもった店のおばさんだがな」
とヌーナンがつぶやく。
うるさいぞ、ヌーナン。おれのだんどりがよかったんだよ。
「建物も見違えるように明るい雰囲気になって、開店予定の、ばあさんの店も商売繁盛まちがいなしですよ!」
「あっ、店の名前を聞いとくの忘れたな」
「まあ、場所はわかるから行けばいいだろう」
「いつからやるんだろうな」
などと、おれたちが達成感に包まれ、楽しく話していると、
アリシアさんの様子が、どうもへんだ。
表情が硬い。
「サバンさーん、ちょっと来て下さーい」
「へっ?」
なんだか、こんなことが前にもあったような……。
おれたちは、わけがわからず顔をみあわせたのだった。
例によって、ギルドの応接室である。
こんなに何度もここに入れてもらえるとは、おれたちもえらくなったもんだ。
しかし、サバンさんの顔は渋い。
「どうして、こうなるかなあ……」
「はい……まったくです」
サバンさんの横でうなずくのは、アリシアさんである。
「おい、アーネスト!」
「は、はいっ!」
「アリシアから聞いたが、その人形ってヤツ、頭がとんがっていて、胴体にはなにか呪文が描かれてたって?」
「はいっ、その通りです! でも」
おれは、サバンさんの圧力にビビりながら説明した。
「たいしたことなかったですよ。何度もとびかかってきたけど、ぜんぜん攻撃力なかったから。あれはきっと、レベルの低い、ショボい呪いですよね」
「うーん、そこがなあ……」
サバンさんが、アリシアさんに目配せをする。
「はい」
アリシアさんが、棚から羊皮紙をとりだし、おれたちの前にひろげる。
「どうだ、お前ら。お前らを襲ったのは、これじゃないか?」
「あっ!」
その羊皮紙に描かれていたのは、ザマ葱のようなとんがり頭に、三角の目、大きな鼻に横に広がった口。寸胴な胴体におどろおどろしい呪文が描かれた、細い手足の人形。
まさにあいつである。
「ランダウの呪い人形っていうんだよ、それは」
サバンさんが言う。
「こいつはなあ、いにしえの暗黒魔導師ランダウが術式を組んだといわれている、世界最強クラスの呪道具だ」
「ひえええっ!」
「これをあの店に仕込んだヤツは、ずいぶん恨みが深かったようだなあ。ランダウの呪い人形といえば、闇で、かなりの値段でとりひきされている代物だからな。おい、アーネスト!」
サバンさんがおれをじろりとにらむ。
「お前、なんともないのか?」
「ええと……?」
おれはあわてて、あちこち身体をさわってみたりしたが、とくに何もないようだ。
ばあさんのように、体調が悪いと言うこともない。
どちらかというと、調子は良いくらいだ。
「絶好調です!」
おれが元気に答えると、サバンさんはあきれた顔で、パルノフとヌーナンにも聞く。
「パルノフ、ヌーナン、お前たちから見て、どうなんだ? アーネストにかわりはないか? 呪いに取り憑かれているようなようすは」
「はい、特にかわりはないようです」
「いつもの、軽率で間抜けなアーネストです」
「そうそう、その通り。いつもの、へなちょこなアーネストです」
って、おいっ、お前ら!
「ふうむ……」
サバンさんが腕を組んで
「たしかに、アーネストからは、呪われているような気配は感じないが……」
アリシアさんが言う。
「ふしぎですね……」
「ふしぎだ……本来なら、アーネストごときに太刀打ちできるような、へぼい代物じゃないんだがなあ……」
サバンさんはため息をついて、
「まあ、なんにせよ、良かったな。全員、命があって。依頼人はとても喜んでたようだしな……これからも、命を大事にがんばれ。とにかく、無茶はするなよ、とにかく。頼むぞ、アーネスト」
そう言うのだった。
「ああ、それからな」
サバンさんは、退出しようとするおれたちに声をかけた。
「あの、骸になっていた冒険者だが――」
「なにか、分かったんですか?」
おれが聞くと、
「ああ、素性がわかった。お前らが持ってきた帽子が手がかりになってな」
「良かったですね、駆け出し冒険者が野垂れ死にのままではかわいそうだ」
「ちがうぞ」
サバンさんが首を振る。
「駆け出しどころではない。その道では有名な、ベテランの魔道具ハンターだったんだ」
「魔道具ハンター……」
「そうだ。伝説の貴重な魔道具を求めて、遺跡や魔境を探索するのを生業にしている連中だ」
おれはおどろいた。
わからないもんだな……てっきり駆け出しの冒険者がやられちゃったんだと思ったが。あの骸骨、実力のあるベテランだったのか……それがどうして、あんなことに。
「関係者が、お前らに詳しく話をききたいとのことだ。こちらに向かって、出発したそうだから、到着したら連絡する。相手をしてやってくれ。急いでも、ここまで来るのに、数日はかかるそうだぞ」
「はい……わかりました」
おれたちは、クエスト達成の報酬をもらって、ギルドをあとにした。
報酬はなんと、またまた思いがけない大金になっていた。最強の呪い人形を追い出したぶんが上乗せになったのだそうだ。
いきさつにいろいろと腑に落ちない点はあるものの、
「よおーし、今日も贅沢にいくぞ!」
「やったぞ、『暁の刃』おう、おう、おう!」
満足して宿屋に帰るおれたちである。
エミリア、どうだ? おれたちはまた稼いじゃったぞ!
そしてその頃エミリアは——。
いつも読んで下さってありがとうございます。アーネストには、なんだか謎がありそうですね。おいおい、その秘密は明らかになるでしょう。楽しみにお待ちください。
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