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勇者パーティにはピエロはいらない  作者: トラタロウ
あらくれサーカス団
9/52

閑話 マリーの運命の人 後編

 次の日。

 マリーは早々に仕事を終わらせて、あらくれ劇場に来ていた。

 入場料である大銅貨1枚という大金を払って中に入り、舞台前に並べられている観客席に座っていた。


 大切に貯金していたお金が失って、少し手が震えたけど、私の運命の人が目の前の舞台で会えるのなら、この時のためのお金だったと心に納得させた。

 

 開演を待ちながらマリーの気持ちはソワソワと心が躍った。

 まだかな? まだかな? そう思っていると、当然照明が消えて、周りが真っ暗になった。

 そして舞台だけ明かりがつき、黒いシルクハットを身に着けた、立派な白髭の人物が現れた。

 

 あれが、あらくれサーカス団の団長なのかなっと思っていると。


 「トム座長です。どうぞ今日はお楽しみくださいませ」っと言ったので、あれ、座長? と思わず頭をかしげた。


 まぁ、それはともかく、どうやら今から公演が始まるようだったので、ワクワクした気持ちで体を前のめりに倒した。

 

 サーカスが始まると、芸人達が現れてが色んな演技を見せた。

 それは動物を使った芸や、剣を持ちながら踊った芸や、綱渡りをしている人の上に乗って、逆立ちをしている芸とか。


 そして次にピエロ親子が舞台に現れた。


 「いた!!」

 

 マリーの運命の人、ロジックを見つけて呟いた。

 彼は派手な帽子と服を身に着け、顔には特殊メイクしていた。

 一見、誰だかわからない姿をしているのだけど、マリーにはすぐに分かったのだ。


 ロジックとマッチョ男ピエロの演技が始まると、マリーは息を止めているかのように静かにしていた。

 ずっと終わらないでほしいと思いながら彼の姿をを眺めていた。


 そしてとうとう演技が終わり、ロジックが舞台から去って行こうとしていた。

 

 あーあぁ、終わっちゃったなぁ。

 

 心の中で残念に思っていると、ロジックがマリーを見つけて手を振ってきた。

 突然の事でドキッと驚き、なんだか恥ずかしくなって顔を俯いてしまった。

 それから結局、ロジックが舞台からいなくなるまで顔を上げることが出来なかった。






 それから次の日。

 マリーは早々に仕事を終わらせて、あらくれ劇場の裏口にやってきた。

 ロジックと初めて会った時のように偶然、ばったりと出会うことがないかと期待いしたのだ。


 でも、そんな偶然ってなかなかないよね‥‥‥。


 「あれ、マリーちゃん。おはよう!」


 わぁ!! と心の中で大きく叫んだ。 

 まさか本当に出会うとは思わなかったのだ。


 「あう、おはようです。ロジックさん」


 顔を真っ赤にしながらロジックの前に出て、朝の挨拶をした。


 「ありがとうな!」

 「えっ?」


 唐突にお礼を言われてマリーは首を横に傾げた。

 自分が何をしたのかまったく思いつかなかったのだ。


 「ほら、昨日来てくれただろう。嬉しかったぜ!」

 「はぅ」


 マリーは顔がぽっと赤くなった。

 そう事を言われると、逆にマリー自身のほうが嬉しかった。


 そしてだ、もしかしたら少し仲良くなれたかなとも思った。

 だからマリーは、この調子で絆を深めようと、勇気を出して願いをしてみた。


 「あの! ロジックさん」

 「ん? どうした」


 マリーは心臓が破裂しそうなぐらい、大きな鼓動を鳴らして緊張した。

 断られたらどうしよう‥‥‥そんな気持ちで胸がいっぱいになりながらも、マリーは声に出した。


 「お‥‥‥お兄ちゃんって呼んでもいいですか」

 「お、お兄ちゃん!?」

 「だ‥‥‥だめですか?」

 「いや、かまわんぜ」

 

 マリーは後ろを向きながら、ぐっとガッツポーズをとった。


 これはとある大人から聞いた話なのだけど、好きな人と仲を深めるには身内の様に呼び合うことで、一気にお互いの距離が縮まる‥‥‥と聞いたことがある。

 マリーは、これもう運命の人との仲が深くなったと思った。

 

 「あーそうそう、マリーちゃん。昨日の入場料大変だったろ? 無理しちゃだめだぞ」

 「あ‥‥‥はい。大丈夫です。お金はあります」


 ポリポリと頬をかくロジックは心配そうにマリーを見ていた。


 「大丈夫です。お金あります」


 もう1度言った。

 あまり心配をかけたくなかったのだ。


 「本当に無理しちゃダメなんだぜ。お金は大切だしな」

 「あうぅ」


 ‥‥‥大丈夫。貯金全て出せば、2、3回は行けるから大丈夫。

 そう言いたかったけど、それを言うともっと心配しそうな気がしたので言えなかった。


 「そうだ、ちょっと演技をするから見てくれないか?」

 「あ、うん!」


 こうして、マリーはロジックの演技を見ながら楽しい一時を味わっていた。





 それから数日後。

 マリーはあらくれ劇場の周辺でマッチを売るようになった。

 この場所でのマッチの売りゆき悪かったけど、マリーは気にしなかった。

 

 そんなあらくれ劇場の周りでお仕事をするマリーをじっと見る1人の老人がいた。

 瓦礫が積まれた場所に、のほほんとしながら座っていた。

 

 見られているのに気づいたマリーは、その老人に近づき「マッチはいりませんか」と話しかけてみた。


 「ほほぉ、それでは頂こうかのぉ」

 

 マリーは老人にマッチ箱を1つ渡した。


 「ありがとうお嬢さん。はい、代金」

 「どうも。それでお爺さん、私を見ていたけど何か用ですか?」


 マリーは早速に質問してみた。


 「なに、お嬢さんを見ていると良い物語が浮かんできての、少し観察しておったのじゃよ」

 「観察‥‥‥ですか?」

 「うむ、実はわしは童話作家での」

 「童話作家! わっわ、すごいです!!」

 「ほっほっほ」


 童話作家。それは神話や伝説、子供たちに読み聞かせる創作の物語を絵本として書く者。そして、星の神に物語を捧げる者だ。


 彼ら童話作家は星の神に捧げる物語を追い求めて、世界を彷徨い、危険な場所でも気にせず、素晴らしい物語になりそうな素材を探していった。

 そして完成した童話が星の神に認められると、本に星の印が刻まれるという。


 「お名前を聞いてもいいですか」

 「ハンス・ローゼンバーグという」

 「お、大物の童話作家様ではありませんか!!」

 「なに、星の印をもらったのも3つぐらいよ」

 「3つも! すごい、すごいです」


 星の神から印を貰えるというのは、人にとって最高の名誉であり、最上級の勲章だった。

 しかも、その印を複数貰ている人物となると、この世界では凄まじい影響力を持つようになった。

 そんなハンス・ローゼンバーグという人物は、童話作家として誰もが知る超有名人であり、国王でさ、様づけされるほど立場が高かった。

 

 「さてと、それでは帰るかの。マッチ売りの少女さん。またのぉ」

 「あ、はい! こちらこそありがとうございます」


 そうしてハンスは去って行った。

 マリーはなんだか凄い人と話せてとっても嬉しい気分になれた。

 後はロジックと出会うことが出来れば、今日という日が最高の1日になると思った。


 そんな機嫌の良いマリーは、あらくれ劇場の裏口付近で休憩しつつ、少し待ってみた。

 するとあらくれ劇場の裏口から1人の男が出てきた。


 あっ!!


 偶然にも、その人物はマリーの運命の人だった。


 「お兄ちゃ‥‥‥」


 ロジックに声をかけようとしたのだけど、突然ロジックの後ろから妖艶な女性が現れたので、マリーはなぜか隠れてしまった。

 それから顔だけ出して、2人の様子を見てみると、なんと、その妖艶な女性はロジックの頬にキスをしたのだ。


 「なっ!」


 マリーは激しく動揺した。そして、それから言いようのない怒りが湧いてきた。


 「私の運命の人に‥‥‥キスした」


 マリーの心の中で嫉妬という感情が渦巻き、怒った目で妖艶な女性をじっと見ていたのだった。

 

   

 


 それから数日後。

 マリーは仕事終えると、いつものようにあらくれ劇場の裏口あたりに来て、ロジックが現れないかと期待しながら待っていた。がしかし、タイミングが悪いのか、なかなか出会うことがなかった。


 そんなしょんぼりしていたマリーは、突然変な想像が脳裏に浮かび上がった。

 それは、先日ロジックにキスをしたあの女性と一緒に何かしているんじゃないかと‥‥‥。


 「うぅ、どうしよう。覗いてみようかな‥‥‥いや、でも、それは駄目だよね‥‥‥はぁ」


 気になってしかたなかったマリーは、溜息を吐いてあらくれ劇場を見上げた。


 「‥‥‥帰ろう」 


 辺りが暗くなっていたので、今日は諦めて、孤児院に帰って行った。


 トボトボと落ち込みながら孤児院に帰ってきたマリーは、玄関で偶然にもパメラ院長と出会った。


 「マリー、元気がないじゃないか。何かあったのかい?」

 「いいえ、何もありませんよ」

 「そうかい‥‥‥。そう言えば、運命の人は見つかったのかい?」


 その言葉にマリーはニッコリと微笑んだ。


 「はい! 見つけました」

 「おや? ‥‥‥そうかい。ふむ、そうかいそうかい」


 パメラ院長は深く考え込みながら頷いた。


 「それはどんな人物だったかい?」

 「それは言えません」

 「おや、なんだって‥‥‥もう1度言ってごらん」

 「言えません」

 「おやおや‥‥‥どうしてだい?」

 「貴方は私の運命の人を傷つけるかもしれないからです」

 「なに!?」


 マリーの言葉に、パメラは驚愕の表情をした。


 「おかしな事を言う子だね。私が何をするというのだね」

 「パメラ院長。リリィとエリィー、貴族に売ったのでしょう?」

 「‥‥‥さてさて何を言ってるのか、私には分からないよ」

 「パメラ院長の言う運命の人なんてすべてデタラメ。私達に夢を持たせて、自分から少女趣味の変態貴族様に心と体を差し出させて、貴方は貴族から大金を貰うんですよね」

 「‥‥‥さて、なんのことやら」


 勢いでパメラ院長に追及したマリーだったが、パメラ院長は白を切って鼻で笑ったのだった。

 そして、冷たい目でマリーを見て言った。


 「マリー、あんたもういらないよ。出て行きな」

 「‥‥‥はい、出て行きます。さようならパメラ院長」


 パメラ院長は何も返事をせず、そのまま自室に戻って行った。

 マリーは孤児院の中に置いてある荷物を急いで整えて、孤児院から出て行った。





 「ここにしよう」

 

 マリーは誰も住んでいない廃墟を見つけて、そこを自分の仮住まいにした。

 荷物を置き、寝床を作り、蝋燭に火を付けて明かりをともして、住む場所として最低限の空間を作り出したら、次にこれからを生きて行くために何をすべきかについて考え始めた。


 これから生きるために必要な事‥‥‥それは、お金を稼ぐことだ。


 マリーは自分のお財布を開いて、所持金を確認した。

 それから、荷物の中にある、売れ残ったマッチ箱見て考え始めた。


 まずは‥‥‥いま持っている全てのマッチの箱を売ってお金を集めよう。

 それから、その集めたお金を元手に、何か商売でもしてみよう‥‥‥そう思った。


 子供でもできる簡単な仕事で、それでいて着実にお金を稼ぐことができる商売。

 何かないだろうか‥‥‥。


 「‥‥‥はぁ」


 なかなか考えがまとまったので、一旦後回しにした。

 とりあえずは、マッチの箱を売ってお金が集める事に専念しようと思った。


 次の日、早速マリーはカゴを持ってマッチ箱を持って外に出た。

 向かう場所は人通りの多い中央通り。

 前門から城に繋がる大きな大通りで、その両脇には数多くのお店が立ち並んでいた。


 「マッチいりませんか? マッチはいりませんか?」


 中央通りに着いたマリーはマッチ箱を売り始めた。

 身形の良さそうな人に積極的に話しかけて、1つ2つ、3つ4つとマッチ箱を売って行った。

 そして、気がつけばカゴの中にあったマッチ箱はたったの6箱しかなかった。


 「‥‥‥ふぅ、ちょっと疲れちゃった」


 歩き疲れたマリーは脇道に入って、積まれた木箱の上に座って休憩した。

 カゴを膝元に置いて、もう1度マッチ箱の数を数えた。 


 「良かった。今日中に全部売れそう」


 今までで1番売れた事に驚きつつも、今日中にお金を集めれた事にほっとした。

 こういった事に時間かけると、食費や日用品などで元手となるお金が無くなっていくからだ。


 「よし、あと6つ。頑張ろう」


 そう思って、立ち上がると、突然後ろから声をかけられた。

 ぎょっとして、驚いて振り向くと、そこには年配の太ったおじさんがいた。


 「やぁ、お嬢さん。どうだい? 俺と一緒に暮らして、幸せにならないかい」

 「えっ?」


 不気味な笑顔をしたおじさんの言った言葉は、貴族と出会った時に言われた言葉とほぼ一緒だった。

 マリーはなんだかとっても嫌な予感がした。


 「い、いいえ。私はいいです」


 おじさんから離れるように、後退りをしながら断った。


 「ああ、そうか。でもな、パメラばあさんにお金を払ってるんだ。嫌がっても連れてくから」

 

 パメラばあさんという言葉で、マリーはすぐ理解した。

 パメラ院長は私を売ったのだった。


 「それじゃ、行くぞお嬢ちゃん。もう買ったんだ。お前は俺の物だ」

 「いやっ!」


 おじさんがマリーの肩を掴もうとすると、マリーはマッチを取り出して火を付けて、おじさんのズボンのポケットに放り投げた。


 「ほぁちゃぁぁぁぁ!!」


 おじさんのズボンが燃えた。真っ赤に燃えた。

 おじさんが下半身が燃え燃えになっている間に、マリーは急いで逃げた。


 「はぁはぁはぁ」


 逃げた場所はあらくれ劇場の裏側にある細くて暗い脇道だ。

 マリーがロジックが出て来ないかなーと陰から見てるいつもの場所に着いた。


 「はぁー‥‥‥どうしよう」


 マリーは膝を折りながら悩んだ。

 まさかパメラ院長がここまでしてくるとは思わなかったのだ。


 「はぁ、となると、さきほどのおじさんは私を見つけたら追いかけてくるよね」


 困ったマリーは、もう1度溜息を吐いて頭を悩ませた。

 すると、あらくれ劇場の裏口の扉が音を立てて開いた。


 「うーし、疲れたから休憩休憩っと」


 あらくれ劇場からピエロの青年が、ピョンと飛ぶように出てきた。

 

 「わっわっ、どうしよう」


 突然あらくれ劇場からロジックが出てきたのに驚いた。

 それから、声をかけようかとどうしようかと悩み始めた。


 そんな時、別の通りから酔っぱらった女性が現れた。


 「あれー。ロジック君ではないですか。がんばってるー」

 「ティティさん。またお酒飲んでるんですか。あ、ちょっと」


 ティティはいきなりロジックに抱きついて、頬にキスをした。


 「サービスサービスー」


 ティティは笑いながらあらくれ劇場の中へと入っていった。


 それを見ていたマリーは、瞳の艶をなくしていた。

 そして体の中のどこかで嫉妬の炎が燃え上がった。


 「むぅーー!!」


 マリーは、無意識にマッチに火を付けていた。

 ロジックがどこかへ行ったのを陰で見送った後、マリーはあらくれ劇場に近づいていった。


 「私の運命の人を盗もうとする泥棒は燃やさないと‥‥‥」


 屋敷と一緒にあの女も燃えろ‥‥‥と、マリーはあらくれ劇場にマッチの火を近づけた。

 すると、1人の老人が奇声をあげた。


 「待ったまった! それはいかーんぞ!」


 マリーは横を振り向くと、そこには童話作家のハンスがいた。


 「ふぅ、焦ったわい。まさか本当に火をつけようとするとは思わなんだ。もう少しで最悪な物語が出来上がるところじゃったわい」


 マリーは、火のついたマッチを見て、ハッと我に返った。


 「わ、私恐ろしい事しようとしていました」


 もし、このあらくれ劇場を燃やしてしまったら、ロジックの住む家まで失くしてしまうところだった。

 

 「ふむ、正気に戻ったか。はぁ‥‥‥よかったよかった」

 「ありがとうございます。ハンスさん」

 「うむ。マッチ売りのお嬢さん、焦ってはいけないよ。大丈夫。あのピエロの少年は、キスをしてきた女性には興味はない聞いている。短気を起こさずに、良好な関係を積み重ねれば、お嬢さんの望み通りになろうて」

 「それは本当なんですか? 本当に興味ないんですか?」

 「うむ。ちゃんと本人から聞いたから安心しなさい」

 「はい。ありがとうございます」 


 マリーはハンスの言葉に救われた気持ちだった。


 お兄ちゃんは、もしかしたらあの女の事が好きになってるのではないか‥‥‥という考えが、脳裏に浮かんでくることが何度もあったので、ハンスの言葉を聞いて安心した。


 「さて、ワシはもう行くが、マッチ売りのお嬢さん。何度も言うが焦ってはいけないよ」

 「はい。わかりました」

 「ふぅ、宜しい」


 マリーはハンスを見送って、それから自分の拠点に帰っていった。





 次の日。

 朝早く起きたマリーは、早速中央通りへ向かっていた。

 今日中に残りのマッチ箱を全て売ろうと考えながら歩いていると、後ろのほうから声が聞こえた。


 「あー見つけた。マリー見つけた」

 「ホントだー。マリー発見!」

 「俺が見つけたんぞ! 賞金は俺のだぞ!」

 「ちげーよ。俺のだ。俺が先だし!」


 マリーは後ろに振り向くと、そこには数人の子供達が大きな声で、マリーに向けて指をさしていた。


 「えっ?」


 見覚えのある子供達だった。

 あの子供達は、パメラ院長が管理する孤児院の子供達だ。

 そして、マリーにとって、同じ孤児院で暮らしていた時の仲間達でもあった。


 「マリーを捕まえろ!!」

 「賞金が出るぞ、絶対捕まえるぞ!」


 子供達がマリーを捕まえようと走ってきた。


 「えっ、賞金!? パメラ院長は私を捕まえるのに、お金を出しているの!!」


 マリーは驚きながらも、急いで走って逃げた。

 そして仮住まいに隠れて息を潜めた。


 「‥‥‥もう、大丈夫かな?」


 なんとか子供達の追跡から撒けたものの、動きづらい状態になった。

 これだと、中央通りで、マッチを売るのは難しいかもしれない思った。

 なぜなら、あの場所は子供達もよく行く場所だから。


 「となると、夜しかない‥‥‥」


 夜になると子供達は孤児院へと帰って行くので、夜になってから中央通りでマッチを売りに行こうと思った。


 だがしかし、不思議な事に、夜になっても子供達は中央通りにいた。

 じっと誰かを探す様に首を振りながら歩いていた。


 マリーは、ここにいると危ないと思い、別の通りに足を向けた。

 が、いたるところに子供達がいた。

 

 「どういうこと?」


 なぜこの時間になっても孤児院に帰っていないのか、不思議だった。

 いや、もしかしたら、パメラ院長が何か指示を出したのかもしれない‥‥‥そう思った。


 結局この日は何も出来ず、マリーは仮住まいへと帰っていった。


 それから次の日、また次の日、それからまた次の日と時間が過ぎていく。

 あれからマリーは、子供達に見つからないように、脇道でコソコソとマッチ売り、ようやくマッチ箱が残り1個となった。

 

 「さてと、これからどうしょうかな‥‥‥」


 あらくれ劇場裏側の脇道で座りながら、手元に持っているお金を見ながらこれからについて考えていた。

 マッチ箱は残り1つ‥‥‥それを売った後は、どのようにしてお金を稼いでいけばいいのかを。


 「まったく思いつかない」

 

 今まで、与えられていた仕事をこなしていく事しかしてなかったので、自分から新たに稼ぐ手段を思いつくなど出来なかった。

 

 「何処か住み込みで雇ってくれる場所があればいいんだけどなぁ‥‥‥。もしくは、今までのように手拭やマッチ箱を仕入れて、売って稼いでいければいいのだけど、パメラ院長、絶対妨害してくると思うし‥‥‥どうしよう」


 マリーはこれからの事を考えると、どうも先が見えなくて、気持ちが落ち込んだ。

 何気なく空を見上げ、茜色に染まる空をただ呆然と見つめていた。

 

 「‥‥‥帰ろうかな」


 どうやらロジックが出てきそうに無さそうなので、ここにいる意味がないなと思ったマリーは、仮住まいに帰ろうとした。

 すると丁度、あらくれ劇場の裏口から、あらくれサーカス団の団員が何人か出てきた。

 

 マリーは脇道からそっと顔を出して、いったいどうしたんだろうと思いながら見ていると、大きな紙を持ったロジックが出てきた。


 「あっ!! ロジックのお兄ちゃ‥‥‥」


 マリーはロジックに声をかけようと思った‥‥‥のだけど、なぜかあらくれサーカス団の女性団員のティティだけが戻ってきて、なぜかロジックの頬にキスをして、あらくれ劇場の中へと入っていった。


 「むぅー!!」


 それを見ていたマリーは自分の心の中にある嫉妬という感情に火がついた。

 ついでにマッチの棒にも火がついた。


 その後、ロジックと、あらくれ劇場から出てきたティティが何処かへ行く姿を見ながら、ずっと口を膨らませていた。


 ‥‥‥あの女、やっぱりロジックのお兄ちゃんを誘惑しようとしてる。

 一緒に暮らすのは危険。このあらくれ劇場燃やして無くなってしまえばいいんだ。


 冷静じゃないマリーは、マッチの火をあらくれ劇場につけようとした。


 「‥‥‥だめ」


 マリーはなんとか思い直して、燃えているマッチの火を消した。

 マッチの火の中で、ロジックの顔と童話作家ハンスの顔がふと見えたのだ。


 「‥‥‥はぁ」


 マリーはあらくれ劇場の壁を背に、膝を曲げて座り込んだ。


 ‥‥‥最近お兄ちゃんとお話ができないでいた。

 それどころか、この場所に来ることすらだんだん難しくなっている。

 会いたいのに会えない。会ってもすれ違う、邪魔される。


 「なんでだろう‥‥‥」


 マリーはマッチに火をつけて、その火を呆然と眺めた。

 不思議とマッチの火の中からロジックの顔が見えたような気がして、なんだか心が穏やかな気持ちになれた。


 「見つけたぞ、このクソガキ!」

 「えっ!」


 突然大声を出した大男が、マリーを見つけて近づいてきた。

 その男は以前、中央通りでマリーを捕まえようとした、下半身が燃えたおじさんだ。


 「クソガキ。お前のせいで俺の下半身が大やけどしちまった。おかげで俺の大事な物が不能だ」


 苦悩の表情を浮かべたおじさんはぐっと手を握りしめた。


 「お前を遊び相手にしようと思っていたけど、もういい。ぶっ殺す!!」

 「ひっ」


 マリーはおじさんの恐ろしい殺気に怯えた。

 手足は震え、体が竦んだ。


 やだっ‥‥‥こ、殺される。


 恐怖に心が侵されたマリーだったが、それでもマッチ箱からマッチを3本を取り出し、小さな火をつけた。


 「ひっ!! い、いや、そんな火なんぞ怖かねぇんだよ!」


 一瞬おじさんは火傷のした股を押さえて怯えた。

 けど、すぐ思い直して、マリーに近づき、火のついたマッチを手で叩き飛ばした。

  

 「あっ」

 「あっ‥‥‥」


 マッチの火は消えずに、そのままあらくれ劇場の開いている窓の中へと入っていった。

 すると、窓の中から煙がモクモクと湧いて出てきた。

 そしてついには、バチバチと音を立て赤く燃え上がった。


 「や、やべぇ! お、俺は知らねぇからな!!」

 

 燃えだしたあらくれ劇場を見たおじさんは走って逃げだした。


 「ど、ど、どうしよう」


 マリーは燃え広がっていくあらくれ劇場を見てすごく焦った。

 火を消さなければいけないのは分かっているのだけど、どうやって、これだけ燃え上がっている火を消せばいいのか分からなかった。


 「お、おい!あれ火事じゃねぇか」

 「ま、まじか! おーい、皆火事だぁ!!」


 ゴォーと音を立てて燃えていくあらくれ劇場に気づいた人達が声をあげた。


 「火事だ。誰か水を持ってこい!!」

 「あらくれ劇場が燃えてるぞ!」


 あらくれ劇場の周囲に人が集まってきた。


 「わわっ、に、逃げないと」


 多くの人が集まり騒ぎ出したので、マリーは混乱し、怖くなって逃げ出した。


   



 「うぉぉ‥‥‥なんじゃこりゃ!!!」


 マリーは逃げ出していると、後ろの方からロジックの悲鳴のような声が聞こえてきたので、ピタリと足が止まりすぐ後ろに振り向いた。


 「お兄ちゃん‥‥‥」


 マリーは、咄嗟に、燃えているあらくれ劇場に戻ると、ロジックを見つけた。

 口を開けたまま硬直しているロジックの姿を‥‥‥。


 「あぁ、私‥‥‥私のせいだ‥‥‥」

 

 マリーは、ロジックが住む家、あらくれ劇場が燃えたのは自分のせいだと思った。

 この燃え上がる火は、事故のようなものなのだけど、その要因を作ったのはマリーだった

 もしあの時、マッチに火を付けていなければこんな事にはならなかった。


 マリーはロジックの姿を見ながら、どう声をかけたらいいのかわからず、立ち尽くした。

 すると、大きなピエロの男がロジックの前に現れて、何処かへ連れて行った。


 2人が何処へ行くのかが気になったマリーは、後をついていった。

 脇道に入ったので、見つからないようにこっそりその先を覗き見ると、するとそこにはあらくれサーカス団の団員達が座っていた。

 団員達はがっくりと頭を落として、落ち込んでいる様子だった。

 

 ‥‥‥そうだ、お兄ちゃんだけじゃなく、ここの人達も住む場所を失くさせてしまったんだ。


 マリーは罪悪感で胸が締め付けた。

 そして思った。彼らに何か、そう、償いをしないといけないと。


 「おいっす。おら、お前ら全員ついて来いや!!」


 マリーがその思いを胸に秘めた時、突然大きなピエロの男が声をあげて、そしてサーカス団皆を連れてまた何処へ行ってしまった。

 

 マリーは急いで後を追った。

 自分の出来る事で、彼らの為になることを考えながら。





    

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