episode 3 空白の時間
海くんと別れた後、高塔山へ向かった俺と虎は車をここに停め、ふみさんが言っていた頂上を目指す事にしたんだ。
「白咲さん!僕昔はこの山をよく駆け巡っていたので、案内は僕に任せてください!」
「とーら、懐中電灯を持たないと足元が見えなくて危ないよ。ほら、俺の車に1つ積んであるはずだから、これを持って行こう。」
顔を輝かせながら、落ち着かない様子の虎之助を横目に、車内に積んであるはずの懐中電灯を、携帯のライトで助手席側のグローブボックスを照らしながら探す。
「あっ、あったあった。こういう物はやっぱり車に常備しておくものだな。」
懐中電灯の明かりを確認した後、下に向けていた顔を上げた瞬間、バックミラー越しに人のような影が目に入る。
最初は、俺たちと同じように花を見に来た村人かな、と思ったがその人影が複数・・・何十、いや、何百もの人数に見えた。
流石におかしいと思った俺は、虎にその事を伝える為、車外に飛び出す。
何か、嫌な予感を感じたからだ。
「虎っ!!」
「白咲さん?どうし・・・」
虎に事情を説明する前に、視界に映った出来事に俺は息をする事さえ忘れてしまった。
車を囲むようにして色素の薄い、人のようで、人じゃない何か、着物のような、甚平のような服を着た、一般的に言うなら幽霊、が男女問わず大勢いたのだ。
「っ、これ・・・白咲さん!!」
「どうなってるんだ・・・?」
虎に近づこうとしたが、それを遮るかのように、周りを取り囲む人達とは違う、甲冑を着た、刀を持つ男が俺の前を立ち塞ぐ。
刀を持つ手を大きく振り上げ、こちらへと近づいてきた。
モーションが遅い。その刀が振り下ろされる前に後ろへと下がるが、虎と距離が出来てしまう。
こいつがいる限り、虎の方へ向かうのは難しそうだ。今はこちらへと注意が向いているが、いつ弟分の方へ向かうか分からない。
モーションが遅い分、1度怯ませて逃げるが得策か。
「虎っ!!こいつが俺に注意を向けている間に、逃げろ。」
「い、やです!!僕はあんたを置いて1人で逃げるなんて出来ません!」
虎はその辺りに落ちていたであろう太めの木の枝を手に、ジワリと甲冑の男へ近づく。
しかし、男は虎に目もくれずただひたすら俺の方を向き対峙していた。
また刀を大きく振り上げた瞬間、虎が男の横腹辺りに木の枝を叩き入れる。
ぐらりと体制が崩れた男の姿を確認した後
「虎、後でこの場で必ず落ち合おう!今は、逃げるぞ!!」
「はいっ!!」
一旦、俺たちはその場を素早く離れた。
幸いにも、周りを取り囲んでた他の幽霊達はただこちらを見ていただけで、危害を向けることはなかった。
「それから2時間ぐらい経つが、まだ虎とは合流できていない。俺も、この辺りを探してみたんだが・・・」
ファミリーカー前で白咲さんから、家を出た後の経緯を聞いた。
甲冑を着た男、男女の着物を着た幽霊。
一瞬、先ほどまで読んでいた髙塔 五十六助の伝記が頭をよぎる。
しかし、幼い頃はよくこの山に登って遊んでいたが、幽霊が出るなんて話を1度も聞いたことがない。
まだ自身の目で見ていない為、ここで安易な推測を考えるのはよそう。
それよりもまず第1に優先すべきは・・・
「白咲さん、とりあえず虎之助を探しましょう。2時間も探しているのに見つかっていないとなると合流できない、なんらかの事情があるかもしれません。」
虎之助が、白咲さんとの約束を違える訳がない。
危機管理能力や運が誰よりも高い虎之助の事だから、間違いなく無事ではあるはずだ。
一刻も早く虎之助を探し出しこの山を下ろう。出来る限り、幽霊達と遭遇する前に。
「しかし、刀を持った相手によくそこまで冷静に行動ができましたね。ましてや生きた人間ですらなかったのに」
「うん?あぁ、刀を向けられる事自体は初めてではないんだ。よく仕事帰りに、黒づくめの覆面を被った女性に斬りかけられてるから意外と冷静に対処できたよ。」
・・・・何故だろう。凄く、凄く思い当たる節があるのだが。
「へ、へぇ。アブナイですねー。警察行った方が・・・」
「はは、剣筋は読めてるし危ない目にあった訳じゃないから大丈夫だよ。それに、女性にそんな事をさせる俺にも、非があるかもしれないし。」
いえ、恐らく・・・いや、間違いなく逆恨みだと思います。
白咲さんその女性には、ここから無事帰宅できたら、それとなく注意しておきます。




