episode 2 狙われる理由
なんとかストーカー女の注意を逸らすことに成功した為、急いで虎之助宅まで戻ってきた。
家に戻るまでの間、注意深く女を探してみたが、先程までの様につけられてる様子はなかったので、うまく巻けたのだろう。
「はぁ、えらい目にあった。」
テーブルに買って来たものを置き、座り心地の良いソファーで一息つく。何故こんなにも俺は狙われているんだろうか。今までの被害者、目撃者もこんな感じだったんだろうか?
そんな思考を繰り広げてる間に、昨日までの疲れが一気に出たのだろう。そのままソファーで眠りに落ちてしまった。
コンコン
何か、音が聞こえる。
コンコン
虎之助?帰って来たのか?いや、あいつなら俺がいると知ってるからもっと盛大に・・・
コンコンコンコンコンコンコンコンココンコンコンコンコンコンコンコンコゴンゴンゴンゴンッゴンコンゴンガンガン『ユルサナイ』ガンガンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン『コロス』ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン『どうして』ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン『私は』ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン『ただ』ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン『アケロ』
凄まじい音で、脳が完全に覚醒する。まるで、この家を壊さんとする勢いでノック音、いやそんな生易しい表現ではない。
殴る様な、そんな音がこの家全体に響き渡る。
「くそっ、巻けてなかったのかよ!」
ソファーから飛び起き、辺りを見渡す。
この家に帰って来た時には付けていた部屋の明かりが消えており、昨日と同じ状況に冷や汗が流れる。
少なくとも、窓や扉を開けなければストーカー女は入ってこれないはずだ。ならば、この音に耐えれればなんとかなるはず。
未だに鳴り止む気配はない。むしろ激しくなってる気もする。段々と、頭が重く、軽い目眩すら覚えた。このまま気を失ってしまった方が楽なんじゃないか?
そのうち、ノック音に混ざって窓を引っ掻く音も聞こえ出す。
この音、苦手なんだって!!
心底不快な音に扉を、開けてしまった方が楽になれるのでは?そんな考えが過ぎり、ズキズキと痛む頭を抑えつつ、部屋の扉に手をかけた時
「えっ、海くん何してんの?真っ暗闇で。ひとりかくれんぼ??あっ、ただいま!」
扉が開き、虎之助が目の前に現れた。
「と、ら丸?」
「僕虎之助だって〜。で、海くんどしたの??」
いや、それはこちらのセリフで、なんで虎之助がこんな時間に?仕事では??
反射的に腕時計を確認すると、時刻は2時を回っていた。
もう、こんな時間だったのか。
虎之助が帰ってきた直後、あれほど鳴り響いていたノックの音も、引っ掻く音もなくなった。
「虎丸、さっき・・・」
先程までの出来事を話そうと思ったが、言葉をそっと飲み込む。
話してしまっても、いいのだろうか。話してしまっても、解決しない可能性の方が高い。なら、変な不安感を虎之助にまで抱かせる必要はないのでは?
あぁ、ダメだ。頭が回らない。昨日からまともに寝ていないせいだろう。
未だにストーカー女の事も分からない。もう、どうすればいいんだ。
「あっ、海くん。明日から僕もストーカー女?について調べるの手伝うね!3日ほど、休みになったから・・・白咲さんが、海くんたちの方を助けてあげてって言ってね〜」
こちらの憂鬱な気分など御構い無しに、いつもの白咲さんトークを繰り広げる。
空気の全く読めない、目の前のアホ面を見ていると気が抜けてきた。
寝よう。あんな事があったばかりだが、今は眠るのが1番良いだろう。そして、目が覚めたら虎之助に話してみるか。
折り返し地点まで来ました。




