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episode 2 逆鱗


虎之助は、ここにいる間自由にしてもいいと言ってくれた。


『お腹空いたら、冷蔵庫にあるものなんでも食べていいから☆』

と、ウインクしながら出掛けて行ったのだが・・・お前の冷蔵庫カルPスしか入ってねぇよ!!!


あいつどんだけカルPス愛してるんだよ!!年がら年中ホットカルPスばっかり飲みやがって!!乳酸菌の取りすぎでお腹爆発しろ。


この怒りは、あいつが帰ってきて直接ぶつけるとしよう。

仕方ない、外に出るのは億劫だが近くのスーパーで食材を買いに行くしかないか。腕時計を確認すると、現在の時刻は20時すぎぐらいか。急いで行けば閉店までに間に合うだろう。

財布を片手に、近所のスーパーへと足を運ぶ。


スーパーからは閉店を知らせる音楽が漏れ聞こえる。急いで食材を買って帰ろう、店員から白い目で見られる前に。


スーパーの自動ドアの前に立つと、ドアに反射した自分の姿と、髪の長い女性の姿が映し出される。


勢いよく後ろを確認するが、そこには誰もいない。


騒つく不安感を押さえつけ、必要な物を買い足していく。買い物を終え、スーパーを出た後すぐに走り出す。なるべく人通りの多い道を選ぶ。少し迷惑そうにされるが、死活問題なので今だけは見逃してほしい。


このまま虎之助の家に戻っても大丈夫なんだろうか?

いや、ダメそうだな。見られてる、ずっと。


走って、走って、走っても、昨日見た女が、こっちを見ている。


『ストーカー女のターゲットは今上条くんでしょうし。』


中原さんの言葉が頭をよぎった。素直にデリバリーでも頼めばよかったのに。うっかり節約精神がこんな時まで働いてしまった。


何か、何か手持ちにないだろうか。あいつを撃退、まではいかなくとも少しでも怯ませる事が出来れば・・・


桜子ちゃんみたいに、斬るか?いや、あれは無理だし刀持ってないし居合できないし。

塩、は持ってない。むしろそんなものが効くとも思えない。


ふと冷静になり、足を止めてみる。

チラリと道の反対側を見ると、隙間に隠れるようにして長い髪の女がこちらを見つめるだけだった。


監視、されてるのか?女の方を見てみるが、昨日の様に包丁を持っている様子はなかった。

しばらく、泳がせてみるのも手なのか?


いや、このままだと築35年のアパートにも虎之助の家にも帰れない。こうなったら、一か八か近づいてみるか。


先程手持ちを確認していた時、財布に入れっぱなしで忘れていた虎之助の名刺を見つけた。前回、これで何とかなったし今回ももしかしたら・・・


自分から誘い込む様に細い暗がりな一本道を歩く。

見なくても、分かる。後ろから誰かが付いてくる気配を感じる。すぐに反撃できるようにしてはいたが、襲ってくる気配はない。


虎之助の名刺を手に、勢いよく振り返る。


「っ!!」


女は至近距離で、血走る目で俺の顔を覗き込む。

条件反射で拳を振りかざしそうになるのを抑えたが、持っていた名刺を女の目の前にひらひらと落としてしまう。


女の視線は俺からその名刺へと変わる。どうやら蜘蛛女の時に使えた手は、こいつには通用しないみたいだ。


女は名刺に視線を落としたまま動かなくなった。予定とは違ったが、動かないなら今しか逃げるチャンスはない。


その場をすぐに走り去る。一本道を抜け、大通りに出たところで辺りを見渡してみるが、女の姿は見えなかった。

とりあえず、当初の目的通り巻けはしたのかな?


そのまま、急いで虎之助の家まで目指す。



『コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス』


路地裏で呟く女の声は、俺には届かなかった。




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