第十八話 ゆるキャラの苦悩
白影の歓迎会も兼ねていつもより豪華な夕食が終わり、皆が寝静まった深夜。
白影は既に自分の根拠地に戻っており、俺の索敵マップには隣の部屋で眠っているであろう高峰嬢の青い光点しか表示されていない。
俺は自室の執務机にて、高峰嬢の端末画面をずっと見ていた。
『鬼人の肉体 10
我が剣を貴方に捧げる 9』
うん、『貴人の肉体』が『鬼人の肉体』に変化しているね。
以前のステータスを思い出す限り、『貴人の肉体』がカンストして『鬼人の肉体』に変化したと考えるのが自然か。
しかし、貴人から鬼人ねぇ……
どうにも、嫌な予感がする。
確かに高峰嬢の戦いぶりは、貴人というよりも鬼人だけど。
何とも言えない、嫌な感じだ。
おそらく彼女の他のスキル、『貴人の一撃』『貴人の戦意』も軒並み鬼人へと変化していくのだろう。
本来ならば、スキルの進化は喜ばしいことだけど、何故か素直に喜べない。
このままだと、何かとんでもないものが目覚めてしまう、そんな気がする。
そもそもスキルとは何なのか?
便利だし、当たり前に受け入れていたけど、いざ、そう考えると何も分からない。
ただただ、疑問が深まるばかりだ。
………… よし、鑑定しますか!
なにせ俺の鑑定は、なんだかんだで40だ。
なにかしら分かるでしょ!!
『鑑定』
『スキル:次元統括管理機構が被侵略世界勢力へ付与する権能』
えぇ、あっさり分かったわ。
そうか、権能なのか。
じゃあ、スキルが俺達の性格や性質に影響することは無いってことだな。
逆に、俺達の性格や性質を表したものがスキルということか。
うん、むしろ怖いわ!
つまり、貴人よりも鬼人の方が高峰嬢の本質ということだろう!?
お嬢様の皮を被った狂戦士ってか!!?
知ってた!!
まあ、これは良いだろう。
高峰嬢が暗黒面に堕ちたところで、俺には精神分析(15)がある。
流石に今すぐ凶暴化するわけではないだろうし、それまでに精神分析で上手いことやれば大丈夫でしょ!
さて、そんなことより鑑定だ!!
『鑑定』
『鬼人の肉体:HP・SP・筋力・耐久の成長速度(100)%向上
戦闘時、筋力・耐久・敏捷(10)%向上
瀕死ダメージ時、HP(10)/10で耐える』
Tueeeeeeeeeeee!!
高峰嬢のスキルが反則級なんですけどおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?
いや、チートだわ、これ。
えっ、戦闘系のスキルってみんなこんなもんなの?
可笑しくない?
せっかくだから貴人系も鑑定する。
『鑑定』
『貴人の一撃:相手の耐久を(75)%貫通してダメージを与える
貴人の戦意:精神攻撃を(85)%軽減する』
Yabeeeeeeeeeeeee!!
そりゃあロボットだろうが一撃だよ!
完全にヒト型決戦兵器だよ!!
まいったね、こりゃ。
探索系との露骨な待遇差に泣きそうですぞ?
まあ、冷静に考えてみれば、あれだけの無双をしていたのが高峰嬢だけである以上、ここまでのスキルは彼女のみだと推察できる。
もしこんなのが大量にいたら、人類の勝利を俺は信じて疑わない。
だが、問題は『我が剣を貴方に捧げる』だ。
明らかに一つだけ他のスキルと毛色が違う。
『鑑定』
『我が剣を貴方に捧げる:軍神は只、汝を選定す
証明せよ、汝の戦を
証明せよ、汝の粋を
証明せよ、汝の心を』
意味わかんない。
いや、本当に意味が分からないぞ?
どうせ俺への忠誠だろう、とか考えていた自分が、すごく恥ずかしくなるレベルで意味が分からない。
そういえば、このスキルだけ数値の増加が鈍いし、何らかの特殊スキルだろう。
たぶん、数値がカンストしたら、軍神とやらが力を貸してくれる的なサムシングだろうか。
うーん、悩むなー。
このまま放置していて良いものか。
純粋な戦闘能力を考えて、日本の命運どころか、地球の未来は高峰嬢次第と言っても良い。
もしも高峰嬢が何らかの原因で戦闘不能になれば、ダンジョン戦争の難易度はちゃぶ台返しクラスで跳ね上がる。
てやんでぃ、こんなクソゲーやってられるかってんでぃ! ってね。
白影やガンニョム、戦略原潜など、他にも超戦力はいるものの、高峰嬢はその中でも頭一つどころか、棒高跳び並みに飛びぬけている。
それこそ神話で語られる英雄に比肩するくらいだ。
俺は彼女の刀からいつビームが出てきても驚きはしないね!
嘘です。驚きます。
現状、俺達日本勢力の戦力は決戦兵器1人、戦術兵器1人、従者ロボ10体。
それに本国から送られてきた42式無人偵察機システム改 6機、改じゃないのが120機。
ボロボロで廃車寸前の23式戦車1両。
これが今の全戦力だ。
順調に増えてきているものの、今回の魔界第2層のように旅団クラス7000体のモンスターが相手だと、対処しきれるものではない。
予定よりも大幅に早いが、他の勢力と共同戦線を張らないと厳しいか。
だが、そうすると政治に足を引っ張られかねない。
得られる魔石も、目減りすることだろう。
うわー、うわー、うわぁぁぁぁぁぁぁ。
八方塞がりだよー。
辛いよー。
政治なんて、外交なんて、他国なんて大嫌いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
結局、俺が眠ったのは、それから2時間経って日付が変わった後だった。