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俺と君達のダンジョン戦争 作者:トマルン

第二章 序盤戦とか外交とか色々

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第十話 魔界ダンジョン本格開戦

 生命の存在しない、深く、暗い森の中。
 本来ならば不気味な静寂に包まれている森の中。
 しかし、今は木々を圧し折る音と共に、大勢の魑魅魍魎が奏でる様々な鳴き声で満たされていた。

 それもそのはず、少し前までは隠れ潜んでいるはずだった魔物達。
 そんな彼らは現在、森の中央部に集結し、驚くほどの速さで巨大な陣地を築いていた。

 オーガが抜きん出た膂力りょりょくで木々を軒並み切り倒し、ドラゴンがそれらを加工場まで運搬する。
 フレイムウルフは自身の火炎を用いて、金属たる木々を溶かし、ゴブリンやコボルトの作製した型枠に流し込む。
 金属が冷えたら、オーク、ガーゴイル、ハーピー、大蝙蝠が、製造した金属板を組み合わせ、要塞陣地を形作る。

 既に完成している要塞中枢部、ペルシャ絨毯の様な豪奢な敷物が敷かれたそこに身を置く、深紅の巨狼とオーガと同等に巨大なゴブリン。
 巨狼は艶やかな自身の毛並みを、部下のコボルトに整えさせながら寝そべっている。

『小鬼族の勇者よ、貴様の役目は隠密戦術により、猿共の戦力を確実に消耗させること。
 何故なにゆえ、旅団を動かしてまで決戦を急ごうとする?』

 小鬼族の勇者、そう呼ばれたゴブリンは、巨狼に応じないまま傷だらけの使い古された双剣を磨き続ける。
 巨狼はその様子を横目に、まるでため息をするかのように深く息を吐く。

『わざわざこのような大げさな砦を造ったうえ、わしまで呼び出すとは……
 いささか力み過ぎではないか』

 小鬼族や大鬼族にまで『鬼』と呼ばれた貴様が情けない、愚痴るかのように零された嫌味にも、ゴブリンは動じることはなかった。

『そこまでして恐れる必要もなかろうに。
 所詮は分不相応の力を手に入れただけの猿、彼奴等きゃつらの上位種たる我らが本腰を入れれば、むさぼられるだけの餌よ』

『………… 随分と衰えた』

『なに?』

 初めて見せたゴブリンの反応に、しかし意図の分からない言葉に、巨狼は思わず聞き返す。
 ゴブリンは手入れの最中であった二振りの剣を置き、巨狼に目を向ける。
 僅かな失望の念が混じった視線に、巨狼は無意識に気圧された。

『後継を譲ったうえに、耄碌したか、紅き獣』

『…… なんだと?』

 侮蔑ぶべつを隠すこともないその言葉に、巨狼の顔が静かな怒りを纏った。
 如何に跡を譲ったと言えど、その身に秘められた誇りと炎は、微塵も衰えたつもりはない。
 そんな我が身に向けられた、明らかな侮蔑。
 巨狼は自身の怒気を隠すこともしなかった。

『頭に乗った猿に、あの気狂いはられんよ。
 ただの餌に、我が盟友はられんよ』

『…………』

 波風一つ立たない静寂の水面。
 そのような男が瞳の奥に見せた、暗い炎。

『次の戦ならば、このような玩具も少しはマシになる。
 兵共も、戦を知らぬ民兵ではなく、本物の兵士が並ぶことだろう』

 先程まで熱心に手入れをしていた歴戦の双剣を、ただの玩具と切り捨てる。

『しかし、その時には敵も力を増している。
 ならば、いつ踏み潰そうと変わりはない』

 ゴブリンはそう言い切ると、静かに目を閉じ、口を開けることはなかった。






「———— なんだ、あれは」

 早朝、探索を始める前に無人機による偵察を行ったエデルトルート率いる人類同盟は、昨日までは影も形もなかった要塞陣地に、ただただ驚くことしかできなかった。
 ご丁寧に周囲の木々まで伐採し尽くした様で、魔の森のど真ん中は巨大な平原と化している。

「正しく、眠り姫だ」

 ガンニョムにまだ搭乗していないフレデリックが、相変わらず良く分からない感想を漏らす。
 それによって気を取り戻したエデルトルート。
 何となく悔しい心中を表に出すことなく、ゲリラ掃討戦から要塞攻略戦への切り替えを行う。

「フレデリック、弾除け役ですまないが今回も前衛を頼む」

「俺はガンニョムだ!!」

 しっかりと自己主張しながらも、自分の仕事が決まったフレデリックは、自身が本当の居場所と言い張るガンニョムへと乗り込んでいく。
 それを皮切りに、矢継ぎ早に繰り出されるエデルトルートの指示の下、素早く態勢を整える。
 要塞攻略への準備が完了するのに、1時間もかからなかった。

「アルベルティーヌ」

 戦いの直前、昨日から様子が可笑しかったNINJA白影ことアルベルティーヌに声をかける。

「……」

 しかし、彼女はエデルトルートの呼びかけに反応も見せない。

「おい、アルベルティーヌ!」

「…………」

 強めに呼びかけるも、彼女は視線を向けることもなかった。
 エデルトルートは溜息一つ、彼女の呼び方を変える。

「白影!」

「何か?」

 その途端、先程までの無反応が嘘のように、NINJA白影は間を置かずに反応を返す。

「先程から、思い悩んでいるようだが、昨日何かあったのか?」

 いつも口数は多い方ではないが、今日はいつにも増して口を開かなかった白影に、エデルトルートは一応の指導者として気遣った。

「…… いや、何もござらんよ」

 しかし、白影は彼女の気遣いを否定する。
 確かに、一見して白影は口数が少ない以外はいつも通りのNINJAだ。
 口調と見た目が可笑しいだけで、他は至ってまともに思える。

「そうか?
 それにしては————」

 エデルトルートはそこまで言いかけて、思わず口を噤んだ。

「問題、ない…… でござる」

 頭巾から露出している目元、そこにある晴れ渡った空のように蒼い双眼。
 そこにあった太陽は消え去り、澱んだ分厚い暗雲が立ち込めていた。

 人は、一体何があればここまで瞳を曇らせることができるのか。
 彼女の胸の内には、どのようなモノが渦巻いているのか。

「………… そうか」

 神ならぬ人の身であるエデルトルートには、その一欠片すら掴むことはなかった。

『フハハハハ! 幕が開ける!! 真の地獄が幕を開けるぞ!!!
 お前達は我が深淵を覗いて、息を保ったままでいられるか!!?』

 ガンニョムのキチガイ染みた喚声が響き渡る中、人類同盟の進軍が始まった。
真相:薄っぺらい仄かな初恋に、ちょっとした障害が現れただけ。
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