裏舞台4:月に導かれて
能力
魔力を持つ者のほとんどが持っている特殊能力。神職者や信徒の場合、神からの恩恵と呼ぶことが多い。大抵の場合は一つだけ何らかの能力を持っているが、稀に複数能力所持者や無能力者がいる。
深い闇。圧倒的な静寂。
ここ、凰璃学園では呪術的要素の妨げになるとして、夜間のライトアップ等は一切無い。また、夜に出歩くという事はすなわち危険を意味する。教師や風紀委員と出会えば叱られ、怪談や悪魔に出逢えばーーーー
したがって、何らかの用が無い限りは自寮にこもるのが一般的であった……一般的、で。
「やあやあ☆ お嬢さん、久しぶりだね★」
月の光に照らされ見えるは、青年。楽しくて仕方ないという笑みで。他の人をも笑わせようとする笑みで。ピエロのメーキャップをした彼は、佇んでいた。
対峙するは黒髪の少女。何処までも漆黒なその瞳は、何もかもを絶望したようで。ピエロな青年とは実に対照的だった。
「……何の用だ、ピエロ」
まるでこれは予定調和だと言うように。台本通りの筋書きに過ぎないとでもいう風に。当然のごとく偶然出会った2人は偶然会話をし始めた。そう、たまたま、偶然。
「ピエロじゃなくて、笑う道化師でしてよ☆」
笑う道化師。かの高名かつ凶悪なファイユ家の一員を名乗る者にも、全く臆することなく。その、墨をぶちまけたような瞳の色を一切変えることもなく。少女は静かに言葉を紡いだ。
「そうか。それで何の用だ、ピエロ」
「ま、いいけど★ えっとねぇ、ちょっっと賭けをしないか•し•ら☆」
人形のように表情をピクリともさせずに、体を髪の毛一筋も動かさずに。虚を見つめる少女は、確かに一瞬嗤った。
「断る。帰れ」
「えー★ 一刀両断って……酷いな☆」
全く傷ついていない声でいけしゃあしゃあとのたまわるピエロに、流石にイラついたのか。少女は。ダンっと地面を強く踏んだ。
「どうせろくなことではないのだろう。さっさと還れ」
立ち上る影。意思を持ったようにゆらめくソレを、気にすることもなく。まったく怖がろうともせず。ピエロはのんきに楽しそうに話を続けた。
「でね、賭けの内容は★」
「か え れ」
「とってもシンプル☆ 今度の中間試験で何人怪我人がでるか★ 勝者は敗者に一つだけ何でも情報を話させれる☆ さあさあどうぞ★」
「………79」
「78人☆」
気だるげな声と何処までも愉快そうな声。重なった言葉は怪我人が出ることを疑うこともなく、悲しく思うことももなく。淡々と綴られた事実を吐き出していた。
「うーん、一人違い★ ふふっ、気が合うのかなぁ☆」
「……そうだな、お前の可愛い弟とは気が合いそうだよ」
「何のことでして★」
楽しそうな表情を初めて崩した。ピエロ失格のピエロに、少女はあくまでも面倒くさそうに口を開いた。
「狙いは間違っていないが、大いに間違っている。巫女姫は此処にいるが、いない」
「……こんなに情報くれるとか、どんな風の吹き回しかしら☆ 明日は槍でも降るかぞ★」
歌うように紡がれたその言葉は何を示すか。道化師は楽しそうに考える。
「ヒントが無いと、平等でない。
駒は配置され、物語は動き始めた。消えゆくモノを嗤う者は泣き、偽りの王は虚無を探し続ける」
上から見下すかのように高圧的に、神秘的に。予言のごとく、詩のごとき言葉は放たれた。
「ふーん。参考までに言っとくけど……情報を与えすぎて、後悔するなよ、お嬢さん? いくらこわぁい後ろ盾がついているからといって、ね☆」
「あの組織は私のモノでない。私が信じられるのは『家族』のみ。お前と一緒だよ」
家族。常識を逸脱している少女でもこれは大切だったようで、何だかホッコリするような言葉だった。しかし悲しそうに顔を歪めるピエロに少女は特に何も思わずに、只只早く寝たいなと感じていた。
「そうか………………ま、それじゃ、またね、土御門家次期当主さん★」
「もう会わんよ」
吐き捨てられた言葉には、今までで一番の人間味が込められていたーーーーーー
月は哂っていた。何もかもを内包するように、無邪気に、優しく、温かく、美麗に……嗤って、いた




