二十一幕:曖昧エネミー
生徒会
凰璃学園の幼等部から小等部、中等部、高校、大学までそれぞれに一つずつに設置される機関。1学年に原則二人までで、例外はほぼ認められない。
基本的に特権所有者が役員となる場合が多い。が、選挙ではなく、志願制。三人以上の希望者がいれば役員や教員が話し合って決める、ということになっている。しかし最近は推薦された二人がなることが多く、番狂わせがなかった。
仕事としては、風紀委員や祭事委員会と共に行事の運営、他の魔法学校との交流、結界の管理、生徒指導など多岐にわたる。
風紀委員との違いは、定員制であること、人前に立つことの多さ、指導力や統率力が求められること。人の上に立つ存在でなくてはならないのだ。
Who are you?
Imy me.
エネミー:敵、敵対する者
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「魔力封じはどうでしょうか」
「やはり、耐えられなかったらしい。壊れている」
白と黒のみのシンプルな部屋の中、銀髪の少年と黒髪の青年が話をしていた。
「申し訳ありません。制御が未熟でして」
「器が成長すれば、制御もできるだろう。だが、それでもできん場合は……」
「存じております」
少年はわかっていた。自分の父が濁した言葉の先を。
……ファイユ家、最強を冠する一家に自分の魔力、及び魔眼の制御ができぬ者が居ていいはずがない。よくて一生存在を消され、悪くて処分される。
魔力封じをしても、暴走こそ少なくなったものの自分の体には誰も触れない。例え規格外の魔力を持つ家族であっても、下準備なしには。それ以上の規格外、いや、異常なのだ。
体には常に強い、強すぎる魔力が巡っていて触ると重いやけどの様な症状がでてしまう。魔力が少なければもっとひどいことになるかもしれない。
だが、別に少年は家族以外の他人を気遣って家から一歩もでず、手袋をし何時でも長袖長ズボンでいるのではない。家族からの命令であるからだ。
少年には、感情が無い。いや、無くしたといえるだろうか。未熟な幼少時代には強い魔力を持つ者は、感情によってそれが放出されたり、暴走する。規格外中の規格外、異常な異端の魔力を持つ少年は特にそれが顕著に現れた。だから、少年は考えた。自分に感情があるからこうなるのだ、と。そして少年は家族からの命令をただ忠実に実行する、まるで人形の様になったのだった。
「ああ、そうだ。一人使用人が使い物にならなくなったのでな。処分しておいた。そろそろ目隠しでもしようか」
「御意に」
少年には強い魔力だけでなく、もう一つ、魅了の魔眼という物を持っている。魔眼、という物はファイユ家の者なら大体持っている。コピーや催眠、幻術や精霊の可視など効果は様々だが。
魅了の魔眼、という物は簡単に言えばその眼を見た者が少年に狂う。愛、執着、傾倒、様々な言葉で表せるがそんな物だ。しかも普通より随分強く、少年が前髪で顔を隠していても効力を発揮するのだ。規格外な彼の家族には効かないのだが。
今回の話も珍しいことではない。少年を見た使用人が彼に狂い、処分される。魔力や耐性が強くなければ余裕でその魔眼に囚われてしまうのだ。まあ、別に少年は使用人が処分されようとどうでもいいのだが。
ただ、そのことで家族に迷惑をかけているのなら、改めなくてはならない。
「今日は満月。早く寝ておけ」
満月。一般的に魔力が上がり、また、不思議な現象が起こりやすい夜だ。
彼は命令に忠実に従う。
「かしこまりました」
そして、少年は寝た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
真っ黒な闇。もしくは予知夢。あとは、時々だが家族からの内密の連絡。それが少年にとっての『夢』だった。
暗い、どこまでも暗い闇の中に一人たたずむ、という常人では発狂しそうな状況も少年にとっては普通だったのだ。…今日までは。
少年は、水の中にいた。それは夢だ。だが、夢の中とはいえ死ぬとどう現実世界に影響が及ぶかはわからない。
しかし幸運なことに、というか不思議なことに水の中でも呼吸ができた。おかげで少年はゆっくりと考えられた。
ここは、どこか。少年は思考した。いつもの家族の連絡だったら、直ぐに誰か家族が出てくるのに、来ない。少年は家族ではない、と判断した。
次に考えられるのは少年を狙った攻撃。それにしては水没死させようとしないのはおかしい、と少年は考えた。
となると、ただの事故なのか、あとから攻撃がくるのか。もしくはいたずら。さてどれか、それともこれら以外か。少年は推理して……
「あれ? 私の夢なのに、知らない子がいる?」
明るい、声に出会った。
長めの黒髪に、同じく黒い瞳。年は少年と同じか少し年下。4、5歳頃だろうか。着物を着た、日本人と思われる女の子だった。
少年は警戒した。彼女の夢ということは、彼女がこの世界の支配者なのだ。少年はこの夢の世界では少女に負けるかもしれない。
「どなた様でしょうか」
ゆえに、少年は冷静に少女の名をきいた。
「うーん、みーって呼んでくれると嬉しいな」
その答えは、少年をさらに警戒させた。明らかに、偽名、もしくはニックネーム。本名を教える気はないのだ。
「ありがとうございます、みー様。私めはスミスと申します」
まあ、もとより少年も本名など欠片も言う気は無かったのでおあいこといえばおあいこなのだが。
「うん、スミスくん、よろしくね!」
少女はふにゃりととても嬉しそうに笑った。少年にはわからなかった。何がそんなに面白いのか。
「えへへ、初めての同い年のお友達なんだよ、スミスくんは! だから、友達の儀式の握手しよっ!」
友達? 少年にはわからなかった。それに、なぜ同い年と断定できるのか。幼いゆえの考えの足りなさ、決めつけだろうか。少年は思った。
「申し訳ありませんが、握手は致しかねます」
少年の手に、手袋はつけられていなかった。素手では、確実に少女を傷つけてしまう。少年は、少女を気遣ったわけではなく、原因がわからないのに状況を悪化させるのを防ぎたかった。
ここでの痛みや傷は、この夢の主である少女なら一瞬で治せるだろう。だが、そのショックによって夢が終わり、少年は元に戻るならいいが、また別の夢に迷い込む危険性がある。だったら、まだこの裏表のなさそうな少女の方がいい、というわけだ。
「えいっ」
だが、少女はあっさりと少年の手に触れ、握手した。
沈黙。だが何も起こらない。少女は全然痛そうな顔はしなかった。
「大丈夫……なのですか?」
少年は思わず聞いた。
「? 何が?」
そうケロッと言う少女。少年は自分の魔力を探った。が、いつも通り。バケモノ、な量。
少女の魔力は、見えなかった。おそらくこれは、夢の中の設定が関係しているのだろう。少年は特に不思議には思わなかった。魔力を持たない人は、自分が魔力を持っている想像をしない。なので、一般の人の夢では自分がそう想像しないかぎり大抵魔力はない。少女は魔力がある自分だなんて想像しなかったのだろう。
別に少年の魔力が少なく、もしくは無くなっているわけではない。少女の魔力量が少年より多く設定されているわけでもない。なのに少女は傷一つ負っていない。少年は不思議に、不審に思った。だが、それ以上に……嬉しかった。人の肌と直接触れ合える事が。嬉しい、という感情を持つのが久しぶりな少年に自覚はなかった。
ポロリ、ポロリと少年の目から涙が出た。所詮、嬉し涙というやつだった。
「えっ、えっ、大丈夫? どこか痛いの?」
少年には、わからない。何故、目から液体が出ていくのか。胸がいっぱいになっているのか。何も、わからない。
「わかりません……わからないんです」
少女はわたわたと慌てた。自分のせいで少年は泣いている、とでも思ったのだろう。
とりあえず、とでも言うように少女は少年をギュッと抱きしめた。
少女の体温を直に感じた少年は、涙がさらに増すのを自覚した。
そして……
「大丈夫だよ、スミスくん。だって私はル
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あの時の夢の夢ですか……」
トール・ファイユは目を覚ました。
「あのあと、どうなったんでしたっけ……?」
少女が何を言ったのか。あのあと、何が起こったのか。少女は何者なのか。トールにはわからなかった。それ以前にトールは今、初めてこの不思議な夢の出来事について思い出したのだ。
(記憶の封印? いや、それよりもあれが何方なのかを突き止める方が重要ですね。)
何故このことを忘れたことについて深く考えないのか。それは、記憶の封印をされたとしたら1番の有力候補は少女の関係者。特定のしようがない。それに、単純に忘れていただけの可能性もあるのだ。
「今、この夢を見たのは何らかの啓示でしょうか」
トールの問いに、応えはなかった。
ただ、何かを伝えるように、右目が鈍い痛みを発しているのみであった。
天真爛漫という言葉がぴったり合うあの少女の顔はどうだったか。トールが思い出そうとしても、霞がかかったかの様に少女の顔は見えなかった。




