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巫女姫と魔法の暗殺人形(仮)  作者: 榊 唯月
桜舞う季節
48/50

二十二幕:ホウレンソウは大切らしいです

時計塔

学園の中央にある。針の示す時間は正確。鐘はあるが、鳴らない。生徒会室が中に入っており、中等部だけでなく、幼等部からのすべての生徒会(カノナス)がここで日常業務を行っている。一般生徒の立ち入りは勿論禁止だが、風紀委員(レークス)や部活•委員会幹部、学級委員なら許可がなくともある程度中まで入れる。

 麗かな日差しが暖かい朝。トールは、今朝の夢について考えていた。と同時に、何やら端末に打ち込んでいた。


(夢についてクロウ兄上にご相談を……いえ、あの方ならばただ自分をからかって終わりですね。父上からの助力は期待できないでしょうし、母上は……問題外でしょう。ヨシュアを頼るのも気が引けますし。他の兄上は…………仕事中と、放浪中な方々ですしね。自分で解決するほかなさそうですね)


 夢は、トールの心に確かなしこりを作っていた。今までにないほどに、彼は動揺している……と思われる。


「トール君、体調悪そうですけど、大丈夫です?」


 中間試験も遠くはない。教室では、端末を使って勉強している人々が大多数であった。


 そんな大多数の1人である美久に、こそっと話しかけられたトールは、美久の洞察力評価を上方修正しつつ、普段より明るめの声で言った。


「……少々夢見が悪かったのでして。ご心配ありがとうございます」


 手の動きを止め、視線入力(アイ•タッチ)に切り替えたトールは、そのまま視線で端末を操作しつつ、美久との会話を続けた。


「ど、どういたしましです。あ、えっと…………み、瑞稀ちゃんはどこ行っちゃったです?」


 〈春日美久。今の所、魔法専攻を希望。魔力の目覚めにより、髪と眼がピンクに。(歴代、ギルド高位ランク所有の女性はピンク髪が多かったため、要注意。中間試験での術の行使に期待)

 能力スキルの有無は不明。ただし、精神干渉系能力(スキル)保有の可能性アリ。

 土御門瑞稀に好意を抱いており、よく行動を共にしようとする。(クロウ兄上の言葉の通りなら巫女の可能性が高し)

 備考:自分への接触も過多。土御門瑞稀の監視のため、傍にいたからか〉


「土御門様なら、今日はお休みですよ」


 〈土御門瑞稀。特権所有者(スペシャル)であり、授業免除であることから最近は寮の自室にこもりがち。能力は一切不明。今のところ警戒する点も、不審な点もなし。引き続き監視していく。〉


「え? そうなんです!? ……残念です、瑞稀ちゃん、最近お休み多いですし」


 しょぼん、と顔を暗くする美久を横目に見つつ、トールは報告書を書き進める。


「土御門様もお忙しいのでしょう。昨夜、部屋の前でお会いした時に……そう、おっしゃってましたので」


「そう、ですか……やっぱり、寮が一緒だといいですね。羨ましいです」


 〈備考:星雲寮への異動を希望している。土御門瑞稀がいるためか。〉


「春日様も星雲寮の入寮試験を受けてみてはいかがでしょうか?」


「で、でも……私なんかがーーーー無理です」


 〈春日美久の魔力は膨大:うまく制御できない、と予想される。〉


「中間試験がよければ、わかりませんよ。優先入寮権が得られますし、オファー等もくる可能性がございますからね」


「そ、そう…………そうですよね!! ありがとうございますです。頑張るですよ!!!」


「その意気ですよ。お互い、頑張りましょう」


 まったく感情のない声音で言ったトールは。今日は風紀委員の集会がありましたね、とすでに放課後のことに思いをせていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 生徒会カノナスは政治家のような、人の前に立って働く、光の仕事。その活動場所である生徒会室は、学園の中央の時計塔に存在する。では、警察や裁判官といった、悪く言えば地味な、縁の下の力持ちな、かげの仕事である風紀委員(レークス)、その活動場所である風紀委員室は?


 それは、学園の端、隅に存在している。歴史のありそうな時計塔とは対照的に、近代的な、アーティスティックな塔の中である。



風紀委員(レークス)の諸君!! お集まりいただき、感謝する。さて、テスト前のこの期間に召集されたからには、つまり……


 学校防衛及びその為のパトロールを行ってもらう」


 胃薬を愛用しているという、風紀委員副委員長の話に、トールはやっと初仕事かと思った。


 新入生にいきなり仕事をさせるのは酷と思われたか、まだ新入生は入ってくるからか。今まで風紀委員室には呼ばれず、つまるところ初の入室でもあった。


「我が学園にも、残念ながら愚かな考えの持ち主がいる」


 副委員長の言葉に耳を傾けるは新入生のみ。つまり、瑞稀がいない今は、トールしかいなかった。残念ながら上級生の人々は聞き飽きた話なのか、会話に興じたり、寝ている者が大半、というより全員であった。


 今年の特権所有者(スペシャル)は帰宅部志望が多いようで、第一次部活編成(新入生のほとんどを除いた部活編成)においては、結局トールと瑞稀しか入らなかったのだ。


「テストで点をとれない。テストなんて嫌だ…………では、校舎を破壊してしまえ。もしくは、先生方から問題用紙を奪え、盗め」


 珍しく、トールの目が点となった。勿論、他の風紀委員たちからはその様子はまったく見えないが。


(知能指数の足りない方もいらっしゃるようですね……)


 そんなトールの呆れを察したのか、副委員長はさらに言葉を続けた。


「タチの悪いことに、成績優秀だが、単純に暴れたい、戦いたい連中もやって来るんだ……あと、周囲!! ガヤガヤと騒がしい!」


「「「「はいよー」」」」


 多数の気のない返事に、またもや胃が痛んだのか胃薬を飲む副委員長……頑張れ、副委員長! 負けるな、副委員長!!


「すまない。では話に戻ろう……という訳で、我々は校舎の破壊活動の防止。教員室の防衛。主にこの2つをおこなう。試験勉強をしたい所だろうが、君にも見回りをおこなってもらう。シフト表とマニュアルは端末に送ってあるから、それを見てくれ。見たらわかるとは思うが、見回りは基本的に1名で行う。不審人物に遭遇した場合は、すぐに端末で応援を呼んでくれ。それとーーーー土御門嬢にもこの話を、伝えておいてほしい。色々とすまんが……頼むぞ」


「承知いたしました」


「それでは、今日はもう帰っていいぞ。雑務の方を頼むのは、第二次部活編成のあとになる。その時もよろしくな」


 哀愁ただよう副委員長に一礼をし、トールはそのまま風紀委員室をあとにした。


 ザラザラーっと、胃薬を手に取る音が、また聞こえた。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆





 風紀委員室から星雲寮までは、そこそこ遠い。転移も問題なく行えるトールは、勿論行きは転移して、建物の入口まで一瞬で着いた。しかし、帰りは普通に歩いていた。……まあ、普通にと言っても常人をはるかに超えたスピードだったが。


「出てきてください」


 誰もいない場所で静かにそう言うと、人影が現れた。


「ヤッホー☆ トール君♡ お•ひ•さ」


「……直接会うのはお久しぶりですね、クロウ兄上。報告書はお読みいただけましたか?」


「うん★ でもってかっわいーい弟に逢いに来たよ♥」


「それはそれは。ありがとうございます」


 全くをもってさっぱりありがたく思ってない口調のトールに、クロウはめげずにハイテンションのまま話す。


「で〜☆ そうそう、春日美久の情報だったよね☆

「怪しいトコは。母子家庭で、父親の調べがつかない★

「母親の実家は神社。幼い頃から、人も、そうじゃないのも惹きつける☆

「魔力も確かに多いけど、そんくらいかな。とりあえず★ 経歴に不審な点はないけど。トール君が気にする必要ないレベルの子だよ♥」


 あの夢の少女の正体の可能性が最も高い美久。その情報を、トールは結局クロウに調べてもらうよう頼んでいた。勿論夢の内容は話してないが……


(カンの鋭いクロウ兄上ならおわかりになられてそうで、恐ろしいですね)


「あっ、そうだ☆ 凰璃付近で、『組合(ギルド)』が動いてるよ★ 気を付けてね♡」


「それは……」


「続報は今度〜★ じゃあね、トール君♥」


 ふっと姿が掻き消えたクロウに、届かないとは知りつつため息を吐き、トールは今度こそ星雲寮へ向かい、転移した。




 ◇◆◇◆◇◆




 こんこん、と瑞稀の部屋をノックする。


 すっとドアが開いた。


「ふう、き、いいん、の、話、ですか……?」


「はい。中間試験までの業務で校舎の見回りを、とのことでした。シフト表とマニュアルは、すでに端末に送られているそうですが……」


「そう、で、すか。いつ、も、ありが、とうご、ざいま、す」


「いえ、それでは」


「はい、さよ、なら」


 最低限交わされた言葉。


 パタリと閉められたドアが。2人の心の距離を表しているようだったーーーーーーーー


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