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巫女姫と魔法の暗殺人形(仮)  作者: 榊 唯月
桜舞う季節
34/50

舞台袖:とある少女の闇夜 パート1(演者・・・無敵湊)

無敵むてきかなえ

周囲の人間に対して無関心。過去の経験から人と関わることを避ける傾向にある。

 人はなぜ、生きるのか。私はその問いに対する明確な答を未だに持てずにいる。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 不幸だな、と感じたことのない人はいるだろうか。いや、人生がすべて自分の思うがままに進んでいる、この世をば わが世とぞ思ふ……なんて歌を本気で実現しているような人がいれば別だけど。いや、私はたとえそんな、不幸など一切感じたことのない人がいようがいまいがどうでもいいのだろう。ただ一つ、言えることは………私は、自分が不幸なのか、それすらもわからない、ということだ。考えてみてほしい。生きていて、幸運、幸せというものを一度も感じたことのない人が、自分は不幸だとわかるだろうか。思えるだろうか。


 これはつまり、そういうことなのだ。そういう話なのだ、所詮は。






 私、という人間がいつから私だったのか。いや、これではわかりにくいだろう。まあ、つまりはいつから私という自我が形成されたのか。そんなことは覚えていないし、覚えている人の方が少数、異端だろう。


 3歳の時に両親が死んだ。それが私の中で、1番最初に起きた大きな事件だった。犯人は今となってはもうわからない。


 幸せな3人家族に起きた悲劇。本来ならそれは強盗殺人や2人に恨みを持つ者の犯行と思われるだろう。……だが違った。


 当時3歳の私の仕業、と(ささや)かれた。そんな馬鹿な、という推測がまことしやかに、事実のように広まった。んなミステリー小説みたいなことがあるか、と今でも思うが。まあ私は殺っていない。多分。それこそミステリー小説のように、私に2つ目の人格がある、つまり二重人格とかなら話は別だが。今の所記憶が途切れる、とか、起きたら血糊のついた服が……とかは無いので、多分その線はないと思われる。


 さて、そんなわけで、私を引き取ろうとする人など現れなかった。まあ当然と思われる。


 孤児院に入った私は、まあ普通の生活を送っていた。普通に人々に避けられ、不気味がられ、(しい)げられる日常を。


 しかし寄付金の横領事件。院長の花瓶が割れた事件。誘拐事件。殺害未遂事件。その他もろもろ。それらのすべてに私が関与していることになっていた。本人も驚きの新事実である。


 この頃になってくるとそろそろ私っておかしくね?と気づいてきた。遅いと言うことなかれ。一般の子と比べる機会が少なかったのだから仕方ない。


 勿論まったく身に覚えがないことだったので、逮捕されるとかいう事は無かったのだが、私に対する世間の目は厳しくなる一方だった。


 孤児院から早く出た方がお互いにとって一番いいな、と思った私は寮制の学校、そして学費の安い所を探した。そうして私が入学したのは、完全寮制、学費も安いここ、凰璃学園だったのである。


 とまあ、こんな感じが私の今までである。



「そうか。それで君はーーーーーー『無敵(むてき)(かなえ)』は何がしたいか?」


 無敵。そんな名字に合わない、敵しか作れない弱者。そんな私の薄っぺらい話。


 土御門瑞稀。今日会ったばかりの彼女に、気付けば全てを話したらしい。入学式、という晴々しいものの後に、こんな話を聞かせてしまって申しわけなく思う。


 ……いつも通り、同情されるか、哀れまれるか。それとも「私が幸せを教えてあげる!」などと思いあがったことを言われるか。私は身構えた。


 彼女の気だるげな無表情な顔がどんなモノになるのか。この世のありとあらゆる闇を凝縮したかのような瞳はどう変わるのか。私はそれを見たかったのかもしれない。


「特に何も」


 言えるのはそれだけだ。何かがしたいだの、そんなことは一切ない。ただ話したかったから話しただけ。何かが変わる事を期待してるわけでもないのだ。強いて言うなら、新入生歓迎会で判明した魔法という存在には驚いたが、私にとってはせいぜい虐げられる手段が増えただけにすぎない。


「そうか。じゃ」


 あっさりとそう言ってさっさと帰路についた彼女に、誰が一番驚いたか。勿論この私だろう。いや、この空間には私と彼女しかいないのだから当然と言えば当然だが。


 夜闇と同化してしまいそうな彼女を慌てて引き止める。


「ま、待って!」


 ……私は何がしたいのだ。


 私は今まで人を引き止めるなんてことは生涯(しょうがい)で一度たりともした事が無かった。来る人(こば)まず去る人追わず、というのを体現してきた。……この場合の来る人、とは、虐げに、というのが前に付くが。とりあえず、そういうことなのだ。なのに……


「何だ?」


 思わず引き止めてしまった。もう夜は深い。女子寮は近いとはいえ、これ以上引き止めても迷惑だろう。しかしそれすらも考えずに、気付いたら引き止める言葉を放ってしまっていたのだ。


「………」


 思わず引き止めてしまっただけなので、当然ながら続く言葉はない。


「ふむ……言い忘れていたが、君とは同じクラスだ。()()ね。話があるなら是非ともそこでしてくれたまえ」


 クラスメイト。残念ながら、私は他人の名前など一切見ていなかったので本当のことかは定かではない。でも、嘘をつく理由もない。本当だと思う。ならば……嬉しい。ああ、久しぶりの感情だ。


「ついでに。星雲寮に行くといい」


 星雲寮。聞いたことは無いが、そこの寮に彼女は行く、という事だと思う。なら……私も、行かなくては。


「……………ありがとう」


 やっとのことで出た言葉は、そんな簡素なものだった。


 何に対しての感謝か。色々とあるけど、一番は……


「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 私がそう言うと、彼女はその無表情を崩して、笑った。


「面白い奴は好きだよ」


 その言葉を残して、彼女は今度こそ夜闇に溶け込み、消えてしまった。


 それはまるで夢のような光景で。今までのは全て夢だったのか、と思わせた。




 私は不幸なのか。とりあえず、今なら私はこう答えるだろう。


 少なくとも、土御門瑞稀に出会えた事は幸運だと。




 人はなぜ、生きるのか


 私が今まで生きてきたのは、彼女に会うためかもしれないと。そう、思うのだ。



 


 ひとまず、女子寮(今の家)に帰ろう。そしてーーーーーー


 月を見上げ、思いを()せた。







もう11月なのに、こっちは春です。……季節にそのうち追いつかれそうですね。


そしてやっと主人公が出てきましたね。なんか物凄く久しぶりな気がしてなりません。……すみません。

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