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巫女姫と魔法の暗殺人形(仮)  作者: 榊 唯月
桜舞う季節
21/50

裏舞台1:さあ、滑稽な人形劇の幕開けだ

弓削ゆげ星埜せいや

陰陽師の御三家とも言われる弓削家の異端児。基本的にジャージ姿の引きこもりであるが、実力は高い。中等部風紀委員長である。

「なぜ人は争うのか」


 コツコツと靴音が部屋に響く。


「人々はいつも争う。戦争、喧嘩……しかし、それはやめるべきだ。平和……そう、平和的にいこうではないか!!」


「貴方の言っていることはよくわかります。だけど、このプリンは譲れないっ!」


「何故に!」


 少年、弓削(ゆげ)星埜(せいや)は世の中の不条理を(なげ)いた。


「あ、主様(マスター)、もう野澤さんが来る頃では?」


 もう一人の、それを完全スルーしてプリンのふたをあっさりと開けている少年、鈴木泰蔵(たいぞう)は優雅に味噌汁を飲んでいる少女に聞いた。


「…………まだ大丈夫だ。沙織は『瑞稀』が起きるのは遅いと思っているし、寝起きが悪いと思っているから起こそうともしない」


 自分のことを他人事のように言いつつ、瑞稀は答えた。


「で、食べてるとこ悪いんだが……それ、ジキルの試作品なんだが。というか、朝からよく甘いもの食えるな」


 どうやら瑞稀は朝はしっかり食べる派らしい。まあ土御門家では豪華な和食が朝食だったことも一因だろう。今日の朝食はご飯、味噌汁、焼き魚、野菜炒め、だし巻き卵、()け物といった具合である。誰がつくったのだろうか。


「甘いもの好きなんで。というか、薬博士(はかせ)の試作品ですか!? ちょ、一口食べちゃったよ!」


 ワンテンポ遅れて、泰蔵が『ジキル』という言葉に反応した。どうやら彼は、というかその試作品は信用できないらしい。


「うーむ」


 瑞稀はここでその無駄に優秀な頭脳をものすごく無駄に使った。ジキル、通称薬博士の試作品はもちろん自分で食べる気はなかった。それは結果が嫌というか、まああまり好ましくない事態になるのだ。なので、この学園で適当に生徒を捕まえて、食べさせ(実験)ようと思っていたのだが……あれ、こいつらなら反応(リアクション)が面白そうだな、とあくどいことを考えた。結論、よし、食べさせよう。そう考えた。


「実はそれ、ジキルの協力のもと、私がつくったんだ」


「「「言い値で買おう」」」


 新たに出てきた男女2人と、復活した星埜が素早い動きで泰蔵の前へ行った。


 たとえそれが(わな)であったとしても、一縷(いちる)の望みがあればそれを信じて突き進むのだ。と、かっこいいことを言ってるようだがつまりは瑞稀の手料理を食べたいだけである。


 パチリと瑞稀が指を鳴らすと、テーブルの上にいきなりプリンが出現した。ちょうど3つであった。動体視力の良い者ならわかっただろうが、転移などではなく、瑞稀の影からプリンが出てきたのだ。勢いよく出てきて、テーブルの上にきっちりと乗ったのである。ちなみにスプーンも出てきた。実に便利な指パッチンである。


 3人はもちろん食べた。プリンを。そおっと一口。甘い、プリンの味……ではなく何故か抹茶味であった。色は普通に黄色なのに。謎である。すると……


 部屋がキラキラと輝く。何だろうと4人が思っているうちに、4人とも、謎空間で服が変換されていく。ひらっひら、ふりっふりのリボンやレースがたくさん付いた服に。


 ここで4人の優秀……と思われる頭脳が働き、この現象を理解した。


「「「「魔法少女!?」」」」


 そう、魔法少女……男3人(少年だけどさ…………ごつい男やむさいおっさんでなかったことは良かったことだろう)、少女?という年齢の女性1人だが。まあ、世間一般では魔法少女と言われているそれだった。決めゼリフはなかったが。


 これは瑞稀がとある別に深くもない事情によって、自分の周りの空気中の魔力を使って魔法少女の変身ができるグッズが欲しいな、と思ったことから始まる。ただ単純に魔法少女になるのはつまらないな、と考えた瑞稀は、食べ物で変身することにするか、と思いついた。食べ物と言っても色々とある。さて何にするか……あの定番イベント、食パンを口にくわえて「いっけない☆ 遅刻遅刻〜☆」をするならば食パンがいいだろう。しかし、食パンを外で食べるのは別段変なことでもない。魔法少女だし、スイーツ。それでいて、外で人がいきなり食べ始めると変な物(嫌がらせ精神より)……よし、プリンにしよう。と、なったのだ。そして、ジキル博士につくってもらったのだった。まあ、原案は瑞稀なので瑞稀がつくったと言ってもあながち間違いでもない。ちなみに味の方は、抹茶は瑞稀が好きだからというジキル博士の配慮である。


 瑞稀は思ったよりリアクション悪いな、と思いつつその様子をすべて術で撮影していた。実に抜かりのないことである。その映像がどう使われる(利用される)か、それは瑞稀のみが知ることである。


「え、ちょ、主様(マスター)、これ、直してくれるんですよね? 今日、入学式ですよ……友達にこんな姿見せられないっ!」


 泰蔵の悲痛な叫びにしかし、瑞稀は完全スルーでお茶を飲んでいた。ちなみに玉露である。


「俺は別にいいやー、引きこもるし」


「そういう問題何ですか!? というか貴方が引きこもったら他の風紀委員の人達が大変だと……」


 弓削星埜、堂々とした引きこもり宣言であった。


「ふむ、まあこれはこれでいい感じですね」


「夜先輩、年を考えて……ゲブホッ」


 女性にとっては、一度くらいは着てみたい物なのだろう。好印象だったようである。そして年齢のことは禁忌(タブー)だったようである。泰蔵はその身をもって証明した。具体的に言うと、部屋の端までふっ飛ばされた。これぞ女子力(物理)であろう。しかしこれは夜と呼ばれた女性の力の一割にも満たないのだった……。


(やつがれ)主様(ぬしさま)からの……贈り物」


 服のデザインより、瑞稀にもらった?ということが重要らしい。そのままいつまでも着ていそうな感じだ。ぜひとも着替えはしてほしい。


「陰は相変わらず主様至上主義ですね……と、もうお行きになるのですか?」


 しかし、陰と呼ばれる少年のコレ(主様至上主義)はいつものことらしい。もう一度くり返すが、ぜひとも着替えはしてほしい。


「ん。じゃ」


 部屋の隅の泰蔵は放置して、瑞稀はさっさと第一女子寮の自分の部屋に転移したのだった。……頑張れ、少年!




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 コンコン、と部屋のドアがノックされた。


「瑞稀様、おはようございます。朝食はどうなさいますか?」


「いら、ない」


 流石に瑞稀も朝から二食も食べれる胃袋は持ち合わせていなかったらしい。


「では、お茶だけでも」


「ありが、とう」


 瑞稀は部屋を出た。


「入学式は9時からとなっていますが、何時頃に向かいますか?」


「人が、少ない、方が、いい、ので、ギリギリ、に、行く」


「了解しました」


 沙織は少し不満気な顔をしたが、瑞稀に(したが)った。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 瑞稀の注文によって、人がいない道を2人は歩いていた。





「さあ、滑稽(こっけい)人形劇の幕開け(ゲーム・スタート)だ」


 瑞稀が空を見て、小さくつぶやいた。


「瑞稀様、何かおっしゃいましたか?」


「あ、その、人が、落ちて、きて、いる」


「本当ですね……早く行きましょう。かち合わないように」


「そう、する」



 というか、ヒロインが落ちて来いよ。瑞稀は静かにそう考えつつ、あ、泰蔵放置したままだけどあのままで入学式行ってないよな……と思った。





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