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第8話 地獄のマラソン大会に豚汁を(後編)

後編はちょっと短めです

3


大会当日は、憎らしいほどの快晴だった。


逆回りのコースで、生徒たちは序盤に坂の洗礼を浴び、盛大に魂を抜かれ、しかし川沿いの平坦に出る頃には呼吸を取り戻した。ラスト1キロ、緩い下り。前方のゴールから、放送部の声が風に乗って届く。


『ゴール! 二年三組、真田さん! 続いて一年一組、堀くん、ゴール!』


沿道では、動員というより半分祭りの見物で集まった文化部が声を上げていた。吹奏楽部が景気のいいマーチを鳴らし、文芸部の柏木さんは「完走の栄誉を讃える即興短歌」の幟を掲げて一人一首詠んでいる(もらった生徒は例外なく困惑していた)。


そしてゴールの先には、湯気。


大鍋三つの豚汁は、家庭科部と有志によって、途切れなく注がれ続けた。指揮を執るのは、たすき掛けの籠宮 沙知代である。


「はい、お疲れさま! 熱いから気をつけて。あら三隅くん、今年は成仏しないで完走したのね、えらいえらい」


「か、会長こそ、なんで女子7キロ走った後にお玉を握って平然と……」


最後尾の一年生がゴールした時、放送部の声はほんの少しだけ張り上げられ、まばらな、しかし本物の拍手が起きた。その一年生が湯呑みを両手に持ったまま、ちょっと泣いていたのを、明は見た。


4


一週間後。臨時の満足度アンケートの集計値は、五段階の三・四。前年の一・八から、行事史上最大の上げ幅だった。自由記述の一枚には『坂は許してないが、豚汁に免じて来年も出る。三年男子』とあった。卒業するのでは。


「ふうぅ、大成功ね」


夕暮れの生徒会室で、籠宮が集計表を満足げに置いた。


「成功ですけど、正確に言うと、大会は去年と同じだけしんどかったはずですよ。変えたのは坂の順番と、終わりの30分だけです」


「それで思い出が変わるんだから、人間っておかしなものよねえ」


「おかしなものです。……体験してる最中の自分と、後から思い出す自分は、ほとんど別人なんですよ。そして学校行事が『思い出づくり』のためにあるんだとしたら、僕らがもてなすべきお客さんは、案外、後者の方なのかもしれません」


言いながら、明はふと、窓の外の十二月の空を見た。


この生徒会の一年も、あと三ヶ月ほどで終わる。三年生の会長は卒業する。そのとき自分の記憶に保存されるこの一年の「成績」も、きっと、どこかのピークと、終わり方で決まるのだろう。


だとしたら、終わりは。


「書記くん、手が止まってるわよ」


「……止まってません」


明は集計表を綴じた。窓の外で、日が暮れていく。マラソン大会の呪詛が消えた目安箱には、今週、『豚汁の常設化を求む』という新たな無理難題が三件、届いている。


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