77。ルイザの日録〜〜光のような、影のような(下)
読者様
いままでありがとう
ぱちくり、ぱちくり。
「メルティお姉さまのこと、知っているのですか」
「そりゃあね。同じ学校なんだから」
「ええっ!そうだったんですね。……いつもお姉さまがお世話になっております」
「あはは」
「でももし御存知なら、強さも……」
「僕さ、目が見えないんだ」
「え」
「まあ、おかしいよな。目ぇ開いているくせに何を言うって感じだよな」
「そこまでは思っていませんが」
「だから『これ』が必要なんだ」
ツェドリカさんは束にした影を掴み、説明をしてくれました。
小さいころから盲目だった彼女は、得意だった【影魔法】を使って世界を感知してきたらしいのです。
「そこに置いてある眼鏡は貰い物だ。おかげで薄っすらとは見えているがそれだけ。影を僕から切り離すことは到底できないということだ」
「……」
「もう僕の話はいいだろ。ルイザから見たメルティの強さを教えてくれ」
どういう感情でその質問が出てきたのかは測り知れませんが、なんだかとても大事な質問のように思えます。
ルイザは覚悟を決めて、答えました。
「メルティお姉さまは……ルイザより強いです!」
「へ?」
意気込んで言ってみましたが、恥ずかしいものですね。
ルイザの言葉にツェドリカさんは、目を丸くしたまま固まっていました。
あ、なんか笑いを堪えています。もう、こっちは真剣なのですよ。
(でも、ようやく空気が柔らかくなったようなきがします)
「ぷぷっ、じゃあルイザはどれくらい強いの?」
「へ?ええと、ええと……パンダちゃんより強いです!」
ルイザは足元にじゃれているパンダちゃんを抱えあげました。
出会ったときと比べてちょっと、重くなりましたね。
「……そっか」
「はい!きっとそうです!」
「ルイザは、強気だね」
そうでしょうか。
ルイザは気が強くなんかありません。むしろことあるごとに怖がっちゃうタイプです。
だからきっと、ルイザが強気というわけではなく――。
「ルイザは、怖がりですよ。ですが、ここにいると――『びっくり箱』に住んでいると、妙に力が付くんです」
「怖っ」
「安心してくださいな。ただお姉さまがたと一緒に住んでいるだけで変わるんですよ、肉体が」
「だからそれが怖いんだよ」
「……ねえ」
「ツェドリカさん?」
ルイザが家事に戻ろうとしたところで、ツェドリカさんに呼び止められました。
「ルイザに、頼み事があるんだけど」
「はい!なんでしょうか?」
「……僕を――ぎゅっとしてくれるか?」
「……へ?」
ぎゅって……ハグをするということですかね。
ルイザ、あまりこういうのやり方わからないのですが、大丈夫でしょうか。
ま、まあでも真剣のようですから、応えてあげないと。
「こんな感じでいいでしょうか」
彼女を後ろから抱いてみました。ルイザの方が断然体が小さいので、どちらかと言えば私がおんぶされているみたいですね。
軽く撫でてみると、じんわり暖かい。
赤ちゃん体温というものでしょうか。
それにしてもさっきと違って、しおらしいですね。
それとも、これがツェドリカさんの素なのでしょうか。
「できればポジションを変えつつ、ぎゅっとしてほしい」
「……」
もう、わがままな赤ちゃんですね。
そんなツェドリカさんには、おかあさま式のハグを授けましょう。
ルイザはツェドリカさんを座らせると、彼女の頭を胸に抱えてそっと髪を梳いてあげました。
「ツェドリカさん」
「……」
「きっとツェドリカさんは今、とてもつらい思いをしているんだと思います。
「僕のことをまともに知らねぇのに、何を言う」
「ツェドリカさんは甘えん坊です」
「はっ、誤りだな」
「そんな、ルイザの胸に埋まりながら何をいいますか」
「……」
「素直になってくださいな、ツェドリカさん」
「お子ちゃまに言われたくはない」
「でもそんなお子ちゃまに撫でられて、ほっと一息ついて、おかあさまを重ねているのはツェドリカさんでしょう?」
「なっ……」
「ふふふー、図星ですか」
「絞め殺すぞ」
「ツェドリカさん」
「なんだよ」
「先ほどは助けてくれてありがとうございます」
「……すでに聞いた。それに礼を言うのはこっちの方だ。こんな人生に価値のない僕を介抱してくれた」
「そんなの、決めるのはまだ早いですよ。ツェドリカさんの先はまだ長いのですから」
「老婆か」
「ツェドリカさんはすごいですよ。あんな影魔法、見たこともありません」
「代々直伝の呪いだ」
「でもその呪いとやらのおかげで、ルイザは助けられたのですよ」
「……」
「光になれなくたっていいのです。影は影で、暖かいですから」
「僕は……」
「――そんな暖かな影であるツェドリカさんに、幸あらんことを」
ルイザが静かに祈ると、心の芯からじんわりと、クリームシチューのような温かみが沸きあがりました。
「……」
「ツェドリカさん?もう帰るのですか」
よろめきながら立ち上がろうとするツェドリカさん。顔に雲がかかっていて、とてもまともに歩ける感じではありません。
しかしルイザの支えを振りほどいてまでして、彼女は玄関へと向かっていきました。
「もうちょっと横になったほうがいいですよ」
「いい。……それ以上ルイザの部屋を穢したくない」
「そんなことないです。仮にルイザが気にするなら最初から部屋に入れないですよ」
「……」
「本当に、平気ですか。送りましょうか?」
「いい。お子ちゃまは大人しく家に居ろ」
「……そうですか」
「一つ聞いていいか」
「はい、なんなりと」
「お前にとって、メルティはどんな存在だ」
「メルティお姉さまですか?そうですね――大好きなお姉さま、でしょうか。それとまるで、おかあさまのような存在でもあります。どちらもルイザにとっては、かけがえのない出会いですから。……あ、もちろんキツネお姉さまもですよ!」
「……」
「……」
「ルイザ」
「はい」
「……ぬいぐるみ、直してくれて――ありがとう」
・・・
初夏の残光。
力を振り絞って照らすも空しく、路地裏は相も変わらず陰鬱と湿気ていた。
石敷きの階段にこびりついた苔を靴裏で削りながら、ツェドリカは視線を手元にあるクマのぬいぐるみに向けていた。
お世辞にも上手とは言えないが、丁寧な縫い痕が一本背中側になぞられている。
「ぁーぉーぁー」
「……」
足元に湧き出るのは腐臭漂うビスクドール。
奇怪な音をたて、手に握る枯れたヒマワリをマラカスのように鳴らし、ピントのズレた眼球をツェドリカに向けていた。
「ぁーぃーぁー」
「……ああ、もう調子は戻った」
「ぉーぉーぉー」
「……そうだな。だが、僕はちょうど今作戦を変えようと思っていたところでね」
瞬時に、人形は影に捕らわれた。
ずぶりと沼に沈むようにして、地下に吸い込まれていく。
やがて残るのは、一束の偽髪のみ。
「……『出会いを大事にしよう』、か――」
壊れかけた眼鏡。
止まってしまった時間。
ツェドリカは残陽で瞳を焼きながら、影の中へと沈んでいった。
「――ありがとう、ルイザ」
いままでメルティちゃんたちを支えてくれてありがとうございました。
まだまだ時は進んでいきますが、ここが一番キリがよかったので一旦。おやすみなさい
また会えることを楽しみにしてます。
ほんとうにしょうもない文だけど読んでくれたみなさんへ
だいすき
またいつか




