37。キツネの独白〜大切な先生〜
おまたせっす!
先生とばったり出会ったその夜。
久しぶりすぎて会話の仕方も忘れてしまって、私はとにかく喋りに喋った覚えがあります。
それはもう、春の訪れを受けた雪解け水のような勢いです。
後から思えばはしゃぎすぎでした。ちょっと興奮しすぎてお行儀が悪かったですね。反省です。
でも、仕方ないですもの。
この、ちょっぴり変わった先生―――「ノーソリューション」先生は、私の大切な恩師ですから。
彼がいなかったら私はもしかしたらあのままふて腐れて、性格が捻れ曲がっていたかもしれません。
……あれ?でもそうなると悪になってメルティちゃんに吸いこまれるんですよね?
……じゅるり。
屋上が気になって夜に外出したら誘拐されたこと。
そこでメルティちゃんと会えたこと。
一緒に住んで、一緒に指名依頼をこなしたこと。
強敵と戦い抜いたこと。
思い返せばこんなに短い間で、本当にいろんなことがありました。メルティちゃんといると毎日が楽しくて、わちゃわちゃしています。
そんなこんなで、話していると夜になりました。
いけません、明日は学校があるのです。
みればすでに、ルイザちゃんは壁のほうに控えたまま船を漕いでいました。ルイザちゃんはとても頑張り屋です。今日も家事、お疲れ様でした。
私はメルティちゃんに、ルイザちゃんを歯磨きして寝かし付けてくるように頼みました。
メルティちゃんがうとうとルイザちゃんを抱えたままダイニングルームを出ると、空気感が一気に静まりました。やっぱり四人と二人では、かなり違うものですね。
でも、私はこんな雰囲気も、大好きです。
オレンジ色のランタンとヴェニスイショウ(赤い鉱石で、燃料)付きの蝋燭で、部屋が優しい暖炉の中のよう。
すこし擦れた窓ガラスが光を乱反射させ、まるで妖精さんでもいるかのような幻想。
斜め側のソファーに腰掛けて、紅茶を啜る先生。
それから、語り疲れて一息ついた私。
先生はなにもしゃべらずに、ただただ、暖かい笑顔を向けてきています。
夏はまだ先なのに、すでにちょっと暑いです。
……ちょっと、今トンデモナイ妄想をしたのは誰ですか、出て来なさい。私はあくまでメルティちゃん一筋なのですよ。改めるのです。
私がふぅ、と長い息を吹き出すと、先生がクスリと笑いを漏らした。
「……なんですか」
私はジト目を向けます。
無意識です。
先生は相変わらずのゆるい仕草を見せてから、
「やー、別に。キッちゃん成長したなーってね」
「どうもです。……そう思うのでしたら、まずはお母さんお父さん、あとはルイザちゃんの親御さんに挨拶をしに行ってくださいな。変なトコでトラブルを起こしたりせず」
「え、あれはあっちから絡んできたんだってばー。……あぁ、キッちゃんのパピーマミーにはもう手紙を送ったよ。カイ君は、まあ……嫌われてるしー」
渋って逃げようとする先生。私は彼の横に思いっきり腰を落として、物理的に退路を断ちました。
「嫌われることをする先生が悪いんですー。どうせ学生時代に弄り倒したんでしょう」
「げ!?……誰情報?」
……そんなビクビクするくらいなら、やらなければいいのにと思うんですけどね。
「彼の娘さんの、ルイザちゃんです」
「……そっか」
あれ、期待以下の反応です。
むしろどこか哀愁漂う感じがあって、話がしにくいです。
どう話を切り開こうか迷いながらティーカップを回していると、先生のほうが先に口を開きました。
「ね。ね。ぶっちゃけメッちゃんのこと、どう思う?どう思ってる感じか教えて?」
……えぇ?
ぐいぐい来ます。なんだかすごいぐいぐい来ます。
というわけで顔を適度に押し返します。
「……お母さんの誰も彼も〇〇っちゃん呼びする癖って絶ッ対に先生由来ですよねぇ。メルティちゃんですか?愛していますけども。取ったらパンチしますよ、ガントレットで」
試し打ち、したいですし。
……いけない、先生と二人きりだとどうしてか過激になってしまいます。なんででしょうか。
きっとからかってくる先生が悪いんです。
きっと。
「乙女からのパンチはご褒美って言うじゃんか?……いやぁ、進行が早いねー、思った以上に。まあ、二人が出会うのは薄々予想していたけど、まさかこれまでとは……」
「えっ、それはどういう―――」
「それとガントレットかぁ。これはそろそろボクもゲームシステムの【アップデート】、頑張らないとねー」
「それはいまはどうでも―――良くないです!やっぱりそろそろ私の魔法の種明かししてほしいです!」
ぽんぽんマイペースに話を進めていく先生。
私は追い付かずに頭を抱え、つい立ち上がってしまいました。
「ルイザ寝かせた。……爆睡してる」
私がもう一度先生からお話を聞こうかという、そんなタイミングでメルティちゃんが戻ってきました。
「あっ、メルティちゃん聞いてくださいよ。先生がメルティちゃんと私の間の恋心を否定するんです」
「へ?そんなつもりはないし、キツネのソレは一方的な下心じゃないかな」
「ぐへぁっ」
さすがにショックです。
私が……一方的ですか?そ、そんなはずあってたまりますか!
いいえこれは解釈違いです。
そんなふうに自己解決して、私は奮い立って立ち上がります。
三人とも落ち着いてソファーに座った頃、先生がいきなり切り出しました。
「ね、メッちゃん」
「ん、呼ばれた」
先生は意味深な満面の笑みを見せてから、ふざけた眼鏡を煌めかせました。
「メッちゃんさー、学校―――行く?」
「「……えっ??」」
『先生って、なんかちょっとネコラさんに似てる』
―――とメルティちゃんが耳打ちをしてきます。
はい、私もそう思います。
お恥ずかしながら。
。。。
「……せ、先生。本当にいいんですかこんな夜に……不審者だと思われません?」
「へーきへーき。捕まったらまた考えればいいよ」
「いや、そうなったらもうだいぶ手遅れですけど……」
今、私たちは学園の教務室行きの廊下をカツコツ渡っています。
銀色に反射する大理石の床。
噴水の滴るような音。
いつも見馴れた学園と違って、なんだか新鮮感がありました。
……なぜ私たちがこんな場所にいるかといえば、話は少々前に遡ることになります。
メルティちゃんが学園行くかどうかのお話になって、メルティは「よくわからない」でしたが私は半分賛成半分反対でした。
確かにメルティちゃんと一緒に過ごせる時間がもっと増えるのかもしれません。
ですが、一人家に取り残されたルイザちゃんがかわいそうです。あんな事件があった後ですし、心細いと思うのです。家事も二倍大変になります。
防衛はうちのネッテヴァンダがいるので大丈夫だとしてもです。
そう考えると喜べないのです。
それに、私たちの授業スケジュールはほとんど「選択制」なので、メルティちゃんが私と同じスケジュールが組める訳ではないのです。
というわけで渋っていると、先生に「とりあえず説明受けて見ない?」と言われ。
ルイザちゃんに一応置き手紙を書き。
着替えようと思った次の瞬間には、学園にいました。
きっと先生の転移魔法でしょう。
……なぜこんなにも条件なしでホイホイ使えるのか、私には未だに理解できません。
そうこうしているうちに、学園の一番端にある、大型倉庫に突き当たりました。
先生は呑気に口笛を吹きながら、倉庫の鍵を開けて勝手に中に入ってしまいました。
「ほら、二人共おいで」
そんな声が闇の中から聞こえます。
私とメルティちゃんは顔を見合わせてから、手を繋いでお邪魔することにしました。
先生が何やら倉庫内のガラクタを押しのけて進んでいます。
うーんうーんと唸ること数十秒。
それからボタンか何かを見つけたらしく、軽やかにそれに触れました。
―――カチッ。
がががッ……。
軽快な音と共に、倉庫の中が揺れ始め、やがて一本の通路を作りました。
左右に、物理を無視した物の山が壁をなしています。
通り抜けると、そこは小さなアクアリウムのようなドームでした。
透き通ったようなガラスの屋根からは、夜空の星がよく見えます。
ついうっとりしてしまいます。
私は、メルティちゃんの手をきゅっと握りました。
「―――さて」
先生は不思議な形の椅子に腰を下ろすと、足を組みました。
続いてうさぎの眼鏡を外して胸ポケットにしまうと、私たちと向き合いました。
なんとなく、心地好くて、でも同時にもどかしい空間です。
先生は、ゆっくりと口を開きました。
「君たちに―――大事な話をしよう」
実はこれ盛大なミスをしていて、現在ネリネリ中なんすよ。だから投稿頻度低くなるんすけど。。。
お読みいただきありがとうっす。
次回更新は7/21日っす。




