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メルティ✕ギルティ〜その少女はやがて暗夜をも統べる〜  作者: びば!
1章。指名依頼編〜それは、確かな繋がり
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18。メルティとお泊まり①

オマタセシマシタ。


 ナノの質問にキツネが一瞬どもる。

 記憶を掘り返す。

 掘り返す――。


 ――『このあと捕まえたっていいんだ。それにこの付近の儲かる場所も知っている。それも全部伝えるから……』――


「そういえば、『儲かる場所がある』って言っていました。……それって、まさか……!」

「別にそこに『デジタリアの博愛』があるとは言ってないのだ。ただ、我が気になっただけなのだ。盗賊たちの格好は、覚えているのだ?」

「ええと……確か――」


 キツネは思い返した。

 三人の男性。重厚で、斑の毛皮を縫い付けている服。装飾や武器は多種多様で、おそらく盗んできたのであろうものだった。

 するとナノは「ふむふむ」と幾度か頷いてから、「妙なのだ」とこぼした。


「妙、ですか」

「そうなのだ。ここらへんにいる盗賊集団の特徴と著しく違うのだ。というかそういう服の造形はもっと北の方のものなのだ」

「と、なると……。彼らは流れてきたと?」

「可能性の一つなのだ。それにしても、この辺でフレアボアが出るのは、『精霊の森』の付近だけなのだ。……なるほど、だからその依頼なのだ」


 一人でどんどん話を掘り進めて行くナノ。


「へえ。あそこって精霊の森だったんですね。どうりで、私のお団子が少し反応しました」

「……お団子にそんな機能あったんだ」

「……同感なのだ」

 依頼よりも、盗賊よりも、キツネのお団子が気になるらしい。前のめりになる二人に、キツネは少々顔を赤らめて「そ、それより!」と切りかえた。


「精霊の森と、デジタリアの博愛の関係がいまいちわからないのですが……」


「ん? その薬草は精神安定作用が強いのだ。中でも一番薬効があるのは『精霊の悪戯』を相手にする時なのだ。だから多分誰かが精霊の森に間違って入ってしまって、運悪く精霊に悪戯されてしまった、と判断したのだ」


 精霊の悪戯。

 高度で、未解明の精神錯乱。

 かかった者は、様々な不思議な行動を禁じえなくなる。


「そうだったんですね。は、博識です……。でも確かに、精神的な治癒なら『アーサリー(白い花の名前)』とかでも十分ですもんね」

「だいたいはそれで治るのだ。ただ精霊相手にはほとんど無効なのだ」

「なるほど、そこでデジタリアの出番ですか」


 どこからかメモ帳を取り出して、一生懸命ナノの話を書き取るキツネ。

 今度は、メルティが置いてけぼりになった。

 キツネは集中すると――特に植物の話になると――周りが見えなくなることがよくあるのだ。


「キツネ、お腹すいた」


 そう言ってキツネの袖を摘まむメルティ。


「はっ、メルティちゃん、ごめんなさい、つい。そうですね……ヴァルヴァドの実、一粒いります?」

「もらう」

「ん?よかったら我も欲しいのだ」

「ふふ、はい、どうぞ」


 キツネは赤い実を摘むと、二人に渡した。


 歯でぷちぷち噛み潰して楽しむ彼女らを眺め、キツネが『雛鳥が二匹に……』と思ったことは内緒だ。


「うん、美味しいのだ。しかもその大きさは珍しいのだ。……やっぱりお団子がスゴイのだ」

「……ん、七不思議の一つ」

「そ、そんな事ないですよ」


「あ、そうだ。お二人はこれからどうするつもりなのだ?」

 パンっと手袋を叩き合わせるナノ。


「特に決まってないです」

「晩御飯は食べたのだ?」

「ええ、軽く……メルティちゃんはどうですか」

「お腹空いた」

「門限はあるのだ?」

「両親にも一応、キャンプをするかもって伝えてありますし、今日は大丈夫です」

 ふむふむ、とまた何度か頷くナノ。


「今日ウチにお泊まりするのは、どうなのだ?晩御飯は用意するのだ」


「え、いいのですか!あ、でも……」

「別に気を使わなくてもいいのだ。こんなに会話を交わしているのだ。お友達なのだ。……それに、そっちのメルティさんはもう目がすんごいキラキラしちゃっているのだ。多分拒否権はないのだ」


 メルティは上目遣いで、顔をぱぁっと輝かせていた。

 その珍しい感情表現に、発作を起こしたように胸を抑えるキツネ。


(こ、これが、先生が言っていた「尊い」という感情ですか……!と、尊いです……!)


 この状態のメルティを止めることができたなら、それはもう、キツネではない。ただの賢い狐だ。


「……キツネ、だめ?」

「いいに決まっているじゃないですか!今夜は……はっ、今、『初夜』と言った人出てきなさい!私が――」

「キツネ、ステイステイ」

「ハイ」


 スイッチが押されたかのように背筋を伸ばすキツネ。

 彼女の頬を撫で繰り回すメルティ。


 二人の様子を見て、ナノが「仲がいいのだ。……羨ましいのだ」とぼそっと零したことには、誰も気づいていない。



「こっちなのだ」

 メルティの鶴の一声により、決定したお泊まり。


 今、三人は街中を歩いている。夜市が近くにあるらしく、だいぶ暗くなってきても賑わいが絶えない。


「お二人さん、呼び方変えていいのだ?もうお友達なのだ」

「どうぞ」

「はい、ぜひ!」


「じゃあ『メルっち』、『キネっち』って呼ぶのだ」

「そ、そうやって取るんですか……そういえばナノちゃん」

「どうしたのだ」

「『デジタレア』って、一体なんなのでしょうか」


「……生贄」


「え?」

「デジタリアは古代語で、『生贄』という意味なのだ。なんでそう名付けたのかは、我もあまり知らないのだ。後で我が調べてくるのだ」

「な、なるほど」

「……というか、デジタリアが出てくるとは……直近の依頼で、子供……。対象がお二人……ふむふむ、ズバリ――『ハロケス家の指名依頼』なのだ!……当たっているのだ?」


 びしっと正解を言いあてるナノに、目を丸くする二人。

 あれだけの情報で、依頼主まで当ててしまうとは。


 キツネの心配に気づいたのか、ナノは手をひらひらさせた。


「安心するのだ。別に手柄の横取りなんてしないのだ。リコっち――じゃなくて、ブランド『融』に喧嘩売るほど、我はおバカじゃないのだ」

「……あ、あの、伺いたいことがあるのですが」

「答えられる範囲なら、なのだ」

「その――……ナノちゃんって、一体何者なのですか」


 ナノは、答えなかった。

 軽やかに数回スキップしてから、ギザ歯を覗かせて笑った。


「当ててみるのだ」




 一方、その頃。

 フッサ家の邸宅にて。

 一人の紳士服の少年が、ワイングラスを揺らしていた。

 その視線は一体、どこに向いているのか。


 窓の外を颯爽と行く、一羽の烏か。

 やや不安定に揺れる、街灯のともしびか。

 それとも――もっと遠くに見える、黒インクのような黒い森か。


「ネコラ。ネコラったら」


 後ろから、女性の声がした。

 振り向かず、ネコラが笑みを浮かべる。


「やあ、我が妻オーリンよ。どうしたのかな? こんなところに来ちゃって」

「それよりも()()姿()()ワインを飲むのは、やめたほうがいいわよ」

「気をつけるよ。……それで、本題はなにかな?」

「キッちゃんとメッちゃんのことに、決まっているじゃない。二人のことが私は心配なのよ、とても」

「あはは、過ぎた心配は不要さ。二人なら大丈夫」

「大丈夫って……あなた本当にそればっかりね。こっちのことも考えて欲しいわ。今度は二人揃って攫われたらどうするの」

「ま、ま、落ち着いて」


 ネコラは苦笑いを浮かべて、オーリンへと歩を進めた。

 見た目はまるで親子である。


「落ち着けるがはずないわ」

「気持ちはわかるさ。でも、焦っても仕方ないよ」

「でも、あなた、そこに『デジタリアの博愛』が――」

「おっと、ネタバレはそこまでだよ。君はこの部屋で何も見ていない。いいね?」

「……わかっているわよ、もう!」


 膨れるオーリン。ソファーに沈むように座ると、腕を組んでそっぽを向いた。

 その様子を見て、クスリと笑いをこぼすネコラ。


「ほんと変わらないね。ちょっとアレなところ」

「『()()()()』と呼びなさいな。……『ソー君』につけられたこの呼び名、結構気に入っているのよ」

「ハイハイ。子供達――特にキツネには言わないでね。絶対卒倒する」

「しないわ。名誉職よ」

「そんな名誉あってたまるか」


 夫婦の雑談をしてから、オーリンは深いため息をついて切り出した。


「結局行くのね」

「まあ、そうなるね」


 肩を竦めるネコラ。


「せめて『イジワル』をした責任くらいはとらなきゃ、ね。それに、嫌な予感がするんだ」

「ちゃんとなさいね」

「そうするよ。いつもありがとうね」

 オーリンの唇にキスをすると、手をひらひらさせながら職務室を出た。


「――さて。『ソー君』についての『記憶』を取り戻しつつあるようだね。……ってことはようやく、()()()も動き出すのかな」


 うねり。

 うねり。


 ネコラの体が、徐々に溶けていく。

 それから、また形を成していく。


 やがて一匹の黒猫になると、窓の外の闇に消えた。



アリガトウゴザイマシタ。


ジカイコウシンハ、

5月16日 (木)デス。


オタノシミニ……。

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