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10:買い出しでの理解

 お昼を食べ終わった後、届は白花と共に最寄りのスーパーへと足を運んでいた。

 料理前にも確認した通り、冷蔵庫に食材はなく、買い出しが必須になってしまったのだ。


 また時間や労力を使ってもらっていることを踏まえて、食費は白花の買い出し分も合わせて、届が全て出すと決まった。

 決まったというよりは、お裾分けの件も含めて、届がお礼の意味合いも込めて払いたいと押し通したが正しいだろう。

 最初は折半として反対されたが、届の意思を最終的に尊重されて今に至っている。


 白花から『夜ご飯の準備になる』と予想されており、それも踏まえた上での買い出しになっている。

 いつも適当な届からしてみれば、そこまで考えるんだな、と感心しかなかった。


「ところで、夜ご飯は何を作る予定で?」


 白花は手に持ったメモに目を通しながら、淡々とした口調で聞いてくる。

 かごを手に持ったのはいいものの、届は何も考えていない。

 それに比べて、買う物をしっかりとメモしている彼女は、目的を見失わずに済むだろう。


 届は近くの野菜売り場を眺めつつ、なんとなく決める事にした。


「とりあえず、野菜炒めは再度挑戦したいかな」

「それでしたら、お肉とかをいれてバランスを取るといいですね。後はどうします?」


 肉の存在を忘れていた届からすれば、白花の助言はありがたいにも程があった。

 正直な話、無駄に失敗するくらいなら野菜炒めだけでいいと届は思っていたが、今は白花が居てくれる安心感がある。

 なぜ先に相談しなかったのだろうか、と後悔している程だ。


 後悔をしているが、白花に教えてもらえるきっかけになったと考えれば、後悔の一つは安いものだろう。


「無難に卵焼きかな」

「栄養は心配なさそうですね」

「問題は何を買うか、か」

「……はあ、仕方ないですね。私が教えてあげます……一人で買い物くらいした事がありますよね?」

「それくらいあるに決まっているだろ」


 白花から本当ですか、と呆れたような視線が飛んでくるため、買い物への信頼は低いらしい。

 届は買い物をしているが、ほとんどがお米か飲料水に偏っていたため、本格的な買い物と言えるかと言えば否だ。


 ふと気づけば、白花の視線は届が必要であるだろう野菜の方へと移っていた。


 彼女はカーディガンを羽織っているからこそ、周囲と溶け込んでいるが、それでも周囲とは一目置けるほど輝いて見える。

 この地域が田舎なのもあってか、隠していても目立っているように見えた。彼女自身が隠しているつもりかどうかは不明だが。

 周囲に目をくれず、次々とかごを整理しつつ選んでいけるのはすごい事だろう。


 ちょくちょく栄養や選び方の雑学を白花から聞き、届はかごに必要な食材を入れていく。


「……安いかどうかをちゃんと見てるって、本当にすごいな」

「節約もそうですが、日持ち等も考えて、栄養が偏らないように気を付けていますから」


 白花が栄養に気を付けているというのは、時折うっすらと見える白い肌を見れば一目瞭然だ。

 美容にすら気を使っているであろう肌は、老いを知らないと言わんばかりに潤って見えるのだから。

 掃除や勉強以外からっきし駄目な届からしてみれば、尊敬でしかない。


「それに……」

「それに?」

「親からの仕送りである以上、節約はしないといけませんから」

「そう、だよな」


 気づけば息が詰まるように、届の声が低くなっていた。

 親には学費等の心配はいらないと、届は同じ県の中で見知らぬ地に引っ越し、他県の高校に通わせてもらっている。

 お金に余裕があるからこそセカンドハウスを持っており、一人で安息の日々を過ごせるのは感謝していた。

 節約する気が無くとも、無駄遣いをしていない。というよりは、買う物が雑だったからが正しいだろう。


「……白米しか食べていなかった、過去のあなた、とは無縁そうですね」

「別に気を使わなくてもいいから」

「使っていませんよ。少なくとも、信頼はしていますので」


 手紙に一回だけ書き込んだ事がある為、彼女は理解したうえで言っているのだろう。

 いつも通りの優しい笑みを向けてくる白花の顔が、今だけは痛かった。


(……信頼、か)


 届は卵を一パックかごに入れ、黙って白花の後に続く。


 少し歩けば、白花は味噌の棚を見て、悩んだように首をかしげていた。

 視線は値札にいっており、広告の品となっている。


「ああ……お一人様系か……買えばいいのか?」

「え」

「別に俺が払うんだから気にするなよ。必要なんだろ?」


 白花は届の言葉に驚いたのか、瞳をはっとさせている。

 お裾分けしてもらっていたことも考えれば、多少の恩は個別で返しておきたいものだろう。


「少しくらいは、頼ってくれよ」

「……ありがとうございます」


 白花から小さな感謝をされた後、お互いに同じものをかごに入れる。


 その後は買い忘れが無いかの確認を白花にされ、エプロンをついでに放り込んでから、他愛もない雑談をしながら会計に向かった。

 会計が終われば、白花はカバンからマイバックを取り出してせっせと詰めている。


 飲料水や味噌、かぼちゃや醤油だけでも相当の重量があるのは確実だろう。その他の物も含めて重い筈だ。


 白花は女の子であり、重い物を持つ負荷を考えても、心配になってしまう。

 届は自分の物を適当に整理しつつ袋に放り込み、白花の様子を見守る。


(……別にこれくらいは、な)


 そう思いながら、白花が全て入れ終わるのを見計らってから、届は彼女のマイバックを手に持つ。

 やはりというか、女の子が持つにしては少し重い方だろう。


「え?」


 白花は何が起こったのか理解できていないように、瞳を丸くした。


「俺が持つ。行き場所は同じだろ」

「それはそうですけど」

「奪わないし、壊す気も無いから」

「そ、そこは心配していません」


 何故かたじたじになっている白花を見て、届は静かに息を吐く。


「少なくとも、信頼、しているんだろ? なら、少しくらいは頼れ」

「でも――」

「肩書や周囲の視線に囚われている可愛くないお前は、今ここに居ない筈だ」

「……え?」


 脳の処理が追い付いていなさそうな白花を横目に、届は黙って歩を進めた。

 後ろから静かについてきた白花に「ありがとうございます」と言われたが、聞こえないフリをした。


 申し子が可愛くないのは事実であり、ここに申し子が居ないのは存在として間違いではないだろう。

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