70.激突
70、激突
オラコールの住民による話し合いが行われていた
裏側で、戦場では何が起こっていたのか。
それは騎士隊長が大聖堂を出た頃まで時間を遡る。
ーーーーーーー
□ロービン野原
副長
「「では先にな!勇者殿!坊主!
ワシはこれから兵達に気合いを入れてくる!!
ハッアァァ!!」」
副長は自陣の守りを硬めるべく正門へと走り、
団長は従者達に協力を仰いだ後、
騎士イノスを連れて本隊の最後尾まで戻った。
《ダカラッダカラッダカラダカラッ!!》
兵士
「オォッ!ありゃあ従者じゃないか?」
「ほんとかよ!!そんならもう安心して
歩いてもいいかね!?」
騎士
「気を抜くな!我々が遅れるほど、
全軍に負担がかかる!走り続けるんだ!!
防具も武器も邪魔な物は脱ぎ捨てろ!」
兵士
「チックショーー!!
剣も鞘ごと投げちまえぇ!!」
現在進行形で手足を降って必死に退却する兵士達だが、
馬と徒歩では当然足並みが揃うはずもなく。
護衛する騎兵は駆け足で進む歩兵の背後を
見守る形で、後を追いかけるしかなかった。
そこへ団長とイノスが合流する。
イノス
「敵の動きはどうなっていますか!?」
騎士
「左右とも依然として並走しています!」
隊長
「不気味だな。挟撃を狙うは戦の常だが...
折角召喚したゴーレムを使わず、
あれだけの数で我が軍をどうにか出来ると
思っているのか」
騎士
「ですが、あのゴーレムが壁を壊して
街を蹂躙してしまえば、オラコールもお終いですよ!!」
イノス
「ゴーレムの存在だけで兵士達は動揺している。
精神的な隙を狙って一気に畳みかけてくる
つもりなのでしょう。
数で劣るとはいえ、敵は精鋭と恐れられた連中です」
自分達がどんな敵を相手にしているのを
再認識させられ、一同の表情は険しくなる。
しかし、彼らにも騎士の誇りがある。
団長
「侮りと自信の現れか...だが!
我ら騎士団もこの時の為に鍛錬を重ねてきた!
今日こそ成果を発揮する絶好の機会よ!!」
団長の意気込みに騎士達は頷く。
団長
「これより騎士団総員で本隊の脇につく!
敵が近づこうものなら蹄の元に蹴散らしてくれ...」
騎士
「「団長ーーー!!!追撃です!!」」
命令を遮る後方からの知らせに、
全員が振り返る。
団長
「「なんだと!?敵に残っている部隊は
いなかったはずだが!?」」
「「それがっ!敵は一体のみ!!」」
《ガション!!》
(《ダァァンッ!!》)
《ガショーーン!!》
(《ダァァーンッ!!!》)
《ガショーーーン!!!》
((《ダァァーーンッ!!!!》))
騎士
「「敵の将です!!」」
イノス・団長
「!!!」
野原を跳ねる珍妙な金属音。
脚のふくらはぎ側に付いたバネ式の
跳躍機構が踏み出す度に歩幅を広げ、
凄まじい速さで迫っていた。
騎士
「なんてことだ!?
あんなのに取りつかれたら総崩れだぞぉ!!」
兵士
「敵の親玉だってよぉ!!」
「「ヒィィーーー!!!」」
歩兵達も更に死に物狂いで逃げるが、
遅かれ早かれ追いつかれてジェネラムの
大鎌の餌食になるのは目に見えていた。
団長
「・・・仕方あるまい!
ここは我ら騎士隊が食い止める!!」」
イノス
「では僕も!!」
団長はしばらく考えてから、決断を下す。
団長
「・・・いや!イノス殿は兵士を連れて
先に行って下され!!」
イノス
「なっ!?」
騎士
「団長殿!なぜ故に!?
願ってもない申し出ではありませんか!」
これには部下達も思わず口を挟まずに
はいられなかった。
イノス
「そんな無茶な!!貴方達だけでなんて!」
イノスも任せられるのならばそうしたかった。
だが、勇者アクトですら倒せない敵将を
普通の騎士だけでどう倒せるというのか。
せめて足止めや時間稼ぎをするにしても、
従者である自分を同行させないという
判断には、イノスも同意しかねる。
例え自分では役不足だとしても...
団長
「助力を求めておきながら、
勝手なお願いではありますが...
全員で奴と戦ったとしても、
きっと我々は貴方にばかり負担をかけてしまう...」
紛れもない現実。
非情なまでの力の差は人間同士でも
例外ではない。
イノス
「それは...でも、当然のことです。
力と技術があるからこそ、僕らには
戦う義務があるんです」
団長
「だが、そうして奴に釘付けにされてしまえば、
本来の救出作戦の意味がなくなってしまう!」
誇り高い騎士達も納得せざるを得なかった。
自分達がここまで来たのは、
他人の力に縋りながら戦えると
思っていたからではないはずだ。
街を守る為に覚悟はとうに決めていた。
団長
「我々は勝たねばならないが...その要は勇者と従者方だ!
ゴーレムにとっては砂粒ほどちっぽけ我らでも、
あの敵将相手ならば行く手を阻む壁ぐらい
の役割は果たせるであろう!
勝ち目は低くとも、若者に未来を託し、
まずは我ら大人が命をかけるべきなのだ!
ですから、イノス殿どうかここは任せて
行ってくだされ!!
これはオラコール騎士団長としての
命令であります!!!」
イノスは苦悩する。
人生の半分以上を騎士団で過ごしてきたが、
目の前の団長ほど気迫と感情の宿った
命令は受けたことがない。
戦場という非日常であるからこそか。
負けると分かっていても戦わなければ
ならない時だと。
男として、騎士として、団長は
一軍を率いる長としての矜恃を
奮い立たせていた。
と同時に、故郷の人々と勇者達も含めた
若者達を守るという確固たる意思。
それを否定は出来ないし、
かと言ってイノス自身が敵と戦って
勝てる確証もない。
イノス
「(・・・クソッ!嫌でも思い知らされる。
僕は......凡庸の域を出ない)
剣も弓も槍も乗馬も極めてきた。
人より強力で多彩な戦技だって
扱えるようになった。
しかしだからといって、1人で大勢を
守れる程の力はない。
ならばせめて、ここにいる騎士達の
思いを無駄にするわけにはいかない。
イノス
「「・・・わかりました!!
僕は他の騎馬隊に加勢して、1人でも
多くの兵士を帰還させます!!
どうか...ご武運を!!!」」
イノスが騎士の隊列から抜けると、
団長の号令で1000の騎馬隊が一斉に
歩みを止めて馬を反転させる。
団長
「皆の者…すまぬな」
騎士
「なにを謝るか?
我らの存在意義は戦場にこそあり。
今さら命を惜しむ臆病者がどこにおる」
「いかにも!副長に聞かれていたら
笑われてしまいますぞ団長!」
側近ともいえる同年代の部下達が笑う。
団長
「やかましい!死にたがりの古参連中の
心配など微塵もしてやるものか!
...ワシが気にしておるのは、
まだ未来有望な若い世代も道連れに
してしまうことよ」
近くにいる20代の騎士達は、
己の過去を振り返る。
青年騎士
「・・・身寄りのいなかった私は、
この街の人々に暖かい慈悲で育てられ、
貴方には男としての礼節と誇りを頂きました」
「俺もそうだ。誰も相手にしたがらない
面倒なクソガキの性根をここまで叩き直して
くれた団長殿と、見守ってくれた義父と義母には
感謝してますよ」
「境遇はそれぞれ違えど、我らは家族
より深い絆で結ばれた同士です。
そんな仲間と共に、団長方や街への
恩に報いる時がやっときたのだと...
皆心同じく昂っております」
この場の誰一人として、貧乏くじを
引いたなどと思う者はいない。
団長はそれを確認すると、
憂いを振り払って前を向く。
団長
「...ならば憂いはない!
これより敵将を食い止める!
100人隊を組んで、散開せよ!!
我らの訓練の成果を見せつけてくれようぞ!!」
「「「オオオッ!!」」」
1000の騎馬隊が即座に10組に別れる。
団長
「第一陣、ゆくぞぉ!!」
号令でまずは3分隊がジェネラムへと
突撃を開始する。
ジェネラム
「(ホゥ...向かってくるか)」
ランスを並べて1列にならんだ300騎の
騎兵が押し寄せるが、ジェネラムの足は止まらない。
互いに距離を詰めていき、
間もなく衝突するというところでーーー
((《《ダァンッ!!!》》))
ジェネラムは凄まじい跳躍力で高く飛び上がり、
軽々と戦列を飛び越えてしまった。
これには息巻いていた騎士達も天を仰ぎ、
見送るしかなかった。
騎士
「団長!!あれでは!」
団長
「うろたえるな!やるべき事は変わらん!!」
馬を反転させる第一陣をよそに、
ジェネラムは空中から野原を眺める。
残りの騎兵達とその後方で逃げていく
歩兵達が見えた。
もはや目の前の騎兵達など眼中にない。
頭の中では本隊を中心から蹴散らし、
逃げる勇者に追いついてその背中から
身体を真っ二つに斬り分ける光景を
想像していた。
ジェネラム
「(貴様らは何時でも潰せる。
わざわざ時間稼ぎに付き合ってやる義理はない)」
騎士
「「我らも行くぞぉーー!!」」
ジェネラムが着地すると、
前方からも残りの7分隊が接近していた。
やり過ごした背後の騎兵集団も合わせ、
前と後から完全に包囲される。
《ダダダダダダダダダダダダダダダダ》
騎士
「奴を討てば全て終わる!!」
《ダダダダダダダダダダダダダダダダ》
「騎士の誇りにかけてぇーーー!!!」
声と蹄のやかましい騒音に囲み寄られる中、
ジェネラムの両肩で赤と青の半球体が発光する。
ジェネラム
(前方から扇形に400...後列にも100騎…
左右には100ずつ展開...背後斜めからは100ずつ...
真後ろに100...か)
ジェネラムの視界には、
戦場の全方位の敵が映っていた。
ジェネラム
「数で足止めをし、精鋭で死角を突くか...
悪くはないが......随分と舐められたものだ」
遂に将軍ジェネラムは歩みを止める。
第2陣の700騎は前方と左右から同時に
全速力で突っ込む。
騎士
「「いざぁ!!!突撃ーーー!!!」」
「「ウオオオオォォォ!!!」」
団長
「我ら一陣は早まるなぁ!!
2陣が攻撃を仕掛けて腕が塞がった所を
我らが討つ!!」
ジェネラムは鋭い鎌腕を振り、
長く伸ばした蛇腹腕をしならせる。
ジェネラム
「ワレが斬裂将軍と呼ばれるゆえんを、
貴様らの軟弱な体に刻み込んでクレルッ...」
何百ものランスと槍の切先が走る。
空を斬り裂く鎌。旋回する針。
衝突し、削れ合う鋼。
火花を散らしながら、野原に
けたたましい金属音が炸裂していく。
ーーーーーーー
同時刻
□オラコール本隊を挟む魔王軍
「始マッタカ・・・挟撃ヲ始メルゾ!
笛ヲナラセ!太鼓ヲ叩ケェェ!!」
魔族の不気味な笛の音色と、
乱暴な太鼓の鼓動が再び戦場に響く。
「「イグゾォォォォ!!!」」
「「ゴロゼェ!!ゴロゼェ!!」」
2手に別れてオラコール軍の横を並走していた
魔王軍も挟撃を開始する。
兵士
「ま、魔族達が迫って来るぞぉ!!」
「本気なのか!?あれっぽっちで
突っ込んでくるなんて!!」
少ない戦力を広く展開させる為、
陣形を崩してワラワラと広がって
オラコール軍へと群がる魔族達。
騎士
「討死に覚悟ということか。
どうあっても俺達を道連れにしたいらしい」
長く隊列を伸ばす4000人の本隊と、
それを分隊で援護する1500の騎兵。
魔王軍はそれ程の大軍を相手に、
西と東それぞれたったの750体で
挟み撃ちにしようとしていた。
騎士イノスもその様子を遠く後方から視認する。
イノス
「これがヤツらの狙いか。
バーグとフォロアでゴーレムを倒して、
僕が周りの騎士達に加勢したとしても.....
団長達以上の犠牲も避けられないか!」
走りながら戦場を見渡していると、
イノスは西側の魔王軍へと接近している
騎馬隊を発見する。
イノス
「まさか!クソッ!」
イノスは血相を変えて、
馬に全速力の襲歩をするように促す。
《ダカラダカラダカラダカラダカラッ!!》
イノス
(相手を人間の集団と一緒に考えている
のだとしたら...マズいことになる!)
ーーーーーーーー
□正門前 防衛陣地
「この先を左に曲がれ!そこが正門だ!」
騎手
「勇者様!もうすぐで街に入ります!」
リノア
「やっとだ!とりあえずは一安心だな。
あとはみんなの健闘を祈ろう...」
前線での奮闘の裏で、勇者を乗せた馬車は
無事に柵と堀で囲まれた防衛陣内までたどり着き、
入り組んだ通路を進んでいた。
ここまで来ればもう安全。
リノアも勇者もそう思っていた。
リノア
「にしても、急に人が少なくなったな。
やっぱり出入り口の守りを固めてるのか」
陣地に入った時は多勢の兵士を掻き分けて
進んでいったが、先ほどから所々に立っている
数人ぐらいしか見かけないことに、
違和感のある静けさと微妙な不気味さを感じる。
騎手
「ここを曲がれば....って!?なんだあの人混みは!!」
丸太が立ち並んだ最後の包囲柵を抜けた時、
複数のテントが設営されている広けた正門前で、
兵士も農民も入り交じった群衆が道を塞いでいた。
騎手
「おい!おい!どけどけ!!
勇者様のお通りだぞ!!道を開けてくれ!!」
人々が馬車の存在に気づくと、
道を開ける者もいれば立ち塞がる者もいた。
リノア
「どうしたんだ?なにをモタモタしているんだよ?」
よく聞くと、皆が口々に何かを訴えている。
「轢かれるぞ!退こうぜ!」
「ダメだ!通しちゃマズいって!!」
「止めろ止めろ!」
「いや、ここは勇者に頼もうぜ!」
リノア
「なんだって言うんだ?」
アクト
「この先で何が起きているんですか?」
「敵の襲撃だ!!単身で乗り込んできやがったんだ!」
《バギィィィィーーーン!!!》
離れた先からでも鼓膜に突き刺さる甲高い音で、
敵の正体を察した勇者とリノアの表情が引き攣る。
「狼のバケモンだ!!」




