2.初めての世界で
墓地から離れて大きな街に入ると、
街中は大勢の人でごった返していた。
穂波
「ほわ〜...まさに中世って感じ...」
野菜や果物を物色するご婦人。
焼き物や煮物の露店で汗を流す料理人と、
それらを頬張る客。
武器屋でピカピカの武器や防具を買って出てくる
兵士と、それを羨ましそうに見つめる少年。
魔法道具を見せびらかす老人に群がり、
キャッキャと騒ぐ子供達などーー
この世界のありふれた光景を、
穂波は興味深そうに観察している。
そんな彼女とは対照的に、
白い羽織と赤い袴の着物を着た少し小柄な背丈の少女。
ハチクは、よそ見をして危なっかしい穂波を
引っ張りながら先導していた。
アクト
「もしかして『ウヌファスト』に来るのは
初めてですか?」
白いノースリーブのシャツに緑の帽子とスカート、
健康的な身体つきの女の子。
『穂波』は、アクトの問いに対して
少し間を空けて返事をする。
穂波
「え・・・ウヌファスト・・・あー、はい!
私達、田舎者なので〜
(あぶない、あぶない。つい浮かれちゃってた)」
アクト
「そうでしたか。
ここはウトピオ共和国の中でも南部で最大の都で、
あらゆる場所から人と物が集まる商業都市なんですよ。
それから――――」
勇者アクトは礼儀正しく、紳士的に南都について
色々教えてくれている。
言葉使いもしっかりしていて、とても印象がいい青年だ。
噂では、彼はこの世界の『勇者』らしい。
穂波とハチクは話を聞きながら、
そんな彼を後ろからジロジロと観察していた。
温かみのあるオレンジがかった赤い髪。
黒い瞳に、しっかりとした濃いまつ毛と眉毛。
身長はそれほど高くなく、体格も普通位に見える。
ハチク
(こんな少年が勇者とは・・・なんだか頼りないな)
ハチクは彼の事を少し疑っていたが、
彼の存在に気付いてザワつく通行人達の反応を見て、
噂は間違いないだろうと納得した。
ーーしばらくして、
3人は一際立派な建物の宿屋に到着する。
《チャリーン♪♪》
□宿屋
内装もこれまた洒落ていて、
受付のある1階は酒場になっていた。
そのうち、こちらに気付いた小太りの男が
受付から声を掛けてくる。
宿屋の主人
「おお、勇者さん!今日は随分お早いお帰りですねぇ」
アクト
「ええ、こちらの女の子達が宿を探していたので、
お連れしたのですが」
穂波
(おっとー...こりゃマズいですねぇ...)
穂波は話の流れに焦る。
主人
「おおお!!
お客さんに紹介までして下さるとは、
流石は勇者様!!ありがたいことでぇ♪」
穂波
「え、えーとぉ...でも!まだ早いですからねー!
とりあえず街を観光したいなーって...ねっ!ハチク!」
ハチク
「ああ、そうだな」
主人
「ホウ、お嬢さん方は南都に来るのは初めてで?
それなら、ゆるりと見て回るのが良いでしょう。
部屋は空けておきますので」
穂波
「ありがとうございます♪では行ってきますねー」
アクト
「それじゃあ、俺もまた出掛けます」
アクトと穂波が宿屋を後にする中、
ハチクは口を開く。
ハチク
「・・・おい主人、ここは二人で1泊いくらだ?」
主人
「え…ああ、部屋は二人部屋で、
1泊200ポルドだけど、・・・勇者さんの紹介だし、
可愛いいお嬢さんへのサービスに、150ポルドにして
あげるよ!」
ハチク
「そうか・・・礼を言う」
《チャリーン♪♪》
□街中
アクト
「では自分も街に出ますので、
何かありましたら、また」
穂波
「はい!ありがとうございます!ではまたー♪」
街中へと歩いていくアクトを他所に、
二人は宿の前で話し合い始める。
穂波
「うーん。とりあえず重要人物には会えましたけどぉ〜
・・・・・・宿代どうしましょうか?」
彼女達にとって、″避けては通れない
悩ましい問題″に直面していた。
ハチク
「主人が値引きしてくれたが、
150ポルドがどれぐらいの価値なのかも調べないとな。
本来ならあの勇者を尾行したいところだが、
まず先立つ物がないと、この先話にならないからな」
実は彼女達には、
この世界でやらなければならない
ある『目的』があった。
しかし、ここは異世界。
食料も寝る場所も、現地調達するしかない。
特に貨幣は単位や価値を調べ、何とか
それ自体を手に入れなければならないのだ。
穂波
「それじゃあハチク・・・そのー・・・
いつもの『あれ』。お願いできます?」
穂波はちっちゃくハチクの袖を引っ張りながら、
申し訳なさそうにねだる。
ハチクは少し考えたが、答えはすぐ出た。
ハチク
「・・・まあ、初日だし仕方が無いか。いくぞ」
そう言ってハチクはおもむろに歩き出し、
路地裏の人気のない場所へ入っていく。
すると、不思議な現象が起きる。
まだ昼過ぎだというのに辺りが段々と暗くなる。
そんな不気味な裏道の暗がりを進み続けると、
今度は次第に空から光が指してきた。
ーーーーーーーーーーーー
いや。空が暗かったわけではない。
いつの間にか空が何かに覆われている場所にいたのだ。
サクサクっ
サクサクっ
と何かを踏む音。
明るくなるにつれて、
その場所が″竹林″であることがわかる。
いつの間にか、黄金色に優しく光る竹林が
無限に広がっていたのだった。
穂波
「ただいまぁ〜」
ここは、ハチクが操る事の出来る固有空間。
その名も『黄金竹林』。
この中では時間の流れが止まっていて、
ハチクの意思で他の人間も連れて来られるが、
″一回使う毎にかなり消耗する″らしく、
使える回数に限度があるのだとか。
彼女はこの能力によって、 人よりも長い年月を
生きてきたらしい。
だから、身長も低い・・・のかもしれない。
そんな閑静としたこの場に、不釣り合いなモノがあった。
それはタンスのような木製の物入れで、
穂波が開けると中には様々な物が入っていた。
ハチク
「取り敢えずその中から適当に価値の
ありそうなものを売ってこよう。
これ以上増えて、ここの景観を損なわれても困る」
穂波は物入れに乱雑に詰められた、あれやそれやを
漁っては、ハチクに見せてその是非を聞いていく。
穂波
「それにしても、こういう他所からのモノを
持ち込んでも大丈夫なんですかね?」
ハチク
「あまり良くはないが、余程の物でなきゃ
1つや2つぐらい異世界に流しても問題ないだろう」
穂波
「それじゃあ・・・」
悩んだ挙句、穂波は巾着袋一杯のカラフルな鉱石 (高価なのかわからない)と、
綺麗な硝子細工 (穂波が元いた世界のお土産品数品)
などを自分のバックに入れた。
ハチク
「では街に戻ろう」
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□南都ウヌファストの路地
ハチク
「取り敢えず、この商店街を一通り覗くか。
資金調達の為にも質屋を探すのが最優先だが、
物の物価が分かれば大体の相場もわかるはずだ」
穂波
「おお、なるほどぉ~。
じゃあ行ってみましょう♪」
□商店街にて
2人はまず、最も賑やかで活気のある
露店通りを歩く。
今のところ見かけるのは普通の人間ばかり。
エルフやドワーフ、リザードマンといった、
ファンタジー世界の定番である非人間族らしい者の
姿はまだ見当たらない。
客
「何だか最近またちょっと高くなったねー」
店主
「すまんねえ。また魔族の侵略が始まるそうだから、
農家も商人も不安がって、どこもなかなか栽培や運搬
が捗らないのさ…勘弁しておくれ。
また勇者様が何とかしてくれれば ーーーー」
道中で耳に入る会話に耳を澄ませると、
先ほどから人々の口から
『魔王』や『魔族』『侵略・戦争』
といった言葉をよく聞く。
穂波
「やっぱり、魔物とかはお決まりですねぇ」
ハチク
「勇者なんて役割がいるなら、必然だろう」
ーーーーーーーーーーーー
□露店
店の看板には[25ポルド、30ポルド]と
書かれている。
兵士
「腹減ったー、まだかよオヤジ〜」
「おいおい、今日も巡回だけしかしてないだろ。
また大盛りか?よくそんなに食えるな」
兵士
「腹が減ってたら戦は出来ないからなw」
「アンタらが戦う戦が何処にあんだよ・・・全く」
穂波はこの会話から、
「30ポルドぐらいでお腹一杯になれるんだ」
と呑気な事を思っていたが、
ハチクは兵士の会話に緊張感の欠片も
なかった事が気になった。
ハチク
(噂では戦争が近いはずだが・・・腑抜けてるな。
それに、戦う機会がないような事も言ってたが…)
何か違和感を感じつつ、
ハチクは頭の隅に置いておくことにした。
ーーーーーーーーーーーー
《チャリーン♪》
□質屋
2人が賑やかな街中を歩きまわって、
やっと見つけた質屋はいかにもな雰囲気だった。
店内には見境なく色んな物が陳列されており、
カウンターから眼鏡をかけた老人が出てきた。
黄金竹林から持ち込んだ物を査定してもらったところ、
鉱石の方は種類が分からず価値も分からないそうだったが、
見栄ばえがいいという理由で、60ポルドになった。
少し不安になる穂波とハチクだったが、
店主
「あとはー....おっ!!
こりゃ随分と見事な杯じゃのぉ・・・・
こりゃあガラスかいな!?」
ある物に、店主の目が輝く。
穂波
「はい。『江戸切子』っていって、
私の国の伝統工芸品なんですー」
店主
「ガラスにこれほど繊細な細工を出来るとは
・・・・『エド・キリコ』
《ゴクリッ!》
お嬢ちゃん!これあといくつ持っとる!?」
穂波
「えーと、一応あと3つ持って...」
店主
「4つ!?ぜ…全部売っとくれい!!
そうじゃのう....1000ポルド....いや!!
1200ポルドでどうじゃあーー!!!!」
穂波
「ええ!!えーとっ...」
穂波は戸惑ってハチクの方を見る。
ハチク
「とりあえず宿代150に足りるし、大量の
お釣りまでくるから、いいんじゃないか」
穂波
「そ、そうですね!
ではお爺さん、その値段でお願いします♪」
「おお!!それじゃあ取引成立じゃ♪」
店主は買い取った品を、
早速店の1番いい戸棚に飾る。
店主
「んじゃ、これが買取金1260ポルドじゃ!
今回はいい取引が出来たから、この砥石も
サービスしてやろう」
正直、ゲームとかなら小銭で買えるか、
大して役に立たなさそうなアイテムだ。
穂波
「ど、どうも。
ありがとうございました♪」
最も懸念していた問題が解決し、
穂波はかなりご機嫌な様子で店を出てきた。
穂波
「いやー、思ったよりも上手くいきましたね♪
取り敢えず一安心!」
ハチク
「・・・あの鉱石や切子とかいうやつも、
実際はもう少し価値があったような気もする。
もう少し強気に交渉していれば、
もっと高値になっただろうが・・・」
穂波
「いやいや、別にお金儲けが目的じゃないんですから〜。
まぁとはいえ、懐が暖かいと安心しますね〜♪
折角だからもうちょっと散策してみましょう!」
ハチク
「ああ、『記録』の為にも、もっと街の様子を
観察する必要があるだろうからな」
こうして2人は、慣れない世界でなんとか旅の資金を
手に入れ、やっと本格的に街の探索に取り掛かるのだった。




