1.とある世界の一人の勇者
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『 闇の中だけが暗いわけではない。
あまりにも強く眩い光源は、
モノを明るく照らす一方で、
照らしたモノの背後に影を落とす』
これは魔王が人間界に20回目の
宣戦布告をした年の話。
世界は魔族による侵略と一時の平穏を
繰り返していた。
最初の勇者が最初の魔王を倒した時、
悪夢は終わった。皆がそう思った。
だが暫くして、また新たな魔王が現れ、
魔族の侵略が始まる。
それを新たな勇者が止める。
そんなことの繰り返しが、
もう300年続いていた。
選ばれし『勇者』は精霊の加護を受け、
若くして数人の従者を引き連れて
魔王討伐の旅に出る。
それがこの世界の習わし。
人類を守る唯一無二の存在。
邪悪を打ち払い、
世界の困難に立ち向かえる『英雄』
だが
〜ハルビア歴1141年〜
8代目勇者の時代
従来の『勇者の在り方』と
辛うじて保たれてきた平穏によって、
浸透してしまった『イデオロギー』に
疑問を持つ者が現れ始め、
やがて人間界に大きな変革をもたらす
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雲一つない青空の下。
ある墓標の前に、1人の青年と
その後にフードを被った片脚義足の男が
いた。
8代目勇者として期待されている
青年『アクト・レインファルト』は
己の剣を地面に突き立て、
歴代の勇者だった先輩方の墓前に
祈りを捧げている。
義足の男
「あっという間にお前の番か・・・・
俺はもう役立たずのカカシだが、
アイテムや武器ぐらいは手配しておいた。
前回はいつもよりペースが早かったから、
ろくな準備もしてやれなかったからな」
噛み締めた下唇が、義足の男の
やり場のない悔しさと憤りを表していた。
アクト
「7代目・・・ですか。
あの人は・・・・優しい人でしたから、
多分あなたにも感謝の気持ちしかなかった
と思います」
青年の気遣い優しいものだったが、
男にとってその言葉は慰めにはならなかった。
義足の男
「お前も・・・とにかく生きて帰れよ。
生きてさえいれば、後でどうにでもなるんだから」
この助言の真意をアクトは察する。
アクト
「ありがとうございます・・・でも、
僕だけ逃げる訳にはいかないですから」
彼が悟ったような返事をすると、
中年は彼の肩を叩いて静かに去って行った。
――――――――しばらく後。
勇者アクトは腰を上げ、泊まっている宿屋へと
帰ろうとした時だった。
何処からともなく、ここらへんでは見慣れない顔と
服装の2人組がアクトの方へ向かって来る。
(なんだろう?)
1人はアクトより少し背の小さい、
明るい雰囲気の女の子だ。
艶やかな長めの髪。
ノースリーブの白いシャツに、
緑の帽子と緑の長いスカートを着ている。
もう1人は背の少し小さい金髪の美少女だった。
見慣れない白い上着と胸の下までもある長くて
赤いスカートを履いている。
(姉妹かな?)
視線を向けていると、
女子達は勇者アクトに話しかけてきた。
女の子
「あのー...さっきは大丈夫でしたか?」
アクト
「えっ?は、はい?」
急になんの事だか分からず、困惑するアクト。
金髪少女
「(バカ・・・)さっきの奴は知り合いか?」
アクト
「えっと・・・はい、そうですけど・・・」
女の子
「え、そうなんですか?良かったー!
跪いてる貴方の後ろに、
怪しい雰囲気の人がいたから、てっきり...」
少女
「襲われるとでも思ったのか?」
少女は呆れた顔で女の子を横目で見る。
女の子
「だって、フード被って顔が全く見えなかったし...
いかにもな雰囲気でしたからぁ...」
アクト
(酷い言われようだなぁ・・・)
義足の男のことを不憫に思いながら、
勇者アクトは不思議な二人に呆気にとられていた。
アクト
(まぁでも、自分のことを心配してくれてた
みたいだから、いい人なんだろうけど)
女の子
「あ、何か変なこと言ってすいませんでした!
実は私達、宿泊できる場所を探してまして、
貴方に尋ねようと…」
アクト
「あ、そうだったんですか。
そうですねぇ・・・
丁度僕も宿屋に戻るところだったので、
もしよければ一緒に行きませんか?」
女の子
「いいんですか?
ありがとうございますー!!」
女の子は感謝を伝えて、一礼する。
女の子
「私は『穂波』っていいます。
彼女は『ハチク』です。
″これから″宜しくお願いします♪」
アクト
「こちらこそ。
僕の名は『アクト・レインファルト』です。
では、向かいましょうか」
この場での自己紹介は、
いたって自然な流れだった。
しかし、
彼女の言葉にアクトは、
冒険の仲間達との旅立ちを思い出す。
まるで、これからしばらく同じ時を
過ごすかのような。
そんな事を思うアクトの後ろで、
二人はこそこそと話し合う。
穂波
「ねえ、ハチク。あの人やっぱり・・・」
ハチク
「ああ。さっきの墓標の名前・・・
どうやら歴代の勇者達の名前のようだ。
奴が噂の『次期勇者』だろう。
なんだか頼りない感じだが、
あいつに付いて行けばきっと・・・」
こうして、『一人の勇者の冒険』と
『謎の二人の旅』が幕を開けたのだった。




