激戦
早朝、目を覚ますと既に魔王軍が遠くに見えていた。
俺は味方の軍勢に、打ち合わせ通りの陣形を
組むよう指示を出す。
左翼には冒険者や義勇軍、傭兵たち、
右翼にはアリタイ国からの援軍、
中央が各都市から出兵してきた兵たちだ。
こちらの兵たちの展開が終わるころ、
鬨の声が魔王軍から上がった。
戦いが始まった。
数には勝る魔王軍、
激突するまでの勢いは魔王軍の方が上ではあった。
が、こちらの軍勢の左翼も右翼も、魔王軍を上手く跳ね返して、
反転攻勢に移っている。
左翼では、武器屋が大型のブロードソードを振り回し、
まるで台風のようだ。
しかし、何より凄いのはマテウスさんたちが率いる中央だ。
銃火器が無い時代において、
個の能力差が大きく戦況を変えると言うが、
ここまでとは。
特に、マテウスさんの動きが、他を圧倒している。
速く強い。そして無駄がない。
剣を振り上げる動作も、振り下ろす動作も、
全てが攻撃であり同時に防御にもなっている。
剣の一振り一振りで、魔族たちが倒れていく。
「凄い。これなら勝てる。」
メランさんが呟いた。
それにしても、マテウスさんは、
こんなに強かったんだな。
ユンゲルスさん、ユンガーさんも、
負けずにマテウスさんに付いて行っている。
その後も圧倒的な強さを見せつけるマテウスさんたちだったが、
中央があまりに突出するので、陣形が崩れてきた。
寄せ集めの左翼をカバーしたいという意図もあったのだろうが・・・
陣形を保つよう、伝令を走らそうとしたとき、
爆音が鳴り響いた。
魔王軍の魔法が炸裂したのだ。
突出している中央に対して、
クロスファイア気味に炸裂したため、
痛恨の一撃になってしまった。
隣接していた魔王軍にも被害は出ているが、
気にしていないらしい。
今更だが、伝令を走らせ、後退を指示する。
負傷しながらもマテウスさんは、
指示を受け、後退を開始した。
後退しながら重傷の兵を後ろに下げ、
軽傷の兵を前に出し、態勢を立て直す。
その混乱の中、
魔王軍は、ここぞとばかりに軍を中央に集め、
中央突破を狙ってきた。
だが、こちらの両翼も左右から攻撃を加えながら、
中央と連動して後退を始めたため、
魔王軍の勢いもそこで止まった。
また人間側が押し始める。
近衛兵長の冷静な指揮と、
右翼率いるアリタイ国王の的確な連動により
中央および右翼が盛り返し始めた。
ただ、また魔王軍の魔法が炸裂すれば、
消耗戦になりそうだ。
消耗戦となれば、数の上では劣勢の人間側が不利。
何か無いかと俺は懸命に考えた。
俺は勇者として召喚された。
なぜ召喚された?
魔王を倒すためだろ。
何故その俺が何もせずに見ているだけなんだ?
俺にできることは無いのか?




