201 ミズナたちと合流
シルルンは酒を飲みながら、仲間たちの方に向かって歩いていた。
「シ、シルルン坊ちゃま!!」
その声にシルルンは立ち止まり、大きく目を見張る。
シルルンが声が聴こえた方角に顔を向けると、そこには女たちが瞳に涙を浮かべて身を震わせていた。
「坊ちゃま!!」
「坊ちゃん!!」
女たちはシルルンに駆け寄って抱きつき、シルルンは揉みくちゃにされた。
「あはは、ミズナたちは生きてたんだね」
シルルンはこぼれるような笑みを浮かべる。
「はい……私たちはマジクリーン王国を拠点にシルルン坊ちゃまを捜していたのですが、マジクリーン王国は魔物と戦争状態ですのでこちらに逃げてきたのです」
ミズナはシルルンに頬ずりしながら言った。
彼女は、シルルンの母親であるメアリーの専属メイドだったが、メアリーが産みの親なら、ミズナは育ての親だった。
多忙だったメアリーは、シルルンの世話をミズナに丸投げしており、ミズナはシルルンが赤ちゃんの頃から育てているのでシルルンを溺愛していた。
「シルルン坊ちゃまはここで難民生活をしているのですか?」
ミズナは探るような眼差しをシルルンに向けた。
「ううん、僕ちゃんはここに難民さんを雇いに来たんだよ」
その言葉に、ミズナは眉を顰めて『並列思考』を発動させた。
「だとすると、坊ちゃまは誰かに雇われているんですか?」
女たちの一人がシルルンに尋ねた。
彼女はヒルダという名前で、シルルンが一歳になったときにメアリーに買われた奴隷メイドで、シルルン付のメイドだった。
残りの女たちもシルルンが一年歳を重ねる度に、一人ずつ増えていき、シルルンが十歳になった時点で、十人の女たちがシルルン付のメイドだったのだ。
「あはは、僕ちゃんが雇ってるんだよ」
「えっ!?」
ヒルダたちは驚いたような顔をした。
「それで、ミズナたちはこれからどうするんだい?」
「もちろん、シルルン坊ちゃまのお世話をいたします」
ミズナは即答し、ヒルダたちも当たり前のような顔で頷いた。
「そ、そうなんだ……」
シルルンは複雑そうな顔をした。
「それでは、これをよろしくお願いします」
ミズナたちは一斉に胸の中から奴隷証書を取り出して、シルルンに差し出す。
シルルンは順番に奴隷証書を受け取って、ミズナたちは奴隷になることを宣言した。
こうして、ミズナたちがシルルンの奴隷になったのだった。
「じゃあ、メイたちのところに行こうか。こっちだよ」
シルルンは東の方角を指差して、歩き出した。
「メイたちと合流できていたんですね」
ヒルダたちは意外そうな表情を浮かべており、シルルンの後ろを歩いていく。
しばらく歩くと、シルルンたちは仲間たちの元に到着し、辺りはとんでもない数の難民たちで溢れ返っていた。
「ミ、ミズナ様!!」
メイは驚きのあまりに血相を変える。
「……メイさん、あの方たちとお知り合いなんですか?」
セーナが不思議そうな顔で尋ねた。
「あは、ミズナさんはシルルン様の育ての親よ」
アキがセーナの耳元で囁いた。
「えっ!?」
セーナは雷に打たれたように顔色を変える。
メイはミズナたちの方に向かって歩き出すと、セーナもメイの後を追いかけた。
「ミズナ様、ご無事で何よりです」
メイは深々と頭を下げた。
「あなたたちがシルルン坊ちゃまについていてくれて良かったわ」
「私はご主人様に買っていただいた奴隷で、セーナと申します。よろしくお願いします」
セーナは優雅に一礼した。
「こちらこそ、よろしくお願いします。私たちのことはいいから先にこの場をどうにかしなさい」
「分かりました」
メイとセーナは難民たちの方に歩いていった。
「シルルン様、子供たちは保護できたと思いますが、まだ難民を雇いますか?」
ゼフドがシルルンに尋ねた。
「ううん、それなら拠点に戻ろうか」
「はっ」
ゼフドは難民たちの方に歩いていき、立て札看板を引き抜いて、メイたちに帰還する旨を伝えた。
子供たちの数は三千人ほどで、男掘り手の数は千五百人ほど、女雑用は三千人ほど集まった。
シルルンはラーネに『瞬間移動』で子供たちや難民たちを拠点に連れていってくれと指示を出し、ゲシュランたちは子供たちに強請られて、拠点に来ることになった。
全ての難民たちが拠点に移動したのを確認したシルルンたちは、『瞬間移動』で掻き消えたのだった。
拠点に戻ったメイたちは、子供たちや難民たちへの説明で大忙しだ。
「シルルン坊ちゃま、ここはどこなのですか?」
ミズナたちは辺りを見渡して顔を顰めている。
「ここはルビコの街から南下した鉱山なんだよ。ちょっとついてきて」
ミズナたちは頷いて、シルルンたちは歩き出した。
シルルンたちはガダンの店に到着し、シルルンはミズナたちを連れてガダンの店に入った。
シルルンは服が飾られた区画に移動する。
「とりあえず、服がボロボロだから何着か買うといいよ」
「よ、よろしいのですか?」
ヒルダたちは戸惑うような表情を浮かべているが、ミズナだけは考え込むような顔で、シルルンを見つめていた。
彼女はずっと『並列思考』を発動し続けており、シルルンの格好や肩にのっているスライムたち、黒い魔物に視線を向けて眉を顰めている。
「うん、お金のことは心配しなくていいから、好きなのを買ったらいいし、他に必要な物があるんならそれも買うといいよ」
「ありがとうございます!!」
ヒルダたちは嬉しそうに服や道具を物色している。
「坊ちゃま、全身鏡も買っていいですか?」
ヒルダが物欲しそうな目でシルルンを見つめた。
「うん、いいよ」
「ありがとうございます!!」
ヒルダが全身鏡を手に取ると、他の女たちも全身鏡を物色し始めた。
結局、全員が全身鏡を購入し、シルルンは会計を済ませて買った物を魔法の袋に入れると、ミズナたちは驚愕したのだった。
シルルンたちは店を出て、拠点に移動した。
「領地に行ってくるデス!!」
「デシデシ!!」
「我も行く」
「うん、気をつけるんだよ」
プルたちはペット小屋の方に飛んで行った。
シルルンたちは拠点の中に入って、真っ直ぐ進んで食堂を通り過ぎていくと、大行列ができていた。
「ここには風呂とトイレがあるんだよ」
シルルンは魔法の袋からガダンの店で買った服を取り出して、ミズナたちに手渡した。
「お、お風呂があるんですか!?」
ミズナたちは驚きのあまりに血相を変える。
「うん、女風呂は右から二番目の部屋だよ。だけど行列になってるから真ん中の部屋を使うといいよ」
「真ん中の部屋もお風呂なんですか?」
ヒルダは意外そうな顔をした。
「うん、まぁ、魔物用みたいな感じだから、ほとんど使ってないんだよね。僕ちゃんは食堂の方にいるから、風呂から上がったら来たらいいよ」
「分かりました」
ミズナたちは嬉々として真ん中の部屋に入って行った。
シルルンは踵を返して歩いていき、食堂に到着して空いているテーブル席に腰掛けた。
食堂は子供たちで溢れ返っており、子供たちは嬉しそうにスープを飲んでいる。
「王よ、これはまた一段と騒がしくなりましたな」
ガダンが顎鬚を触りながら、シルルンの対面の席に座る。
傍らにはカンナと手下が控えている。
「うん、七千五百人ぐらいなんだけど食料は足りるかな? 子供は日に二食、掘り手と雑用は日に一食の予定なんだけど」
「食料を調達するのは問題ありませんが、毎日、七千五百人分の食料を馬車で運搬する費用が月に約一億円で、食料費は一食五百円として計算すると月に軽く億は超えますので、合計二億は月に消えますが、その金はどうするのですか? 掘り手はともかく、子供と雑用はマイナスにしかなっていないと思いますが」
ガダンは探るような眼差しをシルルンに向けた。
「……極端な話、本当は掘り手もいらないんだよね……グレイたちがいるからね。だから保護が目的なんだよ。で、これ売ったらいくらになる?」
シルルンは魔法の袋からミスリルソードとミスリルアーマーを取り出して、ガダンに手渡した。
「……ん、んっ? これは儂のところの武具にそっくりですな……」
ガダンは訝しげな顔でミスリルソードをカンナに手渡した。
「これは間違いなくウチの工房で作製された剣ですが、なぜかミスリルですね……」
カンナは複雑そうな顔をした。
「あはは、やっぱり分かるよね。僕ちゃん鋼をミスリルに変える方法を知ってるんだよね」
シルルンはフフ~ンと胸を張った。
「なっ、なんですと!?」
ガダンとカンナは驚きのあまりに血相を変える。
「それで、その剣と鎧はいくらで売れそうなの?」
「剣と鎧で二億ほどにはなりますな……」
「ガダンのところはミスリルを扱ってないんだよね? これから扱う気はある?」
「それは王次第ですな……鋼をミスリルに変えるにはどのくらいの時間が必要なのですかな?」
「すぐできるよ」
「……くくくっ、それならばいくらでも持ってきて下さい」
「じゃあ、出すね」
シルルンは魔法の袋からミスリルソード九十九本とミスリルアーマー九十九領を取り出して、テーブルの上に置いた。
「あはは、これで単純に二百億になるよね」
「し、信じられん……やはり、王は商売も天才ですな……」
ガダンは利を掴むときのような狡猾な顔をした。
「取り分は半分でいいからね。僕ちゃんの分はメイに渡してくれたらいいから」
ガダンは頷いて、手下に目配せして、テーブルに置いてある武具を運ばせた。
「それでは儂はこれで失礼します」
「うん」
ガダンたちが去って行くと、代わりにミズナたちがやってきた。
「とてもすっきりしました。お風呂があるなんて素晴らしいですね」
ミズナたちはうっとりしたような表情を浮かべている。
「で、ここでご飯が食べれるんだけど、今は子供たちでいっぱいだから、とりあえずこれを食べるといいよ」
シルルンは魔法の袋から赤い果物を十一個取り出して、ミズナたちに手渡した。
「リンゴのような果物ですね」
ミズナたちは赤い果物を一口食べた。
「お、美味しい……だけど食べたことがない味ですね……」
ミズナたちは夢中になって赤い果物を食べている。
「あはは、その果物は激レアなんだよね。それ一つで余裕で一日はもつからね」
「す、すごい……本当に満腹になりました……」
ヒルダは感心したような表情を浮かべている。
「じゃあ、行こうか」
シルルンたちは女子用個室に移動した。
「空いてる個室が五部屋しかないんだけど、今日のところはここで休んでくれないかな」
「シルルン坊ちゃまはどこでお休みになるのですか?」
ミズナが不服そうに尋ねる。
「僕ちゃんの部屋は、男子用個室のほうにあるんだよ」
「では、私たちもそこに行きます」
ミズナは即答し、ヒルダたちも当たり前のように頷いた。
「えっ!? 僕ちゃんの部屋はいろんな人が来るし、ペットもいっぱいいるんだよ」
シルルンは戸惑うような表情を浮かべている。
「何の問題もありません」
ミズナたちは得意げな表情を浮かべている。
「そ、そうなんだ……じゃあ、こっちだよ」
シルルンたちは歩き出し、シルルンの個室に到着して中に入った。
「まぁ、ほとんど何もないけど寛いでよ。あと、ペットがいっぱいいるから驚かないでね」
シルルンは魔法の袋から、ミズナたちがガダンの店で購入した物を取り出し、部屋の端に置いてからテーブル席に腰掛けて酒を飲み始める。
「広いわね」
ヒルダたちは部屋を見回して、地面にあいている大穴を発見して驚く。
ミズナはシルルンの隣の席に腰掛けて、コップに酒を注いだ。
「……穴の周りにいる蜂のような魔物は襲ってこないんですか?」
ヒルダたちは不安そうな表情を浮かべている。
「触らなければ大丈夫。大穴の中で茸を作ってるからアメーバたちも出てくるよ。あと部屋の奥には親がいるから驚かないでね」
「は、はい……あの、坊ちゃまは難民たちを雇って、ここで何をしているんですか?」
ヒルダは不可解そうな顔をした。
「う~ん……月に二億円の赤字だから保護してるだけだね」
「えっ!?」
ヒルダたちは雷に打たれたように顔色を変える。
「まぁ、お金はいっぱいあるから大丈夫だけどね。あとミズナたちにお小遣いをあげるよ。とりあえず、一人百万円」
シルルンは魔法の袋から金貨袋を十一袋出して、テーブルの上に置いた。
「シルルン坊ちゃま、私たちは奴隷ですので人ではなく道具です。ですのでお小遣いは不要です」
ミズナははっきりと言った。
「世間ではそうかもしれないけど、僕ちゃんは奴隷にお小遣いをあげるんだよ」
「分かりました……シルルン坊ちゃまは変わらず、お優しいですね……」
ミズナははにかんだような表情を浮かべている。
「坊ちゃま、月に二億円は大金です。稼ぐ手段はあるんですか?」
ヒルダは真剣な硬い表情で言った。
彼女は元々が【商人】で『アイテム解析』を所持しており、【上級メイド】から転職して、現在は最上級職の【結界師】だ。
「これまでの話と状況から推測すると、シルルン坊ちゃまは採掘ポイントを所有しているのだと思います」
ミズナは難しそうな表情を浮かべている。
「えっ!? どういう経緯で採掘ポイントを所有できたんですか?」
ヒルダは顔を顰めた。
「仲間たちと一緒に掘り当てたんだよ。だから僕ちゃんが所有者なんだよね」
「……ぼ、坊ちゃま、すごいです!!」
ヒルダは嬉しそうにシルルンに抱きついて、頬ずりしている。
「あはは、だからお金のことは気にしなくていいんだよ」
「……私たちと生き別れて、まだ一年も経っていないのに、シルルン坊ちゃまは別人のようになられましたね」
(聞かないといけないことがたくさんありそうです……)
ミズナは感心したような表情を浮かべるのだった。




