結論は全て殺戮に行き着く
「貴方の名前を聞かせてくれる?」
「ジャッター・ゲロッベンだ」
「そう、ジャッター・ゲロッベンね。私は中西寧々よ、よろしく」
手を差し出すと、ジャッター・ゲロッベンと名乗った老人は、それを訝しげに見やっていた。
どうやら、彼の世界には握手という文化がなかったらしい。
異世界から召喚したという実感が湧いた。
「それで、貴方はどんな事が出来るのかしら?」
「どんな事、とは…?」
老いているせいか、鈍いのだろうか。
どんな事と言ったら、どういう戦いをして、私を召喚王にしてくれるのかという事に決まっている。
「私を召喚王にする為に、どんな事が出来るのかしら?」
「敵を殺すだけでは足りぬか?」
ゾクッとした。
背筋が凍るような寒気、そういうのを実際に体験したのは初めてだった。
恐れ慄いているのだ、私はこのジャッター・ゲロッベンという名の老人に対して。
「ま、まあ、敵を倒してくれるというなら、それが結果的に私を召喚王にするという事になるわね。でも、仲間も増やさないと駄目よ」
「足を引っ張られるのが趣味なのか?」
「どういう意味よ?」
先程、彼が問い掛けたように、今度は私が問い掛けている。
そう、今、この場は彼に支配されてしまっている。
「召喚王になるには敵を皆殺しにすれば良いと聞いたが、その条件が改変されたのか?」
「いえ、まあ、その通りなんだけど…」
「だったら、仲間なんて必要ない。皆殺しにする、ワシが皆殺しにしてやる」
「でも、相手が仲間を増やしていて複数だったりしたら、貴方も手に負えなくなるんじゃないかしら?」
「関係ない。ワシ以外の99名が手を組んだとしても、皆殺しにしてやる」
尊大な物言いだとは思ったが、自分の実力に誇りを抱いているからの台詞であるのだろうし、今、召喚王になる為の唯一にして無二の手駒である彼のプライドを無意味に損ねるのも得策ではない。
「分かった。信頼するわ、貴方の事を」
「では、行くとしようか」
「えっ?」
「敵を探して殺す。それを繰り返せば、すぐに終わる」
短絡的な思考というよりは、現実を突き詰めすぎた結果の代物なのだろう。
「ちょっと待って、準備をするから」
「家族は殺しておくか?」
あまりにも予想外な台詞に、私は唖然としてしまう。
彼が殺すべきなのは敵であって、私の家族は敵ではないのだ。
「人質に取られてから殺す方が良いなら、別に手間というわけでもないが」
何もかもが違いすぎる。
人質に取られる可能性があるから、その前に殺しておく。
人質に取られたとしても、助けるのではなく、殺す。
生きてきた世界が違いすぎて、共感できるか否かという問題どころではなく、欠片も理解できない。
「私が殺さないで欲しいと言ったら、貴方はどうするの?」
「勿論、殺さないだろう。ただ、そういう場合、こちらの苛烈な攻撃に混乱した敵の手によって殺されてしまうだろうな」
「じゃあ、家族を救って欲しいと言ったら…?」
その時に向けられた視線を、きっと、いつか、夢で見るだろう。
あまりにも冷たく研ぎ澄まされていて、視線を合わせたままでいたなら、それだけで発狂してしまいそうだった。
「準備は出来たか?下らない話をしている暇があったら、召喚王になってしまった方が良い」
家族は救ってくれない、殺される。
仲間は増えない、皆殺しだ。
安易に深く考えもせず、サイコロを振ってしまった事に対する後悔を、今更ながらに始めてしまっている自分に悲しくなる…。




