le faux nom ~偽りの名~
お待たせしました!?
バル・マスケのSIDESTORRY です。
とりあえず人目を避けながら家にたどり着く
海で拾った少女―――――奈落は、裸足であったため仕方なくおんぶして変えることになった
奈落は、その年齢からみても驚くほどに軽かった
家には、それから数分歩いた後にたどり着いた
「ただいま」
声をかけるとその声を聞きつけた兄と義姉さんが玄関に走ってくる
「おかえりなさい。」
いつも通り優しく迎えてくれる義姉さん
だがその柔和な笑顔はすぐに崩れる
背中に背負う、奈落の姿を見たのだ
まぁ、なんて格好をしているの?早くお風呂に入りましょう。
そういって背中を押されて風呂場に義姉さんに連行されていく奈落
何度か困ったような戸惑った表情をこっちに向けてきたが、とりあえずまともな格好をしてもらわないと目のやり場に困るから義姉さんに任せることにした
「勇輝。どういうことなのか詳しく説明しろ」
兄さんは、怖いくらいにこやかな笑顔で言う
通称デビルスマイル
兄さんがこういう笑い方をするときは、怒っているときだ
でも、今回人助けはしても怒られるようなことをしたつもりはない
「メールに書いた通りだよ。海岸に倒れていた。傷はないけど、服とかボロボロだしまるで海から流されたみたいに全身濡れていたから、変な奴に発見されても大変だろうから、拾ってきた。」
まるで海から流れ着いたみたい
それが、本当だということを勇輝が知るのはもう少し後のことになる
お風呂場
目の前にいるのは、今さっき義理の弟である勇輝君が海岸で拾ってきたという、見るからにわけありの女の子
勇輝君のトレーニングウェアを羽織った女の子の背中をとりあえず押しながら、お風呂場に連れてきた
さて、どうしましょう
女の子は、戸惑ったような表情を浮かべたまま、こっちを凝視している
とりあえず自己紹介しなくちゃ
この女の子の名前も知らないしね。
「えっと、わたしは大門寺 美羽。勇輝君の義理の姉にあたるかな。」
「奈落。」
奈落
そう名乗る女の子
苗字はなんていうのかしら?
言いたくないのかもしれない。言いたくなったらその時に聞いてあげればいいよね。
「奈落ちゃんお風呂入ろうか。そのままでいたら、風邪をひいてしまうわ」
「そうだね。うん。」
そういって奈落ちゃんは、勇輝君に借りたトレーニングウェア―のチャックに手をかけ引き下ろす。
じじっじぃ
「!」
チャックを下し終えたその姿に思わず目をむき息をのみ呆然とする
美羽の反応に気が付いていたが奈落は気にせず衣服を脱ぐ
衣服とすでに呼べる代物ではない其れは水を吸ったため重量がまし肌に張り付いていた
「あの、美羽さん。お風呂は一人でも入れます。それと、私の体そんなにじろじろと見られると恥ずかしいです。さすがに……」
奈落の言葉で美羽は我に返る
奈落ちゃんあなたにいったい何があったの?何が起こったの?
ぼろぼろの衣服。
それを見て呆然とした次に湧き上がったのは激しい怒り
それを見て女である美羽には何がその身に起きたのか 想像することは難しい事ではなかった。
このときの美羽は奈落をそんな目に合わせた者たちへの激しい怒りのせいで気が付かなかった。奈落の四肢にも、顔にも体のどこを見ても傷が一つもないことに最後まで気が付かなかった。
「あ、そうだよね。ごめんなさい。バスタオルはそこにあるのを使って、シャンプーやリンスは中にあるわ。ピンク色のボトルのがわたしのだから遠慮せずに使ってね。海水に使ったせいで、髪の毛バリバリになっちゃっているでしょ?ドライアーはそこね。何かあったら読んですぐに来るわ」
「ありがとう」
奈落ちゃんがお風呂のドアを開けて入っていくのを見届けて美羽は、自分の旦那である大門寺 真澄のもとへ向かうのだった。
大門寺真澄は、とりあえず弟が拾ってきた女の子のためにあたかいスープを作ることにした。つくりながら、弟から女の子を発見した時の詳しい状況を聞いた。
「名前は奈落っていうらしい。本名じゃない可能性の方が高いと思うぜ。」
「?」
「苗字はないただの奈落だとさ。わけありなのは間違いないと思う。」
苗字を名乗らない奈落という偽名の少女
「勇輝君。あの子はとりあえず記憶喪失とかじゃないんですよね?」
「そうだと思うよ。ここはどこだって聞いてきたし、家はここからは遠いいから簡単には戻れなさそうなこと言っていた。」
弟が誰かをうちにつれてくることも、ましてや連れてきたのが女の子であることにも驚かされたが、見るからにわけありの人間を連れてきたことにはもっと驚いた
弟は誰ともすぐに仲良くなる代わりに、肝心な部分には立ち入らせない
壁を作っているのだ。
それは、兄である自分に対してもそうだ。
「俺どうして奈落、拾ってきたんだろう?」
心底不思議そうに聞いてくる弟に心の中でこっちが知りたいわという声なき突込みを入れる
「ほっといたらやばそうだったからじゃないのか?」
「まぁ、それもあるにはるんだけどさ……。」
妙に歯切れ悪そうにもごもごという
話しかけようとしたその時、お風呂場から妻が戻ってきた
「美羽、どうでしたか?」
「えっ、あ。いま、お風呂に奈落ちゃんは言っているよ。ねぇ、何があの子にあったの?あの子勇輝君とそう変わらない年齢でしょ?」
「俺の方が年上だった」
ぼそりと弟が言ったが気にしない
「そうですね。詳しいことは本人に聞いてみるのがいいでしょう」
「うん」
あたたかい
凍ってはないけれど冷えていたからだがあったまっていく
ごわごわになった髪を洗い終え湯船につかっていた
「とっさに名乗ったのが、偽名ってどうなのよ。」
自嘲気味につぶやく
奈落というのが本名ではない
文字数は一緒でも、全く異なる音の羅列
周りに奈落という名前の人間はいない
どうしてそんな名前を名乗ったんだろう
どうせ名乗るのなら、もっと普通の名前にすればいいのに。
「あぁ、そうか」
濁流にのまれ意識が飛ぶ寸前、自分が地獄へ落ちていくようだと思ったからだ。
「私は、何処まで堕ちていくのだろう?」
その問いに答える声
―――――何処までも、共に堕ちよう
「あはは。そうだよね。うん。」
私は、あなたを道連れにどこまでも どこまでも堕ちていくのね。
じわりっ
瞳から、大粒の涙がこぼれ湯船に落ちる
天井に顔を向けながら、流れる涙をそのままにしていく
「苦しいよ。すごく」
弱音だと知りながら口に出さずにはいられない
―――――あぁ、知っている。だが、後悔はしていないんだろう?
「しないよぉ。そんなことしていたらいつまでたっても前になんて進めない。後悔じゃない。未練なの。」
もう会えない
会うことはない
隣に、私はいられない
こんなにもそばにいたいのに、そばにいられない
平凡な毎日が変わってしまった時から私の人生計画は狂いっぱなしだ
「好きな気持ちは本当。ごめんね。私はあなたすらも利用するわ。は……」
そこまで口にしてあわてて止める
その名を口にしてしまったら、余計に会いたくなる
それではだめなのだ
私にとっても私たちの計画にとってもマイナスになる
おとなき涙をまたひとつ流し、水面に波紋を立てる。
「もう、もどれないわ」
―――――――オマエを戻しはしない
「うん、わかっているわ。」
だから、私は前に進む
たとえその道が修羅の道であろうとも私は進む
「駒をもう一つくらい作る必要があったしちょうどいい候補はいたわ」
私を助けてくれた少年
とても頭がかしこく、そして危うい感じがする
「アナタも私とともにくる?」
彼女にしか聞こえない声の主にあてたものではない
この家に住み彼女を序の家に連れてきた大門寺勇気に向けた言葉
――――――それだから、オマエは面白い
「見世物じゃないわ」
そういって湯船から立ち上がる
琥珀色の瞳にはすでに涙の跡はなかった
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