Visiteur~訪問者~ -2-
「羽矢、あんた嘘をつくときは必ず笑うから、すぐバレる」
うっ
昔久遠にも言われたことがある
羽矢はごまかしそうとしたり嘘つくと急に笑顔になるからバレバレよ。
直そう直そうと思ってもやっぱり癖は抜けないみたいだ
「そうですか。久遠にも言われたことがあります。で、どうしてそんなこと急に言いに来たんですか?」
初以来受けたばかりでもうこっちの活動を気づかれるなんて・・・
もしかしたら依頼を受ける前 創設する途中で気づかれていたのだろうか?
師匠は何を言いに来たのだろう
やめろというため?
でもやめるつもりはない
今、羽矢を生かしているのは久遠の夢を実現させるという思いだけなのだ。
あの色あせた世界の中 羽矢は自殺しようとした
久遠の後を追うためだ
台所においてある銀色の光を放つ包丁
冷たく鋭い刃物をそっと手に取る
ゆっくりと首元に近づけ力いっぱいその手を引こうとして…無理だった
出来なかった
カラン
乾いた音を立てて床に落下する包丁
死ぬのが怖かった
死ぬ勇気が足りなかったのだ
久遠の後を追うことができない自分
ただ、部屋に閉じこもるようにして久遠のことを思い出していた
繰り返し、自分を責めた
どうして助けられなかった
どうして止められなかった
自分で自分の心に氷のナイフを幾度も突き立てる
心が冷たい血を流す
空気に当たりヒリヒリとする
それでも繰り返し繰り返す
心を殺す
肉体を殺せない代わりに心を殺そうとした
そんな日々を変えたのも久遠だった
零無さんの持ってきた久遠から羽矢にあてた手紙
それが、羽矢を生かした
心も体も生かした
死に追い詰めたのも久遠だと言われれば否定はできない
でも、まだ可能性がある
久遠が生きているという
そして久遠から託されたものが羽矢に生きる理由を与えた
だから誰にも邪魔をさせるつもりはない
たとえ師匠だとしても、邪魔はさせない
どんな言葉でももうはやを止められない
もし止められる人がいるのならそれは間違いなく久遠ただ一人
「危険なことをあんたが他人を巻き込んでやっているからとめに来た。」
「止められませんよ。」
まっすぐと師匠を見る
師匠と目が合う
へびににらまれたカエルのような気分になるけど目をそらさない
立ち止まらない
叶えると決めた
「久遠がらみだな」
ぽつりと師匠がいう
張りつめたものが部屋の中から消えてゆく
「はい。でも、久遠が悪いわけではありませんよ。かなえようとしたのも実現させることを選んだのも僕が選択したことです。」
久遠は別に強制させたりはしない
いつもこちらに選択肢を残す
僕が、久遠の言葉を無視することもできたのだ
「はぁ。レイムといい、娘といい。あの親子は何でこう変なところがにているのかなぁ・・・」
ん?
「羽矢。何をしているのかだいたいのことは知っているつもりだ。あたしも入れろ。その活動に!」
「えっ!!」
絶対止められると思っていた
実際、師匠は一度ならず二度も羽矢に今さっきやめろと言ったのになぜ?
急に意見を変えたのだろう?
何を考えているのだろうか?
全然よめない。
「あたしをその活動に入れろといった。不定期だが参加する。…見張りだとおもえばいい。」
あぁ・・・
なるほど、止められそうもないからせめて目の届く範囲でうろちょろしろということですか。
師匠らしいといえばそうだ。
「拒否権ないですよね。」
「ないな」
はぁ…
止められなかっただけいいのだろうか?
「師匠、能力者って知っていますか?」
「知ってる。今この現実世界にまれだが観測されているらしいな。あたしは違うぞ。」
知っているのか
相変わらずだな
この人の情報もうはどうなっているのだろう
「僕は、そうです。僕たちは、能力者を道具とさせないために活動してます。あと能力者自身がおごり高ぶらないようにね。能力者も人間です。ちょっと変わった体質であり才能でしかないんです。」
じっと師匠がこっちを見る
何かを見出そうとするかのようだ
「それは、お前の言葉であって、お前の言葉じゃないな。久遠の受け入りだな。はぁ、そうか。そういうことならつじつまが合うのか。あたしは、まぁ邪魔はしないよ。危険だと判断した拉致からづくでやめさせるつもりだ。あたしにもできることがあったらいえ。」
師匠は、頭をかきながらため息をつく
まるで、仕方がないというように。
正直、師匠が何を考えているのか羽矢にはわからない
まぁ、止められなかっただけいいとしよう
「わかりました。僕もみんなにけがしてほしくありませんから。無茶はしないつもりですよ。」
これは本心だ
お遊びじゃなく本気でやっているつもりだ
僕は、頭がまわる方じゃない
それでも、組織のリーダー的な存在としてみんなにけがをしてほしくないのだ
結局、愛弟子の行動を止めることはできないようだ
そして、あたしはレイムを止めることもできない
仕方がない、レイムの言う来たるべき日のためにあたしも計画に参加するしかない
すべてが、久遠の掌の上のようだ
何を考えているのか今まではよくわかった
考えていることがすぐに顔に出るタイプだったからだ
でも、誘拐されて帰ってきた久遠は変わってしまった
相変わらず表情がコロコロ変わるけど、本心が別のところにある気がしてならなかった
近くにいたのに、あたしはまたレイムにとって大事な人間が死ぬのを阻止できなかった。
そんなそぶりがどこにもなかった。
あったのかもしれないけど、あたしは気がつけなかった
羽矢やほかの人の前では気丈にしている零無が、悠の前でだけ見せる弱さ
自分の無力さに泣いていた
レイムまで死んでしまいそうで怖かった
だから、あたしはレイムから一時も離れないようにした
離れてしまったら、娘を失ったショックで…
そんな、レイムと羽矢のもとに届いた手紙
消印は久遠が生きていたころのもの
その手紙に何が書かれていたのか結局二人は教えてくれなかった
それでも、その内容がレイムに又生きる希望を与えている
羽矢もきっとそうなのだろう。
たった一人の少女にかき乱されている日常。
自分もまた例外ではない。
それほどまでに、久遠の存在は自分たちの中で大きいものであったのだろう
レイムの計画――――能力者がらみのものだ。
羽矢と話してあたしの中で何かが決まった
だから、あたしはこれが彼女の死によって踊らされているものだとしても、彼女の計画の内だとしてもかまわない。
あたしは、できることをしよう
あたしもこれでファンタジアの一員
これで、これからやる計画の結果もまたファンタジアのものになるはず
―――――――あぁ、あたしたちの日常は、トリックスターによって変えられてしまった




