Propulsepour réveiller ~覚醒する力~ -1ー
真夜中
黒崎家のリビングの明かりはついていた
そこにはレイムとハルカがいた
「レイム。お前自分お体はいいのか」
「あはは。私なんかよりも久遠が心配よ」
ハルカの心配に、レイムは困ったような笑いを浮かべて答える
「確かに久遠も心配だ。何も話やしねぇ。あたしそんなに信用ならない人間かっ?」
怒りに満ちたハルカの声
しかし二階の寝室で寝ている久遠を起こさないようにその声は抑えられている
悠の怒りは自分自身に向けられた怒り
「私にも話さないのよ。でもね、いまあの子に必要なのは休息。それと、日常」
「そうかっ。まぁ、何かあれば言ってくれるだろう。」
「抱え込んでしまわないといいの。私、ちゃんと母親できてるのかしら」
零無は、はぁとため息を漏らす
「私がこんなんじゃダメよね。」
「・・・。」
「安心して、羽矢君もいるし、あの子たち三人なら平気な気がする。」
「まぁ、あたしの弟子だからな」
もしあの男弟子二人がかわいい可愛い久遠に手を上げたら半殺し…いや三分の二殺しにしてやる
「安心して。無理はしていない。」
「そうか。ならいい。」
前髪でその表情は見えない
「ハルカ。私これからあの子に何もしてあげられないみたい。あの子が必要としていないから。わたしはだから、いつでも帰ってこれるあの子の居場所になれるように長生きするわ」
その言葉に眉を悠はひそめる
ときどき、レイムは意味がありそうでないあやふやの言葉を言う
そしてその言葉は後になると理解できるのだ
この時のことを言っていたのではないかとはっとさせられるのだ
そして今回もきっとその類の言葉
「《聴いた》のか」
事情の知らない第三者が今の二人の会話を聞いて理解できるものは少ないだろう
「えぇ。」
肯定の言葉
レイムの目から透明なしずくが流れる
「泣けるときになけ。お前はいつもそうやって抱え込む。」
レイムにハルカは胸を貸してやる
小さな嗚咽を漏らしながら、愛しき親友は言う
「ハルカ。わたし…無力だっ」
「そうか?十分強い。」
ひっく
幼い子供の用に泣きじゃくる零無
「戦闘能力の話じゃないわよっ。私は、知っていても手が出せない。どうしてなのっ。手を差し伸べてあげたいのに…。」
やりたいのならそうすればいい
そういってやりたいが、そうできない事情があるのだろう
久遠が誘拐されたと知った時、妙に落ち着いていると思ったけどこれだったのか
かえってくることをレイムは知っていた
そして、傷を負いもどってくることも…
これから、愛しい娘がきずつくことも知っていて・・・・手が出せない
悠には理解できない
しかし長年いてわかることもある
しっていても手が出せない
手を出そうとすればどうなるのか、知っていた
「私、久遠にきえてほしくないのよお。」
彼女が知って動いたらそのことで利益を得るはずのものが消される
「こんな力いらないっ。いらないの。ほしくない。」
泣きじゃくるレイムの姿
彼女は彼女が愛したものをそうしてけしてしまったのだ
「お前の娘だろう。信じろ。お前の娘は強い」
お前が愛情を込めて育てたんだろう
お前の持てる知識すべてをあの子に上げようと頑張っていたのだろう
しっている
「お前は立派な母親だっ。たとえ誰が、否定しても私だけは絶対にしないっ、約束する」
それは、悠の決意
あの事件からずっと、悠はレイムを守ると決めていた
夜だが、はるかには仕事があった
「いってくる。またすぐもどる。」
「いってらっしゃい」
泣きはらした目を押さえながらもいつもの笑みでレイムはハルカをおくった・・・
これはなんだ
羽矢は戸惑っていた
今自分が起こした不可思議な現象
青い太陽が現れてから数週間たったある昼下がりのことだった
「なっ」
「静電気くらいでビビってるんじゃないわよ 。 オニイサン。」
久遠が、強気に男たちの前に出る
羽矢は、久遠の声で我に返った
「てめぇ、なめた口ききやがったな」
「えぇ、私たちの師匠はね。やられたら3倍返し。やられる前に潰しとけってね」
久遠がしゃべってる間に、男は殴りかかろうとする
羽矢はとっさに久遠に迫りくる男の間に入る
相手の拳を受けながしに男の腹には、パンチをお見舞いする
次に襲ってきた男には、蹴りをお見舞いする
「ごふっ」
羽矢が次々と男たちを攻撃している最中
久遠は、羽矢に背後からちがづく男のあそこに思いっきりけりを入れる
「っつ」
転げまわる男に目もくれない
「羽矢、こんな奴らほっといて先にいきましょう。せっかくのお花が台無しになる前に」
零無さんの病室に花を届けに行く途中だったのだ
あれから、零無さんを師匠が無理やり入院させたらしい
心配で仕事に集中できない だから、あとは自分に任せておとなしくしていなさい
有無を言わせない師匠の様子が目に浮かぶ
久遠のことが心配でたまらず入院するのを先延ばしにしてもらっていたらしい
だが、師匠がお前が倒れたら久遠が一人になる
そう最終的には、言い含めたらしい
そもそも、久遠と零無さんが喧嘩さえしなければこんなことにならなかったのだ
おとなしく従った?零無さんはその代りできるだけ娘の顔を見たいこと
久遠に日常生活を師匠がアシスタントすること等言いつけたらしい
師匠はそれらを飲んだ
「今の見た?」
「見たっていうより感じたかな」
曖昧な言葉でも、久遠にはちゃんと伝わったようだ
「なんだと思う。」
「大きな静電気じゃないわね。」
さっきの男たちにはごまかしたということか
とっさの機転を利かせたのか
男たちが、不審に思わないうちに挑発して頭に血を上らせたのか
それとも単に、嫌いな奴で殴りたかったから、挑発して正当防衛にしたのか
「羽矢。こっちきて」
えっ
羽矢は、路地裏に久遠に引き込まれた
思いもよらなかったことと、久遠が路地裏に羽矢を引き込む力が羽矢の想像以上に強かった
いったい何?
羽矢の頭が回るよりも先に久遠が鋭いけりをいれてきた
避けきれずもろにくらう
うっ
けられた部分を押さえてよろめく
その隙を見逃すはずもない久遠が、次の攻撃を振るう
「ちょっ。それは、まずいっ」
久遠は、ポケットの中にあった改造スタンガンを羽矢の前でバチバチとみせる
とっさに羽矢は体をひねることでその危ない―――もしかしたら人が死ぬかもしれない攻撃からさける
「なんでそんな危ないものもってるの!!」
「悠さんが渡してくれたのよ」
師匠何危険でもしかすると違法なものを久遠に持たせているんですか
今ここにはいない師匠を恨む
それにしても久遠、急に何をするんだよ
わけわからない
いったいどうしちゃったんだよ
考えに沈みかけた羽矢に、久遠が肘のバネと手首の返しで素早く相手を打って襲う
「っはぁ」
こっちが手を上げられないのを知っているのか容赦なく攻撃してきた
師匠に、久遠に手を上げたらマジで殺される
抵抗しようにも、反撃するにしても久遠の動きが思ったより早い
いつの間にこんなに強くなったんだ?
馬乗りになる形で羽矢の動きを完全に封じる久遠
久遠はさっきのスタンガンを掲げてみせた
「羽矢。これまともに喰らったら死ぬわよ」
バチバチ
「なんでっ」
にこっ
可愛く笑う久遠
しかしその笑顔とは裏腹にその攻撃は――――まずいって
おおきく振りかぶって久遠が遠慮もためらいもなしにそれを羽矢に浴びせようとしたまさにその瞬間
それは起きた
―――――バチン
空気が破裂するような音が鳴った




