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夜空に輝く星に恋をした  作者: どるとけい
ダークブロンドの転校生

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2/2

#2 奈々ってやっぱり面白い子だね

 一時間目の授業は、英語だった。


 黒板には、昨日までと変わらない英文が並んでいる。先生が教科書を片手に、いつもの調子で授業を進めていた。


「じゃあここを・・・転校早々悪いけど、星さん。読んでください」

「はい」


 座ったまま背筋を伸ばした彼女は、教科書に視線を落とし、英文を読み始めた。


 すらすらと淀みなく、流暢に読んでいく彼女は、まるで誰かと会話しているかのように聞こえる。

 読み終えた彼女が顔を上げると、教室のあちこちから小さな歓声が上がった。


 だけど、帰国子女だからといって、日本の学校の授業まで完璧にこなせるわけではないらしい。

 先生が黒板に英文を書き、文法の説明を始めると、彼女の手が止まった。ノートに何か書き込もうとしては、教科書と黒板を見比べる、問題文を読み返し、眉間にほんの少しだけしわを寄せる。


 どうやら、英語そのものは理解できても、日本の学校で習う文法の細かなルールや、独特な形式の問題に離れていないようだった。

 長文問題に至っては、問題文の日本語を読み解くところから苦戦している様子だった。





 そして、一時間目が終わると、予想通り、私の席の周りはクラスメイトでいっぱいになった。ただでさえ窓際の一番後ろという位置なのに、これでは身動きが取れない。


「星さんって、いつからアメリカに行ってたの?」

「璃月《りつ》ちゃんって呼んでもいい?」

「向こうの学校って、やっぱり日本と全然違うの?」


 次から次へと飛んでくる質問に、星さんは一つ一つ丁寧に答えていた。


「小さい頃からアメリカにいました。だからこっちの学校のことはまだよくわからなくて」

「もちろん。好きなように呼んでください」

「アメリカの学校は制服というものがなかったです。日本の学校に来て、まずそこに驚きました。でも制服かわいいから好きです」


 そう言うと、まだ着慣れていないセーラー服のリボンを摘んでひらひらさせていた。


 相手の目を見て、面倒くさそうな顔をすることなく、柔らかく微笑みながら。それだけで、誠実な人なのだということが伝わってくる。


 そして案の定、誰かが言い出した。


「ねえねえ。もっと英語喋ってみてよ」

「・・・・・・」


 ああ、やっぱり。来ると思った。

 すると彼女は、なんでもないことのように英語を話し始めた。


“ Okay. You're such idiots for asking me to speak English when you don't even understand a single word I'm saying. “


 流暢な英語が、教室に響いた。途中で詰まることも、言葉を探すような間もなく、あまりに自然な英語だった。

 まるで今の状況を楽しんでいるかのように。


 最後まで話し終えると、星さんはにこりと微笑んだ。


 それを合図したかのように、クラスメイトたちが一斉に沸き立つ。

 教室がちょっとしたお祭り騒ぎになった。みんな星さんが何を言っていたかなんて気にしていない。ただ、英語が流暢だということだけで満足らしい。


 星さんは、そんなクラスメイト達に向かって、純粋無垢な笑顔を振りまいていた。


「・・・・・・」


 でも、私は知っている。彼女が英語で何を話したのか。


『私が言っていることを一言も理解してないくせに、英語で話してなんて頼んでくるなんて、あんたたち本当にバカだね』


 もっと簡単にいうと。


『英語を話せというくせに、理解できないバカども』


 ということだ。


「ぷっ」

 

 誰も理解できないと思ってめちゃくちゃ皮肉を言った彼女に、とうとう耐え切れずに吹き出してしまった。最初の好印象と違って、星さんは結構冷めているらしい。

 幸い、周りのクラスメイトたちは盛り上がっていて、私の小さな笑い声には気づいていなかったが、星さんだけは私が笑ったことに気が付いていた。






 学校が終わり、帰り支度を進めていると。


「奈々」


 隣の星さんに話しかけられた。


「さっき、私がなんて言ったかわかったの?」


 さっき、というのはあの皮肉のことだろうか。思い出しただけでも口がにやけてしまう。


「ああ、 ” You're such―― .”ってやつのこと?」


 まさか私が全文を口にするとは思わなかったのか、星さんは目を丸くした。


「私、去年、三カ月間アメリカに留学してたから、他の子より英語に自信があるんだ」

「そうなんだ 」

「いやー、でもあれは面白かった。みんな、星さんが何言ってるのかわかってないのに、あんなに盛り上がっちゃってさ」


 そう言いながら、私はまた笑ってしまった。あー、私って性格悪いなあ。

 すると星さんは、なぜか少しだけ目を細めた。


「奈々ってやっぱり面白い子だね」

「え?」

「ううん。何でもない」


 星さんは鞄に荷物を入れながら続けた。


「私のこと、璃月って呼んでよ。私もう奈々って呼んでるから」

「あ、うん。璃月。これからよろしくね!」

「うん、よろしく。奈々」


 璃月はほんの少しうれしそうに笑った。

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