第十八話「変革への序曲」4
外部からの訪問者であれば、如何なる事情があっても、武器の持ち込みは許されない。普段から拳銃を携帯しているアントニオは馬車から降りる前にカナリアへ拳銃を預けている。リムルもナイフを懐に隠し持ってはいない。
謁見の用事があることを伝えるアントニオに対して、二人の門番はすぐさま手荷物検査を行った。厳重な警備体制を印象付ける光景。あらかじめ武装を解除にして臨んできた二人は何事もなく通され、城門を潜った。
「……見るからに警戒してる、当然のことだけど」
「仮面舞踏会が開かれるわけではない。王宮からすれば適切な対応だろう」
仮面を外せない事情を抱えるアントニオにとって、警戒されることには慣れている。小柄なリムルと大柄なアントニオ。親子のように体格差のある二人は王宮内へと足を踏み入れる。
エントランスホールに入場して早々、ファイブスターナイツのプリシラとエリーに出迎えられた。王宮で暮らしている都合上、頼りある二人に白羽の矢が立ったことは当然の成り行きだった。
「ここからは私達が謁見の間まで案内致します。よろしいですね?」
上品な佇まいで出迎え、丁寧な口調で話しかけるプリシラ。ファイブスターナイツの二人は左右に分かれ、リムルとアントニオに隣接した。
「よろしくお願いします。それにしても、純真可憐な戦乙女のファイブスターナイツが二人も付き添ってくださるとは、光栄です」
甘い香りを漂わせる二人の芳香に仮面の内側で不敵な笑みを浮かべるアントニオ。ファイブスターナイツの実力を知るリムルは友好的な態度に取られると、それに反発して警戒心を強めた。
「事情がおありなのだと思いますが、仮面を付けたまま建物の中にまで入って来るなんて。只でさえミステリアスな身なりをしてるんですから、怪しい行動は慎んでくださいね」
「心得ています。背中から刺されないよう、肝に銘じておきますよ」
エリーの言葉にも態度を変えず、堂々した立ち振る舞いでこの場を凌ごうとするアントニオ。リムルは二人とは初対面だが、アントニオは違う。
幼い頃、まだ小さかった頃の二人を知るアントニオは幼き日の面影を感じ、立派な淑女へと成長したことに感慨深い感触を覚えた。
聞きたいこと、確かめたいことが互いにあっても、感情を押し込め、二人の後をついていく。静観を貫き、やがて二階奥にある謁見の間に続く、扉の前までやってきた。
「女王様がお待ちです。どうぞ、お入りください」
案内を務めたプリシラの言葉に頷き、背筋を伸ばして開かれた扉の先へと歩み出すアントニオ。ただならぬ緊張感が場を覆い尽くす中、一歩ずつ足を踏み出していく。
この王宮から追放されてからあまりに長い時が流れてた。成長を果たした実の息子であるエリサの姿やクオンの姿からそれを十分に自覚はしている。
それでも、かつて愛し合った関係にあるマリアンナと再会することは奇跡に等しい、特別なものだった。
(大きな背中……。あれが、自警団組織、ルミナスリバティーのリーダー。お姉様、これが威厳ある、理想主義者の佇まいなのですか)
(大願を持ち合わせた、精悍な風格をしていますね。仮面の裏に隠された、イケオジな姿をいつか、この目に出来ればいいですけど。でも、今は女王様の眼前です。見惚れている場合ではありませんよ、エリー)
(妄想は薄い本の中だけ……。勿論、心得ていますよ、お姉様。どちらかと言うと、イケオジが好みなのはお姉様の方ですけど)
(野次馬じゃないんですから。余計なことを言っていないで、集中なさい……! マリアンナ様の御前ですよ……!)
ファイブスターナイツとしての面目を保つため、興奮を隠しつつ、アーサー・フランケンと初めて対面した感想をひそひそと確かめ合う二人。
理想とする社会を叶えるため、多くの人の期待を背負って立つアーサー・フランケン。その大きな背中に強い男の印象を重ねるプリシラとエリー。
資料や物語の世界を中心にして、男性という存在を知ってきた二人にとって、エリサやクオンとも違う、逞しい肉体を持った男性の姿はあまりに新鮮なものだった。
(周りは敵だらけなんだから、しっかり頼むよ、アントニオ)
余計な口出しはせず、後ろを守ってくれさえすればいいとアントニオから言われて護衛を任されてきたリムルは殺気を隠すのに必死だった。
外見が幼いことから、敵対心を露わにすれば余計に子どもっぽく見えてしまう。だからこそ、慇懃な物腰で振舞うことを学んできたが、それでもこの場の空気はアウェイが過ぎる。贅沢な暮らしなど経験したこともなく、高級感漂う王宮の空気は肌に合わないことからも、感情を抑えるのがやっとのことだった。
玉座に座る、真っ白な肌にエリサと同じ、白髪をしたマリアンナの表情を伺える位置まで前進を続けたアントニオは、ディオーナな制止を促す言葉を受け、その場に跪いた。
「マリアンナ様、アーサー・フランケン殿とその付き添い、リムル・サム・クリエッタさんをお連れしました」
美しい癒しの声色に乗せて、プリシラは任務を果たしてきたことを女王に告げた。リムルを護衛と判断せず、付き添いと紹介したのはプリシラの判断。繁華街では恐れられるほどの非情な態度で犯罪者と接しているとはいえ、この場でそこまでの事情を知る者はいない。成人を迎える前の、少女の装いに相応しい紹介をプリシラは選択した。
「プリシラもエリーもご苦労様です。二人ならば退席する必要はありません。扉の前で待機していなさい」
「はい、ご配慮感謝いたします」
マリアンナの言葉に深々とお辞儀をして、この謁見を見届けられる感謝を賜りながら、扉の前まで下がるエリーとプリシラ。
マリアンナの視線がアントニオに向き直る。長く果たされることのなかった謁見の機会。シカリア王国の行く末を左右さする可能性を秘めた、重大な会談がついに幕を開けた。




