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ジェンダーフリースクリプト~始まりの物語~  作者: shiori@


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第二十一話「トライクレッシェンド」1

 作戦前夜。

 発火された打ち上げ花火が夜のキャンバスをキラキラした虹色の空に染め上げる。

 メンバーを決起させる前夜祭に相応しい色鮮やかな祝砲。集まったメンバーの表情は一段と明るくなり、変わりゆく時代の変革を夢見て空を見上げた。


 その後、エリサはポール達の輪の中へと入り、賑やかに初めての線香花火を楽しんでいた。

 短くも儚い命が消えてゆく姿を見守るように、クオンもまた綺麗な線香花火を同じように楽しんでいたが、仮面を付けたアントニオに肩を叩かれた。


「二人きりで話したいことがある」

 唐突にそう話しかけてきたアントニオの言葉に頷き、緑色の瞳を輝かせクオンは立ち上がった。

「少しお傍を離れます。まだ時間はありますので、王子はこのまま皆様と一緒に花火を楽しんでください」

「父様と? うん、分かった」


 王宮に帰る時間が迫る貴重な夜の祭り。エリサもクオンも非日常な夜会を体験しているお陰で眠気はなく、新鮮な高揚感が続いている。

 名残惜しく花火を手放すと、クオンはアントニオの後をついて行き、時折、波飛沫が上がる海岸線を胸を躍らせながらゆっくりと歩いていく。


 ルミナスリバティーの象徴であるアントニオの大きな背中が頼りある姿に映る。足場の悪い砂の地面を歩き、人の輪から離れたところでアントニオは足を止めた。周りの人には聞かれたくない話がこれから始まるのだろうと、クオンは察して構えた。


 冬の空に星々が煌めく。息を呑むほどに美しい空の下、仮面で顔を隠したアントニオの横に立つクオンは緊張した面持ちで次の言葉を待った。


(エリサ王子だけでなく、わざわざ私のことまで招待したことには理由がある。そういうことなのですか、アントニオ様)


 伝書鳩を通じてではなく、直接頼みたいことがある。クオンはこの状況を頭の中で整理した結果、明日の作戦に関係する話をしたいのだと推測した。


「あまりあいつには心配させたくない。だから、クオンには明日の作戦の詳細を伝達しておこうと思ってな。聞いてくれるか?」


 身体に染み行くような低音で放たれたアントニオの言葉にクオンはすぐに頷いた。


「明日、日没と同時に作戦が開始される。

 キャンベルは森林地帯にある基地を拠点に大規模な作戦を展開。ファイブスターナイツを誘き寄せて、これを標的として討伐するため指揮を執る予定だ」


「今回はファイブスターナイツを標的にした作戦を遂行するということですか?」


 今までの作戦の傾向と異なる作戦対象にクオンは驚き、その狙いを確かめようと聞いた。長い付き合いであるアントニオはクオンの言葉に理解を示し、さらに言葉を続けた。


「あぁ、そうだ。王宮に侵攻するにしても、基地を防衛するにしても、今後も彼女達は厄介な相手になるとキャンベルは考えている。

 俺はキャンベルの作戦をサポートするためにも、王宮管理地区内にあるシカリア王立総合医学研究所への潜入作戦を決行する予定だ」


 頭領であるアントニオと参謀役のキャンベルの二人が検討した末に出された作戦。同じような手を打っても女王率いる王宮に打撃を与えることは出来ない。そのため、親衛隊であるファイブスターナイツを標的に加えることに決めた。

 クオンは予想外の作戦目標ではあったが、そう解釈をして効果的な作戦であると受け止めた。


「王宮近くの研究施設を狙うとなると簡単な作戦ではないと思いますが、敵の戦力を分散させるための二面作戦ということですか」


「その通りだ、理解が早くて助かる。協力者が増え、戦力が整った今なら二面作戦も難しくない。あの研究施設に打撃を与えられれば相当な譲歩が引き出せる条件が整うだろう。

 キャンベルからはファイブスターナイツを集結させないように、特にディオーナ・シュトレアーナを森に近づけないようにと指令されている。彼女が合流すればキャンベルの作戦成功は困難なものとなるだろう」


 ディオーナを脅威として捉えるアントニオの言葉。本気で王宮への侵攻を視野に入れている。そう感じたクオンの頭の中で、王宮内で一緒に暮らしているプリシラとエリーの顔が浮かんだ。


「ファイブスターナイツを標的しているのであれば、王宮で暮らす私が手にかけることも出来ます。特にあの二人でしたら」


 目の色を変え、狩人のように冷酷な眼差しで暗殺の提案を行うクオン。

 ファイブスターナイツに恨みや憎しみがあるわけではない。

 クオンに対しても優しく接してくれている相手に他ならない。

 しかし、非情な行動に徹し、自分にしか出来ない功績があるのなら果たしたいという熱意がクオンにはあった。


「その必要はない。王宮から情報を流してくれているクオンはとても貴重な存在だ。むざむざ自分から危険を晒すようなことはしなくていい。

 それよりも、俺がポール達を連れて作戦行動を執っている間、ディオーナを森にも研究施設にも近づけないでもらいたい。

 キャンベルの作戦を成功に導くためにも、頼めるか?」


 感情に身を任せ、激務を果たそうとするクオンに対して冷静になるよう言葉を送るアントニオ。それでも、クオンは真剣な表情を崩すことはなかった。

 

「はい、それがアントニオ様の命であるならば謹んで引き受けましょう。

 作戦の成功を願っています」


 ケインズやチャックといった国の中枢に位置する研究者が管理するシカリア王立総合医学研究所を襲うのは容易なことではない。

 王宮と距離も近いことから、非常に重要度の高い作戦になることはクオンの立場でもよく分かった。


(……ファイブスターナイツが標的であるならば、エリサ王子にとって辛い話であることは間違いない。アントニオ様の想いを受け止めて、この会話は私の胸に留めておいた方が良いですね)


 ファイブスターナイツに対してエリサは親しみを抱き、大切に考えている。

 その彼女達に死が迫っていると知れば正気ではいられないだろう。

 そう考えたクオンは作戦の詳細を心を鎮めながら受け止めた。

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