第9話『騎士の誓い──カナ、命を懸けて守りたいもの』
今回は寡黙な武闘派ヒロイン・カナの回です。
「守るために生まれた」と言い切る彼女の言葉の奥には、
守るだけでは満たされない“想い”が隠れていました。
初めて「共に生きたい」と願ったカナの、静かで熱い決意にご注目ください。
ドォン──!
屋敷の裏山。訓練場のような広場に、鈍い音が響いた。
翔矢は、目を疑った。
一振りの剣で、大岩を真っ二つにしたのは──
銀色の編み込み髪、鎧姿の少女──カナだった。
「……日課だ」
そう言って、汗ひとつかかず剣を収める彼女の動きは、まるで儀式のように整っていた。
「よく毎日そんなに鍛えてるよな。戦う相手なんて、いないのに」
「……いる。“もしもの敵”は、いつだって心の中にいる」
「心の……?」
「あなたが揺らぐとき、迷うとき、その隙をついて誰かが消える。
私はそれが、何より怖い」
その目はまっすぐで、けれどほんの少しだけ、迷いがにじんでいた。
その晩。屋敷の外壁が、不気味な黒霧に覆われた。
ネガあかりの干渉だった。
「感情の揺れが、世界を壊す」
その言葉と共に、突如屋敷が揺れる。
「翔矢くん、危ない!」
叫ぶ声の先に、黒い影が迫る。
翔矢を庇ったのは、カナだった。
ザシュッ!
剣を抜き、黒い影を斬り裂いたその瞬間、カナの腕に、赤い傷が走った。
「っ……!」
「カナっ! おい、しっかり──!」
「……大丈夫。……あなたを、守ると決めたから」
その声は、震えてなどいなかった。
「私の誓いは、あなたを守ること。
でも……それだけじゃない。
あなたと、生きたいと、思ってしまった」
それは、カナが初めて口にした“自分の気持ち”。
翔矢の胸が、ぎゅっと締め付けられる。
「バカ野郎……そんなの、命懸けで言うことじゃねえだろ……」
「ふふ……これが、“恋”というやつか」
笑った彼女の瞳は、誇らしく、温かかった。
その夜、星がきれいだった。
まるで、彼女の決意を祝福するように
最後まで読んでくださってありがとうございました!
カナの不器用な告白は、彼女なりの「命を懸けた愛」だったと思います。
剣じゃなく、言葉で想いを伝えたその姿に、翔矢が何を感じたのか。
きっと読んだみなさんの心にも残ったはずです。
次回は、最年長・お姉さん系ヒロインのセラ回。
包み込む笑顔の裏にある孤独と本音に触れていきます。