第10話『抱きしめた嘘──セラが隠した本当の顔』
今回は、いつも包み込むように微笑んでいたお姉さん系ヒロイン・セラの回です。
誰よりも他人を見て、支えてきた彼女。
でもその優しさの裏には、「自分はどうしてほしかったのか」という“答えのない寂しさ”がありました。
翔矢との対話の中で、彼女が初めて見せる涙にご注目ください。
翔矢が夜の廊下を歩いていると、甘く香る紅茶の匂いがした。
「あら、翔矢くん。眠れないの?」
声をかけてきたのは、いつもどおり微笑むセラ。
レースのナイトガウンを纏った彼女が、テーブルに二つのカップを置いていた。
「ほら、どうぞ。眠れるお茶よ」
「……ありがとな」
湯気の向こうで、セラは相変わらず穏やかな表情をしていた。
だけど──その瞳は、どこか遠くを見つめていた。
「セラさ。いつも誰かの世話焼いて、気づかって……でも、自分のことは話さないよな」
「ふふ……気づいてたのね」
「そりゃな。全員見てるから」
しばらく、夜の虫の音だけが響いた。
「……私ね、本当は誰よりも不安だったの。
優しくしていれば、必要としてもらえるって思ってた。
“選ばれたい”というより、“いなきゃいけない”って、思ってたの」
セラの手が、ほんのわずか震えていた。
翔矢は、彼女のカップをそっと受け取って、両手で包んだ。
「セラは、そこにいるだけで安心するんだよ。
誰かを癒すって、簡単なことじゃない。
……だから、ありがとう」
その言葉に、セラは小さく目を見開いた。
「……ダメね、私。年上なのに、泣いちゃう」
セラの目から、透明な涙がこぼれ落ちた。
「でもね、翔矢くん。
やっぱり……私も、選ばれたかった。
誰かにとって、“最後のひとり”でいたかったのよ……」
翔矢はそっと、彼女の肩を抱いた。
「そう思えるセラも、俺は好きだよ。ちゃんと、“本当のセラ”も知れてよかった」
抱きしめ返すその腕は、いつもの包容力とは違う、確かなぬくもりを持っていた。
──その夜。
感情AIは静かにデータを収集していた。
“全てのクローンが、自我と愛を獲得した”
その先に待っているのは、「選択の儀式」。
翔矢が選ぶ、たった一人。
──または、誰も選ばないという選択。
物語は、ついに動き始める。
読んでくださってありがとうございます。
“選ばれなくてもいい”と言いながら、心のどこかで「最後のひとりでいたかった」と願っていたセラ。
優しさが仮面になっていたことに、本人が気づけたことが一番の救いだったと思います。
次回から、いよいよ“選択の儀式”が動き出します。
翔矢が「選ばない」ことを貫いた先に、どんな結末が待っているのか──ぜひ最後まで見届けてください。




