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第8話 決意

 セド王子が外に出て数日後。練習終わりに、レイア達はカフェを訪れた。

 王子の容態は回復していき。人の多いところにも、耐えられるようになった。

 レイアが知らないところで、努力していたのだろう。


「いらっしゃ、レイアさん。今日は懐かしいお方をお連れの様で」


 マスターは振り返らずに、レイアの存在を当てた。

 彼のリズムを読み取る力は、相当のものだ。


「お久しぶりですね。セド王子」

「マスター……。お久しぶりだな……」


 ビャッコはカップを置いて、振り返った。

 心を閉ざす前、王子はカフェの常連だった。

 王族としての悩みをいつも、マスターに聞いてもらっていたようだ。


「御二人に客人が来ていますよ。あまり良くない客ですがね」


 ビャッコが表情を強張らせて、ある席を指す。

 その席には、半月以上前に見た顔が座っている。

 大きなケーキを食べながら、キャラメルマキアートを嗜んでいた。


「よお! お前さんにしては、良い趣味のみせじゃないか!」


 席に座っていた男性は、手を上げてアピールした。


「ドア……! 貴様、何のつもりだ?」


 今にも切りかかりそうな態度で、セド王子が問い詰める。

 ドアはナプキンでクリームを拭きながら、笑った。

 前は爽やかなイメージだったが。現在はチンピラ的なイメージを抱く。


「何のつもりだだって? そりゃこっちのセリフよ」


 ドアはカップの中身を、一気に飲み干した。


「お前が継承権を放棄したから、代わりになってやろうとしたのに。なんでレースに出やがるんだ?」


 セド王子はレース出場に登録している。

 既に周囲に発表済みだ。自分の責任を執るため。

 彼はレースで継承権を取り戻そうとしていた。


「元はお前が、母を殺してのが原因だろ?」

「ああ。そんなこともあったな。だが俺はお前より高い住民税払っているぜ!」


 レイアはドアの発言に、ポカーンっと口を開いた。


「……。王族ですよね?」

「おう! こう見えて俺様は、国王の甥子っちゃんなんだぜ!」

「なんで税金払っているの?」


 レイアのツッコミに、ドアは目を丸くした。


「家の爺やが、払えって……」

「それ、騙されてますよ」

「なんだと!? 俺様の十二年は一体!?」


 ドアは本気で悔しがり、机を叩いた。


「レイア。コイツは頭がちょっと残念なんだ」


 セド王子がレイアに耳打ちした。

 以前王子はドアを小物と表現していたが。

 確かに彼が、王子暗殺など出来る器でない事が分かった。


「まあ良いさ。俺様が王になったら、あんな奴極刑してやる」


 ドアは直ぐに気を取り直した。

 レイア達は呆れて、言葉も出ない。


「何故そこまで、王位に拘る?」

「それを望む人々が居るからだ! 俺様は望まれた、スーパースターなんだよ!」

「いい加減気づけ。それはお前を傀儡にするためだ」


 ドアは半分ほど残ったケーキを、一口で平らげた。


「そんなことは分かっているよ! 俺様の目的は王位じゃないからな!」

「なに?」


 ドアは手を突き出して、邪悪な笑みをレイア達に見せる。


「そいつらの力を根こそぎ奪って。悪の組織を築き上げてやる!」

「なに言ってんの? お前……」


 セド王子は呆れを通り越して、引いていた。


「俺様はこの国から貴族性と王政を廃止する! そうすれば、国は大混乱よ!」


 貴族や王族が統治を失えば。

 それによって築かれた秩序が一気に崩壊する。

 兵士達も誰に忠誠を誓って良いか、分からなくなるだろう。


「そしたら悪い事し放題! 力が全てを支配する、悪の国になるってものよ!」

「くだらない。そんなものは機能しないし。何より真っ先に狙われるのはお前だろう?」

「だから力が居るんだよ。俺様に寄って集ってきた奴らのな!」


 レイアには理解しがたい価値観だ。

 彼はまるで子供のまま、大人の力を得たようだった。

 悪戯をしても怒られないために、悪の帝国を作る。


 そんなふざけた理由で、暗殺の許可したのだ。

 セド王子は勿論。レイアも怒りが沸き上がって来る。


「まあ、何にせよ。優勝するのはこの俺様だ」


 ドアはお札を出して、カウンターに置く。

 店の出口に向かい、レイア達に背を向けた。


「こっちには切り札があるんでな。初心者には負けねえよ」

「お会計が足りませんよ?」


 ドアは無言でもう一枚お札を出した。

 お釣りをしっかりもらい、レイア達に振り返る。


「怪我したくなければ、大人しく隠居しておくんだな!」


 高笑いをしながら、ドアはカフェから出た。

 レーサーだった彼とは、まるで別人だ。

 演技力だけなら、高いらしい。


 ――エンターテーナーとしては、本物ね……。

 レイアは呆れ混じりに彼を評価した。


「ドアは昔から、我がままを通す奴だ」


 一方のセド王子は、危機感を抱いている。

 ドアと言う人間を、それほど知っているのだろう。


「目的を達するためなら、不屈の闘志でどんな手でも使ってくる」

「あんなふざけたものでも?」


 セド王子は頷く。ドアの恐ろしさを、表情で語っていた。

 もしドアが王になったら。一件無茶苦茶に見える政治をやりかねない。

 それを成し遂げるだけの執念が、彼にはあるのだ。


「俺は正直。この国がどうなろうと、どうでも良いと思っていた」


 セド王子は両手を見つめた。

 彼は暗殺されかけた恐怖から、継承権を放棄したのだ。

 

「でも、俺は少しずつ分かってきたよ。自分に何が出来るのか」


 王子は真っすぐと、レイアの瞳を見つめた。

 目の奥には、輝きが再び灯されている。


「俺は、今自分に出来る事を精一杯やりたい! あんな奴に国を渡せない!」


 王子の強い意志を、レイアは感じ取った。


「俺はもう、自分の責務から逃げない。だから絶対にレースに勝ちたい!」

「はい! 絶対に勝ちましょう!」


 レイア達は拳をぶつけ合って、お互いの気持ちを助け合った。

 ようやく王子が、責任を自覚した。

 自分を許さない事が罪ではない。責務を果たすことこそ、死者のためなのだ。


「水を差す様で、悪いのですが。今のままで、本当に勝てますでしょうか?」


 マスターがコーヒーを出しながら、呟いた。


「どういう意味ですか?」

「レイアさん達は、個々のレーサーとして修行していますでしょ?」



 レイアは王子に自分と同じ技を身につけさせていた。

 少しでも王子が、レーサーとして実力をつける様にと。


「ですが今度のレースは、チームレースです。個人種目とは微妙な違いがあります」

「チームレース……。あ!」


 レイアはマスターが真意が理解できた。

 普通のレースは個人種目だ。そのため技術も一人で走るようだ。

 だが次のレースは王子とチームを組んで出場する。


 戦術も今までと変わって来るだろう。

 例えば誰か一人が妨害に徹して。誰かが戦闘を走れば良いのだ。


「レイアさんは、歩調を合わせるのが得意です。相手に合わせてもらう必要はないのでは?」

「そうか……。ありがとう、マスター!」


 レイア達の会話を、経験の浅い王子は理解できていないようだ。


「王子。次は変わった練習をしましょう!」

「変わった練習?」

「コンビネーションブーストです!」


 レイアはこの勝負、絶対に王子に勝利して欲しかった。

 そのためなら自分の身を捧げるつもりだ。

 継承権は関係ない。レーサーとしてのプライドを彼に持って欲しかった。


「頑張ってくださいね。貴方達ならきっと勝てますよ」


 マスターはカップを置きながら、聞こえぬ様に呟いた。

 その足元には、ボード状の魔道具が置いてあった。

~ビャッコ先生の解説教室~


やあ。王子が決意を固めた、第八話は面白かったかな?

今回登場して、ドア・オリジンについて勉強しよう。


彼は王様の弟の息子。セド王子の従弟なんだけど。

昔から悪戯が好きで、大人を困らせて楽しんでいたようですよ。

偉い人なので、誰にも叱ってもらう事がなく、それはそれで寂しくてグレてしまったんですね~。


好きなものは甘い物と周囲の反応。趣味は悪事と旅行だそうです。

実は裏でとっても悪~い奴らと繋がっているとか。

三下の様な性格ですが、レーサーとしての実力は確かなんですよ。


こう見えて、悪事のためなら努力を欠かさない人らしいですよ。

その神経を、どうして良い事に使わなかったのかって?

いやいや、人間は好きな事にしか、努力を表せないものなんですよ。


少し頭の方は残念ですが、放置しておくと危険そうですね~。

それでは皆さん、ごきげんよ~。

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