第9話 レース開始!
レース当日。レイアもセド王子も、体調を万全に整えてきた。
ここまで来たら、王子に残された関門は一つ。
本番の緊張感に勝てるかどうかだ。
大事な一戦の前は、特に緊張する。
体を強張らせれば、本来の力を発揮できない。
「王子。緊張をほぐす方法。覚えていますか?」
レイアは事前に教えていた。
きっと初レースのセド王子が、緊張に飲み込まれると予想した。
「ああ。自分が緊張していると、認識することだったな……」
落ち着こうとせず、ただ緊張している事を受け入れる。
レイアが父から教わった方法だ。
今日はレイアの復帰戦も兼ねている。
二人共大舞台の前で、緊張を隠せない。
――でも自分がここで不安を見せる訳にはいかない。
レイアはプロとして、落ち着いた態度を見せていた。
「そろそろですね……。行きましょう!」
レイアとセド王子は、ピットから出た。
眩い光に照らせれたサーキットに、レーサー達が並ぶ。
今回参加するのは、王族とその従者のみ。
レイアはどんな人物が参加するのか、確認した。
まずはドアとその従者からだ。一番問題となっているのは彼ら。
従者は王族の隣でスタートする。レイアはドアの左右を見つめる。
「コンド……! アイツもレースに出るのね……」
コンドは左右に角の生えた、ソリに乗っていた。
彼がレース出来るかは未知数だが。
やはりドアと繋がりがあったのは、見間違いじゃなかった。
もう一人の従者は知らない人物。
仮面で素顔を隠しているが、女性であることは分かった。
その髪型はどことなく、レイアに似ている気がする。
――私に未練があった……。訳がない。
コンドは貪欲な人物だ。
ドアを王族にして、傀儡政権を立てるつもりなのだろう。
「他のレーサーは……」
レイアは他の従者達を見た。殆どが知らない人物だ。
恐らく王族が必死で集めた、無名のもの達だろう。
たった一人。異様なオーラを出している人物を覗いて。
「ゲンブ!? 彼もこのレースに?」
圧倒的強さを見せるゲンブが、他の王族の従者として出場。
このレース簡単には勝てそうにない。
レイアは息を飲み込みながら、スタートラインに立つ。
「さあ! いよいよ! 王位継承者を決める異例のレースが開催されます!」
実況が演説を上げた。遂にレース開催まで秒読みに入る。
大丈夫。昨日までの練習を考えれば……。
レイアは王子を信じて、スタートに集中する。
「王位を手にするのは誰かのか!? 合図が出されます!」
スタート開始のランプが光る。緑、黄色、次が点滅したらスタートだ。
レイアはこのタイミングで、魔道具に魔力を込めた。
スタートダッシュ。開始から飛び出すテクニックだ。
「レーススタートぉ!」
実況の言葉と同時に、赤いランプが光る。
レイアは魔力を解放して、一気に飛び出した。
レース開始と共に、上位に向かう。
レイアは王子のを確認する。
彼は後ろの方に居る。それも作戦だ。上位の者は狙われやすい。
レイアが囮となり、セド王子から注意を逸らす。
「流石はレイア選手! ブランクを感じさせない走りだ!」
レイアは現在二位で、トップのゲンブを追う。
その背後には、ドアの従者である謎のレーサー。
並走するようにドアが走っている。
「いきなり首位争いだ! この四人が圧倒的過ぎるぞ!」
レイアは当然だと思った。王族の従者は殆どが、素人。
お金でプロを雇う事も出来ただろうが。プロは下級貴族か平民が多い。
王位継承権のあるものは、立場的プライドが許さなかったのだろう。
「今日は随分綺麗な走りね……」
レイアは不気味なほど静かな、ドアを警戒した。
彼はラフプレイで、有名なレーサーだったはず。
今日は攻撃を行わず、テクニックだけで走っている。
「おっと! 後ろから凄い速度で、近づく選手が居るぞ!」
レイアは実況の声に反応して、背後を見た。
コンドが徐々に加速しながら、自分達に近づいていく。
魔道具のが頑丈なのか、他のレーサー達を弾いていく。
あっという間に最高速度を上げて、レイア達の列に加わる。
レイアはその走りを見て、驚きを隠せない。
魔道具の扱い方がプロのレベルだ。
コンドが操る魔道具は最高速度が速い代わり、加速が遅い。
初心者が使うような魔道具ではない。
彼は扱いの難しい魔道具を見事に操っている。
「ンハハハ! レイア! 怪我が治って良かったな!」
コンドはレイアと、並走を始める。
嫌味な笑顔が更に邪悪さを増している気がした。
「コンド……! お前は一体……」
「この世界には、お前達の知らない事が沢山あるのだよ!」
コンドの最高速に、レイアは追いつけない。
徐々に抜かれていく。
「例えば、地下レース場とかな!」
コンドはレイアを抜かし、目の前を走る。
「お前とゲンブには、早々にリタイアしてもらうぞ!」
コンドは徐々に速度を緩めてきた。
レイアとの距離が詰まる。彼の魔道具にぶつかれば、レイアは弾かれるだろう。
左右に避けるため、体を動かそうとすると。
「おおっと! そうはいかないぜ!」
ドアの魔道具から、光線が飛んできた。
レイアの左右に広がり、彼女の進路を妨害する。
更にドアはレイアの真後ろに向かった。
「左右もダメ。前後もダメ。終わりだなぁ~。レイアぁ!」
コンドが嫌味らしい言い方で、レイアに告げる。
そんな彼をレイアは、鼻で笑った。
「これで諦めたら、レーサー失格よ」
レイアは体を回転させながら、減速した。
僅かにブーストして、背後に加速する。
そのままドアの魔道具に、体当たりした。
「うぉ! マジかよ!」
ドアは弾かれて、背後にスピンした。
レイアは隙をついて脱出。コンドの体当たりを回避する。
「ああ! 俺様の魔道具はデリケートだから、傷とかダメだって!」
持ち直したドアが、その場で傷を気にし出した。
「お先に~」
「ちっ……」
減速をしたせいで、レイアの最高速が勝る。
コンドは次の加速まで、時間がかかるだろう。
その間に出来るだけ、距離を離そうとした。
「良くもやってくれたな! 俺様のお返しだ!」
ドアがコンドを追い抜き、レイアに近づいた。
得意のラフプレイで、レイアを追い詰めるつもりだ。
火球弾を発射しながら、彼女の走りを妨害する。
「おおっと! 背後からもう一人、近づく影が!」
「ええ!? 誰だよ! 他の奴はコンドが潰したはずだろ!」
背後から近づいたのは、セド王子だ。
敢えて速度を緩めた彼は、コンドの攻撃を免れていた。
セド王子はレイアと同じ動きで、ドアと並走する。
「ドア!」
セド王子は攻撃中のドアへ、体当たりを行った。
サイドアタック。並走するレーサーを攻撃するテクニックだ。
攻撃中の魔道具は魔力を消耗している。
セド王子の魔道具は、まだ魔力が満タンに近い。
出力でドアの魔道具に勝ち、彼を再びスピン状態へ。
「ええ!? お前そんなに走れんのかよ!?」
ドアは減速して、一気に首位争いの最下位に。
「ええい! どいつもこいつも! 俺様を馬鹿にしやがって!」
ドアは逆走を始めた。
「見てな! これが俺様の新しい技よ!」
ドアはラッパ状の口から、光線を吐き出した。
光線の反動を使って、後ろ向きに加速する。
「これぞ秘儀! 魔道ブーストだ!」
ドアは遅れを取り戻して、コンドの横まで復帰する。
コンド達はレイアとセド王子の間近まで来ている。
「ドア。前方不注意だ」
「え? なんだって? 良く聞こええねえよ!」
コースは急カーブに差し掛かった。
全員がドリフトをする中、ドアだけが加速をする。
そのままレーンに突っ込み、コースアウトした。
「ああああああ!」
断末魔と共に、ドアの魔道具が爆発する。
コンドは呆れた溜息を、吐き出した。
「王の器には、程遠かったようだな……」
「なんという事だ! 優勝候補のドア選手が、脱落したぁ!」
レースはまだ半分走り切った所。
レイアの背後で、仮面のレーサーが不気味な沈黙を保っている。
「さあ! このレース! 一体どんな展開を見せるのかぁ!?」
~ビャッコ先生の解説教室~
やあ。いよいよレースが始まった第九話。面白かったかな?
今回は少しだけ話に出た、地下レースについて解説しよう。
地下レースとは中継されない、認知されていない魔道レースなんだ。
違法な賭けや、本来禁止されている行為も許される。
犯罪者のレーサーが多い、非常にブラックなレースなんだよ。
流石に地上と違って、地下にレース場をホイホイ作れないから。
コースは少ないんだけど。観客の楽しみは、残虐なファイトなんだ。
血の気の多いレーサばかりだから、表のレースに比べてクラッシュが多いのが特徴だね。
あの一番悪いコンドは、地下レースの優勝常連だったんだ。
実はね。地下レースを主催しているのは、コンドの家なんだけど。
実家のお金を渡したくなくて、レーサーになったんですって。
だったらそんなレース開催するなって、話ですよね!
それでは皆さん。ごきげんよ~。




