ちょっと待て、ウル王国にルガルパンダだって
「ちょっと待て、ウル王国にルガルパンダだって?! 本当にそう書いてあるのか?」
俺の声が興奮で大きくなる。シュメール神話と一致する。しかも地理的にも西に一万キロで合っている。
ウル王国いうのは六〇〇〇年以上前に、中東に現れたシュメール文明の王朝の一つで、ルガルパンダというのはその王国の最後の王だ。さらにルガルパンダの王妃の名前はニンスンだったはずだ。
さらにアヌンナキというのはシュメール神話の神で、アヌンナキが自らの遺伝子とサルの遺伝子を掛け合わせて人類を作り出した人類創造神話に出てくる神だ。
開戸妹が言っていることが事実だとすると、シュメール文明はアヌンナキが滅ぼしたということになるんだが……。史実では人類最古のシュメール文明は四千年ほど前に忽然と痕跡も残さずに消えている。でも、それはチグリス・ユーフラテス川を南下して、他の民族と融合したためだと学会では定説だ。
しかし、シュメール文明はアヌンナキに滅ぼされ、その王妃は方舟で厄災を逃れて、日本にやって来ていただと?
とんでもない出土品に頭が付いていかない。そんな俺に新たな発見の報がもたらされた。
「先生、粘土版の下にさらに粘土版があります!!」
「本当か!! それはなんて書いてあるんだ?」
故人のお墓なら、石板に残されるのは墓碑銘だろう。この国だけでなく世界中に見られる風習だ。故人の偉業や軌跡みたいなことが書かれているはずだ。
「えっと『&%$」#)(&!*+{})*?+』かな。没年ウル歴三二〇年七月五日、エンキドゥここに眠る。ニンスンとギルガメッシュ王子を方舟の爆発の衝撃から身を挺して守ったと功績を讃えるため、ギルガメッシュが建立すると書かれています。どうやら、ギルガメッシュはこの第五大輪部落の長となり、エンキドゥの墳墓の造成をこの地の人民に命じたようです」
「マジか?! シュメール文明が誕生して四千年後、いまから四千年前で地層的にもあっている? だが第五大輪部落って?」
「この集落の名前みたいです。第五っていうのは……、五番目? 五種? とにかく同じ目的の集落が五か所以上あるみたいなの」
この集落の大輪っていうのは環濠集落(周囲に濠を巡らせた集落)のことか? しかし、この集落の規模からして、三百人最盛期には五百人はいただろう。それらの民衆を流れ着いたわずかの間に制圧したのか? にわかには信じられない話だ。
「開戸さん、ほかには何か書かれていないか?」
「そうですね。この地に流れ着いたニンスンとギルガメッシュに付き従う十三人は、火を噴く筒を持っていたらしくて、それらが火を噴くと号砲が鳴り響いたそうです。それに、ギルガメッシュの方はまだ、乳吞み子にもかかわらず、不思議な言葉を使い地揺れや雷を起こし、自然を操ったと書かれています」
「なるほど、鉄砲みたいなものを持ってきたわけだ。まだ石斧や石包丁の縄文人じゃ太刀打ちできないよな? それに赤ちゃんが言葉をしゃべり、自然を操る不思議な力を発揮したんだ?!」
「先生、その呆れたような物言い……、信じてないでしょ!! 本当にそう書いてあるのに!! 結局一年ほどで墳墓は完成し、エンキドゥを埋葬した後、ルガルパンダ王の意志を継ぎ古代蛟龍を探す旅に出たとのことです。この部落の言い伝えの中に古代蛟龍の話もあり、その中に他の大輪集落があったみたいで……、そこを目指して出発したみたいです。
ここに居た間に、色々とシュメール文明を伝授されたみたいで、言語やクサビ型文字もそうみたいですね」
「開戸さん、ありがとう。そこに書かれていることが事実なら大変なことだけど……、開戸さんの言葉を事実だと裏付けるためには、これらの遺物をさらに調査しないとだめだろうな。さて時間も時間だ。今日の作業は終わりだ。ところで……」
俺は手の甲に浮かんだ鱗型の痣について聞こうとしたけれど、もう、三人の手の甲はなんの痕跡も残っていない。おかげで訊きそびれてしまったが、あの痣と彼女たちが訳の分からない力は関係があるみたいだけど……。
この発掘現場は、調査を始めてからもう1年近くが経っている。ここは道路工事のために行った緊急調査個所だ。後2か月ほどの調査が終われば埋めてしまう場所だ。
それが今日、世界的にも珍しい石板に金属製のボルトというオーパーツというオマケまで出てきてしまった。放射性炭素年代測定が終わり、これらの遺物が四千年前ものだと認定されれば……、この恵山発掘現場も有名になるだろうし、その現場で指揮をとる俺もこの世界でメジャーの仲間入りだ。
そこでハタと気が付いた。この幸運は訳の分からんチートを持った三人娘のおかげじゃないか?! ここは彼女たちに媚びを売っとく?! いや、知りたいのは彼女たちがどうしてこんな力を身に着けたかだろ? できれば俺もそんな力を身に着けたい。
俺は会話が盛り上がっている吹戸たちに声を掛けた。
「吹戸、今日、この後このゼミの歓迎会をするんだろ? 俺も参加していいか?」
「先生、どうしたんです? あんまり興味なさそうやったのに」
「俺も今日の発見に祝杯を上げたくなったかな」
「ちゃうちゃう。うちらの誰かと付き合おうちゅう魂胆やないの?知らんけど」
「根戸さん、心外だぞ。俺は同じゼミ仲間としてもっと結束を固めようとだな……」
「思ったより今年のゼミ生は優秀ですからね」
唯一静かだった助手席の瀬戸さんが冷静に返してきた。
「んっ、瀬戸さん、その通りなんだ。瀬戸さんを始め、今年はゼミ生に恵まれたよな。幸先のいいスタートも切れたし……」
「じゃあ、今日は先生のおごりで」
開戸兄の抑揚のない喋りは冗談に聞こえない。というか、コミ症の開戸兄は相手の立場に立って物事を考えられないから、相手を怒らせるよな。
「あのな……」
「先生、今日の発見のおかげで、テレビやら講演会やら引っ張りダコ、本も出版して印税ガッポガッポですやん。ここは投資や思うて、女性陣の機嫌をとっとかんと」
俺の言葉をぶった切って、吹戸が何とも魅力的なことを言ってくれる。世間ではこういうのを捕らぬ狸の皮算用って云うんだろうけど、大丈夫、勝算はある。