前の時も、開戸兄の軍歌でピンチを切り抜けられた
前の時も、開戸兄の軍歌でピンチを切り抜けられたよな……。その考えが浮ぶと、この巨岩に刻まれたクサビ文字の意味が閃いた。
『災禍は放たれる。戦人を戦歌で讃えよ。さすれば戦人は武士となろう』とは、戦歌を聞いた人を強くする鬼法みたいなものか? だが、暗黒粒子という触媒に作用できるのは俺だけ……。でも、俺に軍歌は歌えない。
「形代先生、どうすんの?」
戦況を見ていた根戸が声を掛けてきたが……、俺は思考に沈んでいた。瀬戸が言っていた。幼子のギルガメッシュは従者のエンキドゥを強化して戦わせたと言っていた。
俺にそう俺の名は形代、形代っていうのは、元々、神の依り代のことだ。縄文時代から土偶として形代はあった。時代が下って人の身代わりのことになっていったが……。
縄文時代は確かに神の依り代なのだ。
いや、俺の依り代を開戸兄にすれば……。魂が抜かれたような佇まいで、軍歌を歌っている。今は「隼戦斗隊の歌」に変わっているようだ。
「おい!! 開戸!!」
「はい?!」
魂ここにあらずの開戸兄の方じゃなくて開戸妹の方が返事をした。それでもかまわない。
「おい、大和言葉で俺って」
「? 意味が分からない」
「俺っていう固有名詞だよ。鬼法が使える!!」
「……、形代先生の固有名詞、形代先生が鬼法を使えるのは、王族の末裔だから……、現人神?」
そんな感じなんだ。じゃあ、俺の力の一部を開戸兄に!! 背中に手を当て力を送り込む。
「依り代、あらひとがみ!!」
開戸兄が淡い光りに包まれた。これは上手くいったか? これで、開戸兄の口から出る軍歌は呪文の如く暗黒粒子を媒体に鬼法を発動するはず。そう考えて、開戸兄の歌声を風鬼法で今戦っている戦闘機や戦闘ヘリそれにドラゴンたちの耳元に送り届けた。
その変化は劇的だった。
ドラゴンどもに向かう戦闘機はブレスを機敏な飛行で次々と躱し、20ミリ機銃砲を連射する。その姿はまさに空飛ぶ剣、物理法則を無視した縦横無尽な動き、そして、威力が上がった機銃砲。反対にドラゴンの防御力の低下。蝙蝠の羽がハチの巣になり、ドラゴンどもが大地に墜落していく。
地面に墜落したドラゴンに、戦闘ヘリから発射された空対地ミサイルが炸裂した。あとはホバリングした戦闘ヘリからガトリング砲が火を吹き、あたりに轟音と土煙があがった。どうでもいいことだが、ちょうど開戸兄は、その時軍艦を轟沈と口ずさんでいた。
そして、土煙が収まると、ぼろ雑巾のようになったドラゴンの躯は粒子になり消えていったのだ。
そして、そこに輸送用ヘリコブターが飛んできて、何十人もの自衛隊員がロープで降下していくのが見えた。これから救助に向かうのだろう。これ以上は俺たちにできることは何もない。
「さて、俺たちは仙台に向かうぞ」
そう云って、隣に立っている開戸兄の肩を抱く。気力を消耗したんだろう。ふらふらと俺にもたれかかってきた。それを見て、反対側を吹戸が支える。いい奴らだと本気で思う。
車に乗り込むと、東北自動車道は不通なので一般道を南下した。
◇ ◇ ◇
3時間後、やっと日本三景松島に到着した。
20キロほど南下して紫波インターから東北自動車道に乗ったが、目的の仙台宮城インターまで行けなかった。驚いたことに目的地の仙台もドラゴンに襲撃され壊滅状態みたいなのだ。
ラジオとスマホで情報を取集すると、仙台中心地から直径10キロの範囲で町は壊滅状態だということが分かった。予約した仙台のホテルと連絡も取れない。それで、急遽今日の宿泊地を松島に変更したのだ。
適当なビジネスホテルを見つけて今日の宿に決めた。ロビーで見たテレビもドラゴンのことばかりだ。盛岡と同じく松島基地からスクランブル発信した戦闘機と戦闘ヘリがドラゴンと空中戦を展開。
ただし、仙台での被害は盛岡の比ではなかった。性能で太刀打ちできない戦闘機や戦闘ヘリは上空からの自爆覚悟の特攻で地上に足止め、仙台駐屯地の陸上自衛隊は大きな被害を出しながら、集中砲火でドラゴンを仕留めたらしい。今は、瓦礫の山から生存者の救出のため、同じように被災した仙台駐屯地の自衛隊が出動していた。
たった3匹のドラゴンに仙台は壊滅状態なっていた。




