一段落ついたときにスマホが鳴った
一段落ついたときにスマホが鳴った。
なんだ?誰かまだ言いたいことがあったのか? スマホの画面には見たことがない電話番号だった。
「もしもし?」
「あの、函館五稜郭大学の教授の形代さんですよね」
丁寧な対応をする女性?に全く心当たりがない。いや、もう大学のハイエースをぶっ壊したのがバレたのか? まさか、俺に修理代を払わせようと事務の女性が電話を掛けてきた? 保険は?またカードで支払い? 月々の支払はいくらになるんだ?
混乱した俺は応答するのも忘れてオロオロしていた。
「あっ、失礼しました。私、函館テレビの花形といいます」
俺が応答しないのは、相手が何者か分からないからと判断したのか、慌てて相手が名乗ったのだ。
「ああっ、今日、恵山発掘現場にきたアナウンサーさん?」
そういえば、テレビ放送をするということで、電話で何回かテレビ局の人と話をしている。俺の連絡先やゼミの学生のプロフィールを提出していた。
「はいそうです。今日は本当にありがとうございました」
「いやいや、俺はあなたを安全な場所に連れて行っただけで……」
「そんなことないですよ。ドラゴンのブレスを跳ね返したのは形代さんの力でしょ」
「とんでもない。俺もダメだと思いましたよ。意外と当たらないもんなんですね」
「そんな……、絶対、見えない壁がありましたよ!!」
「そんなことないです。慌てていたから勘違いしたんですね。そんなバリアみたいな物、普通の人間がどうやって出すって言うんです」
俺はごまかそうと必死だ。大体、気が動転していたんだ。強引に否定すれば押し切れるはず……。
「だって形代さん、ドラゴンの頭を金属バットで吹っ飛ばしていたじゃないですか? そんなこと普通の人には出来ません!!」
「あれは無我夢中で、あの高さから落ちんだから、首の骨が折れて脆くなっていたんじゃないですか?」
「そんな……、警察の人が落ちていた鱗を見て驚いていましたよ。下手な金属より硬くて軽いって。正確な分析は鑑識に回すって」
「あの鱗が……」
「そうそう、あの事件なんですけど、警察からの指導で、あの発掘場所から出た不発弾の爆発が起こった事件ということで報道します。かん口令強いて隠蔽するってことなんですよ。六人の死者と二〇人以上の重軽傷者が出た事件なのに……。
もっとも残念なことに、こっちもカメラマン一人の死亡に中継車一台、予備のカメラと合わせて2台のカメラが壊れて、記録も何も残ってないみたいです。軽症で済んだ人たちも、誰一人ビデオで撮ってなくて……、悔しいですが、警察の言うことを聞くしかないんです。そちらの学生さんもビデオに撮ってないですよね」
助かった。映像としては残っていない。しかも、バールを金属バットだと勘違いしてくれている。しかも事実を捻じ曲げて公表するお膳立てまで……。
こちらに都合がいい。これで、こっちに注目されることなく調査を進めることができる。アヌンナキが住む惑星ニビルは四〇〇〇年ごとに地球の公転軌道に接近するのだ。ニビルが接近するまで後何日ぐらいあるのか? せめて対抗できる方法を見つけだすまでは公表は避けたい。
「どうしたんですか? 不満じゃないんですか? そっちにも行きますよ警察。口止めのために。もっとも、私はこれで終わりとは考えていないんですよね。大きな事件の始まりに過ぎないって、私のジャーナリストの勘が訴えるんです。うちの得ダネなんで、警察には色々とぼかして証言しています。いずれ、協力してくださいね」
「はあ~、分かりました。色々とありがとございました。じゃあ、電話を切りますね(そういうことか)」
俺は、相手の了解も得ずに電話を切った。どうやら、金属バットは花形さんの創作らしい。そして、もし、そちらにビデオがあったとしても、警察には無かったことにしてほしいと言っているのだ。
俺は大学の野球部の倉庫に向かった。
ドラゴン襲撃事件から二日後、すなわち憂鬱な月曜日に警察が大学やってきたのだ。
形代ゼミの連中は、一人ずつ会議室に呼び出され事情聴収された。俺は最後に呼ばれたが、警察が紳士的だったのは、名刺代わりに警察手帳を出したところまでだった。そこからは事情聴取という取調べだ。思わず私がやりましたと言ってしまいそうなる。
待て待て、六人も殺したのはドラゴンであって俺じゃない。無実なんだから精神的に踏ん張って何とか対応する。ヤバいところは「よく覚えてません」「気が動転していたので」でやり過ごす。
最後に金属バットを見せてくれというので、ハイエースに積んだままなんで取りに行くと答えると一緒に行くと言ってついてくるのだ。そして、トランクに積んでいる金属バットを差し出した。
「一応預かっていきます。これで、ドラゴンの首を叩き飛ばしたという人が何人もいましたので」
「そんな大それたことやった記憶が無いんですけどね……」
「まあ、われわれも現場に残されたドラゴンの鱗と言われるものを分析する限り、そんなことができるとは思えないんですけどね」
「ドラゴンの鱗の分析ができたんですか?」
「確かに、鱗の成分はハイドロキシアパタイトで歯や骨と同じ成分だけど、その分子の結合が強固で、鉄以上の硬さなんだよ。金属バットで粉砕できるはずが……」
「じゃあ、もし、あのドラゴンが日本を襲ったら……」
「ドラゴンがどんなものかは、目撃情報しかなくて、まるでUMAなんだが……、一応、二〇mm重機銃の徹甲弾ならぶち抜くことができたらしい。今、念のため配備を進めているところだ。北海道には自衛隊がいてよかったよ」
「そうですか!!」
ドラゴンに近代兵器が通じることに安堵する。
「君はまたドラゴンが襲ってくると思うのか?」
「それは……、分かりません。でも、無いとも言えないでしょう」
「同じように心配していた人も他にもいた。大丈夫だ。市民を守るのは俺たち警察や自衛隊の仕事だ。安心して暮らせるように頑張るから」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあ、自分たちはここで」
そういうと、俺の渡したバットを持って、止めてあるパトカーに乗った。
野球部には悪いことをした。でも、なんの変哲もない金属バットだと分かれば返してくれるだろ。アヌンナキの生物兵器「ドラゴン」とは、いずれ全面戦争に……。
俺は空を見上げて考えるのだった。
◇ ◇ ◇




