この惨劇の元凶が消えた後
この惨劇の元凶が消えた後、耳に触るのがパトカーのサイレン音だ。十数台の赤色灯が疲れでかすむ目に突き刺さる。武装した警察官がパトカーから飛び出してきて、状況を確認しようと、生存者の元に走ってくる。
俺は……、面倒なことはごめんだ。
みんなの待っているハイエースの方にふらつきながらたどり着いた。運転席に座った俺の目に慌ただしく動き回っている人たちが目に入る。特に中継車の周りに人が集まっている。さっき俺が立っていた近くで尻餅をついて動けなくなっている美人アナウンサーも、警察官と消防隊員が取り囲んでいる。
(もう、大丈夫)そう考えて俺は後ろを振り返りゼミの全員に確認をとる。
「撤収な」
俺の言葉にコクコクと頷く面々。全員、煩わしいことはごめんだと顔に書いてある。俺も頷くとセルを回す。
ブロロローッ!!
エンジンが掛かった。よし動く。運転に邪魔になるひび割れたフロントガラスをバールで粉々にして、視界を確保。
動き出した車を見て、警察官が赤橙を振りながら走ってくるが、別に悪いことをしているわけじゃない。俺たちを止めたいんなら令状を持ってこいとばかりに、そのまま工事現場から道路へとバリケードを蹴散らし大学の方に向かう。
「せんせぇ~、さっきのってなんなん?」
「ツッコミどころ満載でどこから突っ込んだらええのかわからん」
根戸、いつもの「知らんけど」が無いぞ。吹戸、別にボケたわけじゃないぞ。と関西なまりの会話から始まった車内。まったく、こんな時でも物怖じなく話せる関西人の性格には救われる。
「根戸、俺にもよくわからん。やっぱり、先ずは瀬戸さんがエンキドゥの骨から読み取った残留思念の内容を聞きたいな」
「そうですね。さっきはあんな状態だったので断片的なことしか話せなかったので」
「で、先ずはあの魔法の原理だけど……」
「そうですね。あれは魔法ではなく鬼法と云って、自然を支配する力です。原子と原子の間は原子の大きさと比較してかなり広い空間があります。まだこの世界では発見されていませんが、このスカスカの隙間は暗黒粒子という粒子で満たされているんです。その暗黒粒子は大和言葉に感応して原子を活性化し事象を変化させることができるらしいのです。要は森羅万象を思い通りに動かせるということですね」
「そういう思想って昔からあるよね。言霊信仰ってやつでしょ」
開戸妹の言葉に俺もうなずく。
「昔からそういう事実に気が付いていた人がいるということだ。まあ、神が天地創造した時に仕込んだ管理システムだろうな」
「だけど、それを実行できるシステム管理者はアヌンナキとアヌンナキの遺伝子を引き継いだシュメールの王族の長子だけだと記憶に見せられたわ。しかも、伝授されるのは先代が死を予感した時のみ。なぜ先生がその鬼法を使えるのか分からない」
「だったら、俺はシュメールの王族の末裔ってことなんだろ?」
「はっ、ありえん!!」
「いや、開戸兄、高貴さが漂ってるだろう」
俺と開戸兄の掛け合いは、瀬戸にすっかり無視されて話が進む。
「でも、私が読み取った情報だと、神に反逆できないように遺伝子を引き継いだ王は25歳までに死ぬ呪い(遺伝子操作)が施されているって、先生って30歳だよね」
「おう、確かにうちの家系の直系はみんな早死にだな。墓参りに行って驚いたことがある。親父も爺さんも若い時にいきなり心臓が止まってるな。まるで時計の針が止まるように突然だった。だが俺は根性で生き延びたな!!」
「根性で死の呪い(遺伝子操作)から逃れられたら苦労せえへん」
吹戸に切れ気味にツッコまれたけど……、俺自身、親からそんな一子相伝の力の説明は受けたこともない。説明可能な最後のピースが揃わなくてイライラしているのは俺も一緒だ。
思い切って口を開いたのはエンキドゥの骨から残留思念を読み取った瀬戸だ。
「でも、私の見せられた光景って、さっき先生が戦った景色とそっくりだった。どうやら、エンキドゥはアヌンナキにマーキングされていたみたい。そのマーキングって頭の中の考えさえトレースするもので、エンキドゥの思考を読んでドラゴンが召喚され攻撃を開始したみたいね」
「なるほど、当時も、今日みたいに竹節から現れたドラゴンに攻撃されたんだ」
「そうなの、絶体絶命のタイミングで魔法に覚醒したのが王妃に抱かれたギルガメッシュ王子だった。最後にとどめを刺したのは、王子が回復鬼法と身体強化を掛けたおかげでエンキドゥはドラゴンを倒すことができた。
あのバールはこの日ノ本の物ですね。ギルガメッシュ王子が竹節という次元ゲートで送りこまれたドラゴンに襲われ、間一髪のところで鬼法に目覚め、形勢逆転したけど押し切れない。そんなときに恵山の瀬戸神社のほうから飛んできたようです。それを拾い上げたエンキドゥがドラゴンを撃滅して……、ほっとしたんでしょう。そこから先は記録にはないですね」
「回復鬼法もむなしく、ドラゴンを撃退したところで死んだということか……。 あの傷だもん。よほど高い忠誠心を持っていたんだろう。なるほど、瀬戸さんが残留思念を読んだことで、そのエンキドゥの当時の感情をマーキングを通してモニタリングしていた何者かが、今この現代にもドラゴンを竹節の次元ゲートから送りこんできたわけだ」
「ドラゴンが現れたのはそういうことだと思うんですけど……、そのバールについては何もわかりませんでした」
「そうか……」
俺はそう呟いて、座席のところに置いていたバールを撫でた。
瀬戸のサイコメトリーの話は一段落がついた。これであの石板と合わせて、四〇〇〇年前の出来事がほぼ理解できた。さて問題はここからだ。
「さて、今日はどさくさ紛れて逃げてきたけど、警察だってマスコミだっていずれ取材に来るだろ。どこまで話すか一応をみんなで決めておく必要があるだろう。誰かさっきのことをビデオに撮っている奴はいるのか?」
そこで手を上げたのは開戸妹だ。確かに、生き残れる余裕が最初にできたのは開戸妹だろう。俺もドラゴンが現れたのは大勢が目撃した以上しらばっくれるのは無理として、瀬戸が骨からサイコメトリーした内容とビデオは公表しないことで了承を得た。
話しがまとまったところで大学に到着した。さすがに疲れた顔の面々を見て解散を言い渡し、早々に帰らせて俺一人残って道具を倉庫に片づけていた。




